表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 七章
60/78

3話

「やめ⋯⋯っ! ぐっ⋯⋯!」


 アレは⋯⋯ハルマ?


 先に行ってたはずなのに、米粒だった位置から変わってない?


 待っててくれたにしては、フラついてて様子がおかしいし⋯⋯。


 ハルマのすぐ隣の木の陰に、ちらちらと赤い炎が揺れる。


「奥に何か⋯⋯」

「これはマズいねぇ。能力使ってる」

「は? ハルマに?」

「うん」


 どういうことだ?

 なんで?


「妖倒士同士での戦いは、許可をとらないとダメだって⋯⋯」

「バレなきゃいーんだよ! 俺は、」


 ゲスで聞き心地が最高に悪い声が響く。


「この、オブツの兄貴だからなあ!」


 それを聞いた瞬間、頭がサアッと冷えた。


「あっコア!」


 走り出す勢いでエルの手を振り払い、刃状にした魔力を水平に一閃する。


 ぐんっと一気に加速してとび上がると、木が倒れて開けた視界に、まだハルマを向いている人たちが現れる。


 一、二⋯⋯三人か。


 主犯とその取り巻き。大したことないな。


 今やっと顔を向けようとしてる時点で、遅い。弱い。


 俺は、方向転換用の魔力の壁を作ると、膝をバネにして、取り巻き二人を足場にけり倒す。


「へっ?」


 高くとび上がった俺は、空中で一回転して、首に回しげりを命中させてやった。


 布きれのように吹っとんだ主犯は、木にぶつかってズリ落ちる。


 俺はソイツの正面まで一歩でつめると、胸ぐらをつかみ上げる。


「おい。もっかい言ってみろ」

「は、ハア? 何を? てか、キサマは誰なんだ。この俺に許可なく話しかけるなど⋯⋯」

「うるさい! もう一回言えって言ってるんだ!」


 つかんだ手を乱暴に揺さぶると、彼はおびえたように唇をわななかせた。


 それでもプライドを守るためか、引きつった笑みを浮かべる。


「ぁ⋯⋯アイツがどんなものか知らないのか? 憎き妖の血を引く半妖だぞ!? 俺はその兄で、オブツだと、事実を言ったまで⋯⋯ヒッ」


 腹の底が煮えくり返って、朝食ったご飯が胸のあたりに感じられる。


 そのせいか、動悸もはやくなって、いくら息を吸っても苦しい。


 わあわあわめいてる気がするけど、その表情、声、動きまでもが全て、胸の不愉快なところをなでて回って、カッと頭に血がのぼる。


 あーもういいや。


 コイツは、害だ。


 パシッ!


「ハルマ⋯⋯?」

「ソレはもういい。行くぞ、アドニスたちが待ってる」


 つかみ上げていた手をほどかれ、その逆の手首を引っぱられる。


 その包みこむような重低音に、ハッと我に返った。


 ⋯⋯俺、今、アイツをたたこうとしてた?


 刃状の魔力を握って?


 それって、最悪大ケガじゃすまないぞ⋯⋯!?


 記憶があいまいだけど、あのときたしかに、消してしまおうと思った。


 明確な殺意ではないけど、たしかに。


 俺はあのとき、何もしてない人間を手にかけようとしたんだ⋯⋯!


「ぃ⋯⋯っ!」


 しばらく歩いた後に、ハルマが左肩をおさえてうずくまった。


「大丈⋯⋯っ」


 声をかけようと手を伸ばした俺は、とっさに引っこめる。


 無自覚。そう、無自覚だ。


 あのとき自分で、何をしようとしたのか分かってなかった。


 それってつまり、人間を殺すことが、呼吸と同じ感覚になってたってことだ。


 そんな⋯⋯そんなの、化け物じゃないか⋯⋯!


 自覚すると一気に自分自身が怖くなって、ギュッと腕で体を抱きしめる。


 と、誰かがそっと俺の頬をなでた。


「コアは悪くない。俺がアイツに攻撃されてたから、助けにきてくれたんだよな。コアは、俺を守ってくれたんだ」


 ハルマはぎこちない笑みを浮かべ、手を離す。


 少し迷うように瞳を揺らすと、おそるおそる俺の頭に手を置いた。


「コアは優しい。だから、自分を責めないでくれ」


 俺をはげましてくれてるはずなのに、どこか痛々しい表情で、俺は言葉を失う。


 自分で言ったことが、ブーメランで返ってきて、それを必死に見せまいとしてるみたいな。


 どうして、そんな表情を⋯⋯。


「⋯⋯俺が言えた話では、ないかもしれないが。俺は、新しい環境で楽しむんだって決めてる。半妖でも、みんなと同じ心を持ってるから」


 ハルマはわずかにくちびるをかみ、手を膝に戻す。


 一度視線を地面に落とすと、真剣な瞳で俺を見つめた。


「死なない。ちゃんと生きる。だから⋯⋯コアも俺を信じてほしい」


 有無を言わせぬ迫力。


 けど、一切のくもりのない純粋な、ハルマの目。


 驚きもしないし、不安も晴れた。


 なんでだろうな。


 底が見えないガケのふちを走ってるみたいに、怖くてしかたがなかったのに。


 ハルマの目を見たら、そんなの風にさらわれていった。


「俺も、ごめん。つい、なんか心配になっちゃって⋯⋯。うん、そうだな。信じるよ」

「ありがと。⋯⋯でも、あとはアレだな。仮面とったことくらい、気づいてほしいな」

「お前、根に持つのな⋯⋯。家でつけてなかったから、そっちで慣れちゃったんだよ」

「二週間も気づかないのはおかしいだろ」

「ごめんって。俺、そういうのよく分からないから⋯⋯」

「おアツいところ申しわけないんだけど」


 俺が頬をかくと、エルが近くの木の影からひょっこり顔を出した。


「今さぁ、もう九時回ってるんだよね」


 ちょいちょいと、親指でエルが校舎をさす。


 え⋯⋯九時って、集合の三十分遅れじゃん。


 俺らはいつも、五分前にはつくように家を出てる。


 あんなヤツらのせいで、大遅刻だ⋯⋯!?


「はやく行くよ」

「ああ分かった。けど⋯⋯ハルマ、肩、大丈夫か? 痛いんだろ。保健室行って⋯⋯」


 俺がさし出した手をとって、ハルマが立ち上がる。


「大丈夫だ。これくらい、明日には治ってる」


 パンパンッと、膝の土を手で払ったハルマは、心配させないようにか、さっと身をひるがえして走っていった。


 ムリ、してるよな。


 急にうずくまるくらいなのに、大丈夫なわけがない。


 なんでムリする必要があるんだ?

 痛いなら、安静にしてればいいだろ。


 エルが手をたたいて、俺の意識を戻す。


「ボーッとしてないでよ。楽しいんでしょ、学校。なら、遅刻なんてしてる場合じゃないんだから」

「っ!? べっ、別に、学校が楽しいわけじゃ⋯⋯!」

「はいはい。行くよー」


 反論しようと口を開いた俺を抱えて、エルがぐっと膝を沈める。


 おろせ、と言うよりはやく、エルが地面をけり、一面が筆を引いたように緑と焦げ茶に染まった。


 肌をそぐような冷たい風が頬をなで、俺は反射的にマフラーに顔をうずめる。


 一瞬にして廃れた倉庫の前に着地すると、エルは俺をおろした。


「他にもやり方、あると思うんだけど」

「これが一番速いんだよ。まだまだ抱えやすいし」

「な⋯⋯っ!? 俺が小さいって言いたいのか!?」

「違う違う。まだ僕のほうが大きい、って⋯⋯」

「それ俺が小さいって言って⋯⋯んぐっ。どうした、エル。急に止まって⋯⋯」


 エルが扉を開けて、目を丸くして固まる。


 急に止まるなよ、鼻ぶつけたじゃん。


 ムッとして、エルの体のすき間から中をのぞいた俺も、思わず口を開ける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ