おまけ
ある日の学校での出来事。
通い始めて間もない頃だ。
俺はハルマにたたき起こされて連行され、絶賛不機嫌中。
まだ早起きに慣れてないんだよ。
俺からしたら、七時はまだ夜中で、めっっっっちゃ眠い中、着替えやら朝食やら急かされるの、腹立ってしょうがないんだ!
なんてったって俺は、妖倒士としての任務を受けてるからな。バリバリの夜型なんだよ。
「もうそろそろ機嫌直しなよ。ほら、ハルマも引きずってくの、やめてあげて」
エルの言葉に、ハルマがパッと手を離し、脱力していた俺はゴンッと後ろ頭を打った。
慌ててエルが起こしてくれたけど、俺は苛立ちの原因その二を、うらめしげにじっとにらみつける。
⋯⋯なんで俺と同じ生活してるのに、そんなピンピンしてるんだよ。
理不尽だって、自分でもよく分かってる。
でもこういうのって、理屈じゃないだろ。
ムカつくもんはムカつくんだ。
エルは何も言わない俺に苦笑し、引っぱって立たせる。
「行くよ、コア」
「はーい⋯⋯」
俺はしぶしぶエルに続き、教室の前に立つ。
先について待っていたハルマが、俺らを見てから、さびた扉を開けた。
「ハル! と、コア君にエル君! おはよう!」
その瞬間、待ってましたと言わんばかりに距離をつめてきたアドニス。
教室内にはもう、他の三人もそろっていて、長机も椅子も並べられていた。
アドニスのヤツ、なんだ⋯⋯?
気のせいか目が輝いてるような気がするし、変なこと言い出さないよな⋯⋯?
アドニスは腕に下げていた袋から、プリンを三つとり出すと、それぞれの手に持たせた。
「姉さんたちが、お茶会で余ったからってくれたんだけど、僕一人じゃ食べきれなくてさ。ハルとコア君は好きだったよね?」
「ああ。甘いものの中で一番好きだな。ありがとう」
「俺も。ありがと」
アドニスって、人のことよく見てるんだな。
って、あんなとりあいしたら印象に残るか。
俺とハルマがさっそくフタを開ける中、エルが一人首をかしげた。
「僕は? 僕はなんでくれたの?」
「え? みんなに配ってるからだよ。エル君はクッキーが好きだよね。今度もらったら持ってくるよ」
「!? そう見える⋯⋯?」
「あれ、違った? この前クッキーを多めに食べてたから、そうかなって思ったんだけど⋯⋯」
「⋯⋯違くないよ。驚いただけ。プリン、ありがと」
「どういたしまして」
え、エルってクッキーが好きなのか!?
俺の家にクッキーがあんまりないっていうのもあるけど、知らなかった。
やっぱりアドニスは、人のことよく見てるんだなあ。
「⋯⋯私、プリンいらないなー。誰か食べる人いたら、あげてもいいんだけどなー」
わざとらしい声に目を向けると、一番手前の椅子に座ったアルトが、ちらちらと俺に視線をよこしていた。
「でもアルト、さっき食べるって⋯⋯」
「あー! あー! 聞こえなーい!」
「ア、アルトちゃんどうし⋯⋯」
「そういえば、コアってプリン好きだよね? 私のあげるよ」
アルトが俺から顔をそらしながら、おしつけるようにプリンをさし出す。
「なんで⋯⋯? 本当にいいのか?」
「今、気分じゃないから」
「そうか。なら、もら⋯⋯」
ふっと、そよ風に似たユルい風が吹き、俺はキッとハルマをにらみつけた。
⋯⋯やっぱりか。
「おい。それ、アルトが俺にくれたやつだぞ」
「コアをつれてきて疲れた。これくらい、いいだろ」
「よくない。返せ⋯⋯って、ペース上げるな! 少しくらい残せ!」
「嫌。⋯⋯返せ。俺のだ」
「何がだよ!」
ギャーギャーと言い合う、俺とハルマ。
すっかり観客に回るアドニスたち。
いつか見た光景に、エルはあきれたため息をつく。
「もう、どうするの、これ。止めてよ」
「なんで? 止めないよ?」
「アドニス、今度から毎回プリン持ってきて」
「了解。もらったら必ず持ってくるよ」
「ちょっ⋯⋯! 見せ物じゃないんだから⋯⋯!」
楽しむ気マンマンな彼らに、エルは眉をひそめる。
(そんなにハルマが言い争うのが面白いのかな。たしかに、コアが熱くなってるのは珍しいし、気持ちは分からないでもないけど⋯⋯)
興奮して我を忘れることも多いエルは、コアにもそんな一面があることに、ほっとしてもいた。
けど、今にも二人はつかみかかりそうなほど白熱していて、とても止めないなんてのは危ないとも思えた。
(⋯⋯ま、前回は止めたし。今回は僕も見てもいいか)
エルはあきらめのため息をついて、椅子に座った。
こんなことが、この先も続くだろうな、なんてボーッと考えながら。




