9話
「だんまりか。なら、こっちから行くぞッ!」
ハルマが地面をけって、俺に向かってくる。
ワンパターン⋯⋯いや、ハルマはたぶん、そんなことしない。
読まれたらかえてくる。
「悪いが使わせてもらう」
「な⋯⋯!? ぐぅ⋯⋯ッ!」
直前に進路を急転換して背後に⋯⋯!?
三角とびの地面バージョンってことか⋯⋯!
ドッと背中をけられた俺は、地面に魔力をつき立てて減速する。
助走がないのと体が強化されたことで、今回のけりはあんまり痛くない。
「気ぃぬくな!」
「くっ⋯⋯!」
振り返るとほぼ同時に、俺の頭を狙うハルマの回しげりが見え、とっさにかがむ。
と、一回転してきたらしいハルマの足が、ビュンッと俺の顔の横に現れた!
「⋯⋯やるな。急にどうした」
「ちょっとな。相棒が力をかしてくれたんだ」
「そう、か。いいな。」
「?」
魔力でハルマの足を受け止めた後、ハルマがポロッとこぼした言葉。
俺が首をかしげると、ハルマも不思議そうに首をかしげた。
⋯⋯なんだそれ。
「なんでお前が分からないんだよ?」
「さあ⋯⋯?」
「いいな」って、相棒に対して?
力をかしてくれたことに対して?
どっちにしたって、うらやましく思ってることにかわりはない。
どうしてだ? 殺してほしいなら、未練なんてないはずだろ。
これじゃまるで、寂しいみたいじゃないか。
ハルマは考えを断つように頭を振ると、一歩下がった。
「お前やっぱり、心から死にたいなんて⋯⋯」
「死にたいなんて思ってない。ただ、俺が解放される唯一の方法が、死だっただけだ」
「でも、そのわりには泣きそうな顔してるじゃないか」
「っ!?」
ハルマが、今気づいたように口に手を当てる。
⋯⋯俺、思うんだけど。
本当はハルマ、まだ生きてたいんじゃないかって。
ときどき見せる泣きそうな表情は、死しか救いがないって分かっていても、俺らとじゃれ合った日々を、楽しいって思ってくれてるんじゃないかって。
かすかでも、そこに光を見てくれてるんじゃないかって。
心の葛藤が、無意識のうちに顔に出てるんだと思うんだ。
たった一欠片でも。
少しでも生きていたいって思ってるなら。
俺は本人がなんと言おうと――死ぬべきじゃないと思う。
「死んだら終わりだ。生まれ変わりも転生もありはしない。後悔したって、もうやり直しはきかないんだぞ!」
「後悔なんてしない! ずっと⋯⋯ずっとこのときを待ってたんだ⋯⋯!」
「ウソつくな!」
「ウソじゃない!」
じゃあその、ムカつく面やめろよ⋯⋯!
俺は、出どころが分からない苛立ちに、グッと歯を食いしばる。
「⋯⋯もう分かった。ハルマが自分から目をそらしてるってこと」
「一番向き合った。ずっと向き合った。それで出た答えだ。何も分かってないのはコアのほうだ!」
「分かってないのはお前だ、ハルマ! 俺は、ハルマに生きててほしい!」
「だから、もう疲れたって言って⋯⋯」
「お前の望みだけおしつけるな! 俺の願いだって聞いてくれよ!」
俺が感情のままに叫ぶと、ハルマが思わぬ方向からたたかれたように、ハッと目を見開いた。
「俺とハルマの望みは正反対。同時に叶うことはない」
俺はプレッシャーを与えるように、ゆっくりと立ち上がる。
「だから⋯⋯勝ったほうに従おうぜ。負けたほうは相手の言うとおりにするんだ。こっちのが、シンプルでフェアだろ」
ハルマを説得するには、もう強行手段に出るしかない。
ハルマは迷うようにまぶたをふせた後、覚悟を決めたように俺をにらみ返してきた。
「いいだろう。ちゃんと殺せよ」
「負けたら、な」
視線で合図し合うと、俺とハルマは同時に身を沈めた。
地面をけるとすぐ、俺のわき腹にハルマの足が当たる。
「貫通」
「っ貫通!」
能力が反発し合って、俺とハルマはそれぞれ反対方向に吹っとばされる。
でも、俺のほうが一瞬遅かったから、若干痛⋯⋯くなくなっていってる?
そういえば、最初にハルマにけられた腹も、今は全く痛くない。
――私の力も使って。
体が強化されたのはノアのおかげだと思ってたけど、俺がノアの妖の体質に近づいたのか。
ハルマほどの超再生はムリでも、十分ありがたい!
俺は建物のガレキを魔力で吹っとばし、ダッとハルマのほうへ走り出す。
と、急に頭をつかまれ、地面にたたきつけられた!
「つかまえた⋯⋯!」
上から⋯⋯!?
全然気づかなかった⋯⋯!
「く⋯⋯っ! ぐぁっ!」
「俺の勝ちだな、コア。約束どおり⋯⋯」
「それは⋯⋯どうかな⋯⋯!」
「何言って⋯⋯っ!?」
俺はひじをついて起き上がると、頭を振ってハルマの手を払う。
ハルマもようやく体の異変に気づいたみたいで、距離をとろうと足に力を入れる。
「!?」
急に力がぬけたみたいに倒れこんだハルマは、体が自分の意思で動かないらしく、ピクリともしない。
俺はハルマの横にしゃがみこむと、頭をつつく。
「俺に⋯⋯何を⋯⋯」
「エルとディルに協力してもらったんだ。ほら、俺がディルの刃物を投げたときがあっただろ? そのとき、刃物を魔力でけずって文字を書いたんだ。『ハルマの動きを止めてくれ』って」
「そん、なの⋯⋯ズルだろ⋯⋯!」
「ズルじゃない。俺、一人で戦うなんて言ってないだろ」
ハルマがハッと目を見開き、悔しそうに歯を食いしばる。
⋯⋯ヘリクツだ。そんなの、俺だって分かってる。
でも、俺一人じゃ勝てなかった。
だから、助けを求めた。
辛いとき、苦しいとき、助けを求めること。
俺は、悪いとは思わない。




