2話
「俺はな、思うんだよ。どんな命だって、大事で尊いんだって」
「ああ」
「でもな、それを助けるために自分の命をかけるとなると、話は違ってくる。助けるならやっぱ、大切なヤツがいいんだよ」
「ああ」
「だから⋯⋯な!? 俺、あれでも結構必死だったんだぞ!? もう二度とあんなことするなよ!?」
「ああ。もうしない」
淡々と、メンドくさそうに返事をするハルマ。
ザクザクと枯れ葉を踏みつつ進み、一度も俺と目を合わせない。
本当にこれ、分かってるか?
あれからハルマは俺の家で暮らしてて、もう二週間が経った。
お母さんの手伝いをしたり、エルとディルと家の裏で能力の練習をしたりして、なんやかんや俺よりも動いてる気さえする。
やらなくてもいいんだぞって言ったけど、申し訳ないの一点張り。
居候にはなりたくないらしい。
まあハルマがやりたいならいっかって、最初は思ってたけど、いつの間にか中級の妖討伐依頼を何件かこなしてたのは、さすがに止めた。
だって、一人で行くのは危ないだろ?
なんかイレギュラーが発生して、ハルマが帰ってこなかったら⋯⋯考えただけで全身の血の気が引いたんだよ。
――大事なモノはもう、全部全力で守らないとダメだよ。
ノアと約束したんだ。
大事な人はもう、失いたくないんだ⋯⋯!
「俺は生きるって言ってるだろ。もうそれ、一日三回は聞いてる。飯かよ」
ハルマがダルそうに吐き捨て、歩くスペースを上げる。
「はあー!? 絶っっっ対にテキトーだろ、お前! 待て!」
なんだよそれ!
俺はただ、ハルマに死んでほしくなくて⋯⋯。
「コア。言いすぎるのもしつこいと思うよ」
走り出しかけた俺の肩を、エルがつかむ。
言いすぎ⋯⋯?
俺が? ハルマに?
そんなことないと思うけどな。
ハルマは一回、無関係な大人数と自分を天秤にかけて、俺に殺させようとしたんだ。
正気じゃないって思うよな。
でも、実際やったことなんだ。
一回失いかけたから、どうしたって『また』を考えちゃうんだよ。
「ハルマを信じることも、大切だと思うよ。それに、ハルマは強い。仮面もとって、魔力を使えるようにもなったし」
「は⋯⋯? 言われてみればたしかに、仮面をつけてないな。外で外すのは初めてか?」
「えぇ? 今ぁ?」
エルが、あきれたように肩をすくめる。
「コア⋯⋯。俺に口出すのに、さほど興味はないんだな」
ハルマは肩ごしに振り向くと、絶対零度のごとく冷ややかーな目で俺を見下ろした。
そして、さらにスピードを上げて山を登っていく。
「ちょっ、ハルマ! ごめんって!」
速っ!?
もう遠すぎて、米粒くらいの大きさになってるんだけど⋯⋯!
そんなに怒ること!?
「あーあー。コアがやっと人に心を開くようになったと思ったのに、今までのツケが回ってきたねぇ。他人への興味の薄さ、観察して記憶する気のなさ、出てるよ」
ウッ⋯⋯!
心当たりがありすぎて、条件反射で顔をそらす。
だって、分からないんだよ。
覚えてる覚えてない、見てる見てない、とかじゃなくて。
ただ単に、ハルマはハルマだから。
昨日今日でつけてるリップ違うんだよとか、分け目変えたんだよとか、正直気づける自信がみじんもない。
リップはリップで、髪は髪だ。
それ以外の、なんでもないし。
⋯⋯って、この考え方がダメなのか?
「うぅ、難しい⋯⋯」
「まあ、そういうのもアリかもだけど。大事なのは、他人とどう接したいか、相手がどう接してほしいと思ってるのか、を知ることだよ。あとは、自分から歩みよるとか」
「どう、接したいか⋯⋯」
エルが、俺の手を引いて歩き出す。
まだまだ寒い冬の空気が、今はいつもより透明で、引っついてくるような気がした。
接し方、か。
そうだよな。
人と一緒にいるって、相手が俺の手を握り返してくれないと一方通行だもんな。
⋯⋯でも。
楽しいだけじゃ、なんとなく心地いいだけじゃ、ダメなのか⋯⋯?
「あ。でも、コアが他人に興味ないのは事実だよねぇ」
「ぅ⋯⋯」
「大丈夫だよ。僕たちはいなくならないし、ハルマは自衛できるように鍛えてる。他にも、コアの大事なモノは守るよ。だから、失うことは考えないでいい」
パッと顔を上げると、エルは真剣な表情で、真っすぐ前を見つめていた。
決意にも自己犠牲の念にも見えて、俺は結局何も言えないまま、つないだ手に視線を落とす。
ときどき思うんだけど、さ。
俺は並みの妖倒士よりは強い自覚あるけど、実際はエルたちに守られてばっかりで。
その度に、俺のせいで傷ついて。
それって、俺が弱いからだよなって、悩むときがあるんだ。
エルとディルは妖の中でも七柱で、俺と比べものにならないくらい強い。
妖側にいれば安泰だし、こっちで俺を守る理由なんてない。
エルは、妖が踏みにじってきた人間について知りたいって言ってたけど、それって俺のとこじゃなくてもできるし。
ディルだってノアのためだから、もしかしたらアルファが俺からノアを離せるかもしれないし。
妖倒士の世界には、俺より強い人がたくさんいる。
わざわざ、俺にしばられる必要なんて⋯⋯。




