7話
一拍の間が、一瞬で空間を支配する。
同時に地面をけった三人。
ディルが最小限の動きでハルマの首を狙い、ハルマはいなすように、軽くディルの腕に触れる。
驚いたように目を見開いたディルが、真上に高くとぶ。
ディルの背後から距離をつめたエルが、ハルマの腕をつかんで足を払い、ダンッと地面におし倒した。
「LEVEL5、分解!」
「っ!」
パッと一面が、金色の光に染められる。
腕で目をかばった俺は、光がおさまった後の光景に息をのんだ。
「うっ⋯⋯!」
「エル!」
「きたらダメだ! コア!」
走り出しかけた足元に、小さな刃物が刺さり、反射的に足を止める。
顔を上げたときには、ディルがエルを抱えていた。
エルは何があったのか、右肩が丸くくりぬかれたみたいにえぐられていて、今も大量の血が地面に落ちて広がっている。
ディルは、メスの傷だけじゃラチがあかないと思ったのか、エルの首筋にかみついた。
目に見えて血が止まっていき、エルがうっすらと目を開ける。
「⋯⋯ふふ。あっはははははははは!」
狂気じみた笑い声にハッと目を向けると、ユラリと立ち上がったハルマが、絶望したような、歓喜するような表情でエルとディルを見ていた。
「⋯⋯能力って、こうやって使うんだな。これで、俺を殺せるヤツがいなくなってしまったわけだ」
⋯⋯いや、見ていない。何も見ていない。
ただウツロに、壊れたように視線をさまよわせてる。
「ごめん。妖力をぬこうとしたんだけど⋯⋯」
「ハルマの許容範囲になったってことか。元々私たちよりもスピードが速いのに、それに加えてガンマの能力。厄介なことになったねー」
ヨロけながらも、エルは一人で立ち、服の裾をちぎって体に巻き、腕を固定する。
「貫通。ガンマのときも厄介だとは思ってたけど、妖の体も、こうも簡単に吹きとばすなんてね。そこは、半妖だからってことなんだろうけど」
「何か対策を考え⋯⋯ッ!?」
「ディル! くっ⋯⋯!」
ハルマが体をかたむけたと思うと、次の瞬間にはディルが消えてて、建物から土煙が上がっていた。
速い⋯⋯!
エルはハルマの手を間一髪でよけると、足を払おうと身を沈める。
「貫通」
「な⋯⋯っ!?」
エルの足がハルマに触れた瞬間、そこだけ切りとったみたいに消える。
右手足を失ったエルは、バランスを崩して地面に倒れ、一拍遅れて、切断されたひざから血があふれ出す。
たまらず猫の姿に戻ったエルを、間髪入れずにハルマがつかみ上げる。
「おいコア。俺の能力は貫通。名前のとおり、触れてるモノは例外なく貫通できる能力だ」
俺に話しかけて⋯⋯!?
もう誰も殺せないとか言って、俺に殺してもらいたいのはかわってないのか⋯⋯!
ハルマは俺に見せつけるように、エルの喉元に手を当てる。
「まずはこっちにこい。俺と戦え。俺を殺せ。拒むなら、エルの顔を消す」
顔を、消す⋯⋯!?
そんなの、いくら妖だっていっても、エルが死んじゃうだろ!
助けに行きたい。死んでほしくない。
でも⋯⋯。
無意識に上がっていたかかとを、ムリヤリ地面につける。
エルとディルは、こんなボロボロになるまで戦ってくれた。
それは、俺にハルマを殺させないためだ。
なのに今、ここでハルマの誘いにのったら、体をはってくれた意味がなくなる。
でも、今行かないとエルが死ぬ。
次はディルをつれてくるかもしれない。
ハルマを殺したくない。
エルもディルも死んでほしくない。
どっちも大切な存在だ。失いたくない。
くそっ⋯⋯! どうしたら⋯⋯!
「コ、ア⋯⋯。きちゃ、ダメだよ⋯⋯!」
「うるさい。お前の意見は聞いてない」
「ガ⋯⋯ッ!」
「エル!」
ハルマが容赦なくエルの首をしめる。
苦しげに顔をゆがませたエルに、俺はもうガマンできなかった。
「分かった! 戦うから⋯⋯! だから、エルを離せ、ハルマ!」
「やっとか。コアは強情だな。殺すって言ってもらいたいが⋯⋯まぁ殺さないと爆弾を止められないからいいか」
満足そうに口角を上げたハルマは、さっきディルを吹っとばしたほうにエルをぶん投げる。
「エル!」
「あんなんじゃ死なない。ま、エルもディルも、もう邪魔はできないがな」
死なない程度に傷つけたってことか。
変なところで冷静なんだな。
「さあ⋯⋯」
ハルマがダラリと、体の前に腕をたらす。
ゾッと全身の毛が逆立ち、俺は反射的に姿勢を低くした。
「始めよう」
ハルマがユラリと体を前に倒す。
くる⋯⋯!
「ぐぁ⋯⋯ッ!」
腹をけられたと思うとほぼ同時に、背中にたたきつけられる衝撃が走る。
気づけば俺は、灰色のガレキに囲まれていて、ハルマに攻撃されたことを自覚するのに少し時間がかかった。
何が起こったんだ⋯⋯?
動き出しは見えた。腹にけりがくることも読めた。
ハルマが速いのは知ってたし、体勢が崩れてたわけでもない。
なのに、目で追えなかった。
毎朝迎えにきてくれるから、少し離れたと思ってたのに⋯⋯妖力が使えるようになってから、さらに速くなってる?
マズいな、これじゃあ本当に俺が殺される⋯⋯!




