8話
「っ!」
「よけたか。まぁ、それくらいできてもらわないと困る」
ガレキから顔を出した俺の頭めがけて、ハルマの足が振り下ろされる!
ギリギリよけた俺の顔のすぐ横には、足があって、粉々になったガレキが宙を舞った。
俺は、魔力の足場をけって、ハルマから距離をとる。
⋯⋯くそっ、腹が痛い⋯⋯!
速さっていうのは、重さを生み出す。
見えない上に強力な攻撃が続くとなると、それはもう、ハルマの独壇場だ。
エルもディルも動けないし、俺一人で戦うしか⋯⋯ん? 動けない?
「おい、よそ見するな。俺を殺すことだけ考えてろ」
ハルマが、トッと身軽に俺の前に着地する。
気だるそうに歩を進める彼は、やっぱり感情が感じられない。
まるで機械みたいだ。
ハルマの足に力が入り、俺は自分をおおうように魔力をドーム状に変形させる。
ドッ!
「⋯⋯なんで、守るばっかなんだ」
「なんでって、やっぱり俺はハルマを殺せないんだよ」
「理解できない。妖は殺す。それが妖倒士だろ」
「大切な、人だから」
喉につっかえかけた言葉を、震わせながらも口にする。
魔力の壁を何度もけっていたハルマが、目を見開いて固まった。
「最初は迷惑だったし、面倒だった。でも、一緒に過ごすうちに、楽しいって、もっと一緒にいたいって、そう思うようになったんだ。いつの間にかハルマは、大切な人になってたんだよ」
ハルマはまばたきすらせず、じっと俺を見ている。
もしかしたらこれ、説得できるんじゃ⋯⋯!?
希望を感じた俺は、さらに力をこめて口を開く。
「なあ。ハルマは自分が望まれた存在じゃないって言うけど、俺はハルマに生きててほしいよ。今からでも、きっと遅くはないはずだ。だから⋯⋯」
「そういうの、いい。もう疲れたんだって言ってんだろ」
ハルマがダンッと魔力の壁を殴り、もたれかかるようにしてうつむく。
なんでだ⋯⋯?
さっきまで、俺の話を聞いてくれててたのに⋯⋯。
「コア。本当に俺が大切なら」
ハルマがゆっくりと顔を上げる。
「俺の意志も大切にしてくれよ」
⋯⋯あぁ、これはダメだ。
ハルマの目は黒く沈んでいて、光がない。
いくら話しても、きっとハルマが救われることはない。
もう、目の前の『死』にしか、希望を感じていない。
そんな、悲しい目をしていた。
「貫通」
バリンッ!
魔力の壁が、ハルマを中心に円形にわれる。
「残念だ、コア。誰一人として、助けられなかったな」
ハルマは俺の胸に手を当て、耳元でそっとささやいた。
ハルマの手に妖力が集まっていく。俺を殺す気だ。
⋯⋯だけど。
俺は、恐怖よりも使命感に似た、ギュッと心臓が縮むような、よく分からない感情を感じていた。
なんで、殺そうとしてるハルマが、泣きそうな顔してるんだよ。
悲しいのはこっちだ。
このままじゃ死ねない。
ハルマを、このままにできない⋯⋯!
「貫⋯⋯」
「模倣!」
俺がハルマの腕をつかむと、ハルマは驚いたように手を引いた。
けど、逃さないっ!
「貫通!」
俺はハルマの腕を引っぱると、しゃがんで、抵抗するハルマの足元に大穴をあける。
足場を失ったハルマを、ブンッとフルスイングして右後ろに放り投げると、俺はすぐに走り出した。
地面に刺さったままだったディルの刃物をぬき、一直線に向かってくるハルマを狙う。
「やっと殺る気になったか、コア!」
刃物は当たらず、ハルマから少しズレた方向にとんでいく。
それを見たハルマは、嬉しそうに声を上ずらせ、タンッと地面をける。
⋯⋯なるほど、一歩で間合いをつめてくるんだな。
でもそれが、弱点になったりもする。
「貫通!」
俺は、足元の地面をゴッソリ消すと、魔力で足場を作って後ろにとびのいた。
「なっ⋯⋯!?」
一歩で間合いをつめる。
つまりそれは、方向転換ができないってことだ。
着地点を失ったハルマは、大穴に吸いこまれるように落ちていく。
⋯⋯そういや俺、ハルマの動きが見えてたな。
どんなふうに動いてるか、それを観察する余裕もあった。
なんでこんな急に⋯⋯っ!
『コアは一人じゃないよ』
「っ!?」
バッと横を向くと、俺よりも少し背の高い、金髪の女の子が立っていた。
立派な双翼、雪みたいな真っ白い肌。
彼女は、水色の澄んだ瞳を優しく細めて、俺を見ていた。
『私の力も使って。大切なモノはもう、全部全力で守らないとダメだよ。気をぬけば、一瞬でこぼれていくから』
「ノア⋯⋯」
無意識に、名前をつぶやく。
ノアは一瞬、寂しげな表情を見せると、徐々に体が透けて、消えた。
「待っ⋯⋯!」
俺が伸ばした手は、むなしく宙をつかんだ。
⋯⋯大切なモノは全部全力で守る、か。
できるのか?
俺、ハルマを失わないように、なんて⋯⋯。
あーくそっ! 弱気になってどうする!
元からそのつもりだろ!
俺が頬をたたいて気合いを入れなおしたとき、穴から何かがとび出してきて、反対側に着地した。
「やってくれるな⋯⋯。俺が生粋の人間だったら死んでたかもしれないが、ヌルいな。俺は物理攻撃じゃ殺せない」
「そんなこと知ってる。本番は、ここからだ」
俺が大きく踏みこんで穴の上に弧を描くと、ハルマは警戒するように低く構えた。
「おいおい弱気だなぁ! さっきまでの勢いはどうしたんだよ!?」
「っそうこないとな⋯⋯!」
魔力の足場からの三角とびで、一気にハルマの背後に回る。
⋯⋯すごい。羽根でも生えたみたいに、体が軽い⋯⋯!
動きの違いに戸惑いを見せたハルマが、体をひねって足をつき出してくる。
それを魔力の壁で防ぎ、ガッと足首をつかむ。
「ぃ⋯⋯ッ!」
ハルマの左手足を魔力で切り落とし、一歩とんで距離をとる。
バランスを崩したハルマは、地面にベチャッと倒れたものの、すぐに再生して立ち上がった。
⋯⋯本当に、魔力の攻撃もきかないのか。
いや、致命傷だったらきくんじゃないか?
「やる気になったはいいが⋯⋯なめてんのか?」
ゾッと背筋に悪寒が走る。
俺をにらみつけるハルマの目はギラギラと光っていて、怒りむき出しだ。
ヤバい⋯⋯怒らせた? なんで?
「物理攻撃も魔力も妖力も、きかないって言ってんだろ! なのに、チマチマチマチマ⋯⋯爆弾の時間だって、あと二十分だぞ! さっさと殺せ!」
あと二十分!?
マズい⋯⋯!
それまでになんとかして、ハルマを拘束できたらいいんだけど⋯⋯。




