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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 一章
5/78

5話

 足早に部屋から出ていったエルを追い、俺はリビングにあるソファに腰を下ろした。


「今回は長くなりそうだな。この前にも、何回かあったっけ」

「そうだね⋯⋯って、この前? 僕がコアの使い魔になってからは、初めてだと思うけど⋯⋯」


 エルがソファに少年を寝かせ、けげんそうに俺を見る。


 そうだったか⋯⋯? でも、たしかに何回か任務が長引いて、朝を迎えることだって⋯⋯。


 あれ。でも、一緒に朝日を見たのは、寄りそって寝たのは、誰だったっけ⋯⋯?

 そもそも、俺の他に誰かいたか?


 いや、任務が長引いたことなんて、なかったかも⋯⋯?


 深く掘り下げるほど、記憶に霞がかかるようにあいまいになり、俺は額をおさえた。


「⋯⋯ア、コア!」


 肩を揺さぶられ、俺はハッと我に返った。


 心配そうにのぞきこむエルの目が、金色に光ってる。


 なんでエル、俺に妖力を使って⋯⋯。


「ビックリしたぁ。急にコアの体が銀色に光って、魔力の暴走を始めるからさ。とっさに妖力を使っちゃったよ」

「俺が⋯⋯?」


 言われてみると、体中にみなぎってた魔力が、少し減ってる。


 減りすぎる前に、エルが止めてくれたのか。


 エルは前の机に座り、腕を伸ばして、グッと伸びをしている。


「ごめん。ありがと」

「いいよいいよ。コアも暴走することあるんだなーって知れたし。それよりさ、僕の話、聞いてなかったでしょ」

「話? あー、聞いてなかった」


 俺が気まずくて頬をかくと、エルは身をのりだして、顔を近づけた。


「じゃあ最初から⋯⋯」

「お兄ちゃんたち⋯⋯?」


 少年が、目をこすりながら上半身を起こした。

 眠そうに垂れた目に、みるみるうちに涙がたまっていく。


 身構えたエルが、キラリと瞳を光らせる。


 けど、涙はこぼれず、鳴き声を上がらなかった。


「あの、ねっ。俺、姉ちゃんがいなくなるとこ、見たんだ。嫌だ、って、姉ちゃんは叫んでたけど、俺、怖くて⋯⋯っ! ペチャッペチャッ、ってね、液体がとび散る音も、聞こえてたの。叫び声も小さくなってってね、窓から何かが出ていくとこも、布団のすき間から、見てただけでっ⋯⋯!」


 泣くまいと必死に歯を食いしばる少年は、ギュッと毛布を握っている。


 エルが少年の横にしゃがみ、背をさすってあげる。


「ゆっくりでいいよ。僕の質問に答えてくれる?」

「うん⋯⋯っ」

「ありがとう。お母さんとお父さん、お姉さんがいなくなったのは、いつ?」

「母ちゃんは三日前、父ちゃんは二日前、姉ちゃんは昨日、だったと、思う」

「そっか。窓から出ていったやつの姿は、覚えてる?」

「えっとね⋯⋯毛むくじゃらでね、丸っこくてね、腕が六本くらいあった」

「うんうん。怖かったね。よく頑張ったね」


 そう言うと、エルは容赦なく少年と目を合わせ、気絶させた。


「⋯⋯絶対にくるね、今夜」

「ああ。腕が六本、じゃなくて、腕が四本で足が二本だろう。典型的な人食いの妖だ。少し遠くから、こっちをうかがってるな」


 俺は、カーテンの閉まった窓をにらみつける。


 まったく⋯⋯。妖は人なんて食べないでも生きていけるっているのに。


 最近は、趣味感覚で人間を殺す妖が増えてきて、俺らのとこに依頼が止まらなくなってる。


 なんで分からない。なんでやめない⋯⋯!


 妖だって、家族単位で生活したりもする、人間より強いだけの生き物だろう。


 自分以外を大切にする気持ちだって、どこかに持ってるはずだ。


 だったら、俺らのその気持ちも分かってくれよ。


 俺らの命は、お前らの玩具になるほど、軽くはないんだ⋯⋯!


「でもね、この子、襲われても殺されはしないかもしれない」

「? なんでだ」


 殺されない?

 でも、あの部屋には血が充満してた。


 とてもあの量の出血で助かるとは思えない。


「子ども部屋のほう。あっちはたぶん、お姉さんの血じゃない。右の部屋の血の匂いと、全く似てなかったんだ。ほら、僕は鼻がいいから。同じ血の人間っていうのは、大体分かるんだ」

「別の人間の血をまいたってことか? なんでわざわざ、そんなこと⋯⋯」

「捜索させないためじゃない? ただ攫うだけじゃ、生きてるかもって思われるかもだから」


 エルが目を細めて、口元を不気味にゆがませる。


 あぁ、その表情、嫌いだ。


 別の世界の壁を隔てて、俺とは違うって、はっきり区別されたみたいで。


 エルがときどき、怖く思えるから。

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