6話
『討伐依頼 報酬三百万
半妖のハルマティアの討伐
妖力等で弱らせた後、魔力と妖力を混ぜた攻撃での討伐を推奨』
器用にも、赤い字で走り書きされた文章を、俺は何度も往復する。
夢、だよな⋯⋯?
内容がショックすぎて、破額の報酬なんか気にもとまらない。
魔力と妖力を混ぜた攻撃って、つまりトドメを刺すのは俺ってことだ。
そもそも混ぜるなんて、やったことない。
やりたくない⋯⋯!
何が悲しくて、ハルマを殺さないといけないんだ。
いくら金を積まれたって、ハルマの存在はそんなモノじゃ足りない。
もう嫌なんだよ。俺のそばから大切な人がいなくなるのは⋯⋯!
そう思って、俺はハッと息を吸った。
たい、せつ⋯⋯。
そうか⋯⋯。ハルマは俺にとって、いつの間に大切な存在になってたんだな。
『コア、逃げてッ!』
「っ!」
切羽つまった澄んだ声とともに、ノイズだらけの映像が頭の中に流れこんできた。
⋯⋯ノア、か?
全体的に白く濁ってる⋯⋯煙? 霧?
視界は激しく揺れていて、ノアに手を引かれて走ってるところみたいだ。
『待⋯⋯てー』
『コ⋯⋯から。はや⋯⋯に⋯⋯!』
背後からの足音に焦ったノアが、俺をドンッとつきとばす。
一瞬だけ振り返ると、ノアは何かをむかえうつように戦闘体勢で、すぐに俺は反対方向に駆け出した。
「ノア⋯⋯」
切なく震えた声にディルを見ると、彼は袖で目元を拭う。
気持ちを落ちつかせるように深呼吸をして、ハルマのほうを向いた。
「私はノアの意志を尊重したいから、コアを守る。大切な存在が失くなる痛さも分かるから、コアにハルマは殺させない」
「ディル⋯⋯!」
ディルが俺を見て、優しくほほえむ。
ハルマは軽く首をかたむけると、予想通りとでもいうようにヒラヒラと片手を振った。
「そうなるのは分かってた。何もなければ、お前らは殺しにきてくれないってな。だから⋯⋯こんなのはどうだ?」
「っ起爆スイッチ⋯⋯!?」
「おしいな。爆弾を止めるほうだ。俺は少し前、全国に爆弾を設置してきた。一つで何万人もの死者を出せる爆弾だ。止めるにはこのスイッチをおすしかなくて⋯⋯そうだな、あと一時間後には爆発する。で、これを⋯⋯」
手に収まるくらいの四角い機器を、ハルマはヒョイッと口の中に放りこむ。
は⋯⋯? 食べた⋯⋯!?
ゴクンと喉を上下させると、気道に何かつまったときのように、ゲホゲホとむせた。
「おい何やって⋯⋯!?」
「ゲホッ⋯⋯! ⋯⋯少し、プログラムをいじった。これで、俺を殺す以外に、爆弾は止められない」
まさか、スイッチを体にとりこんだ⋯⋯!?
「⋯⋯ガンマの能力は貫通だったはずだよ。いくら妖の体質が受けつがれてるからって、食らって合体することなんて⋯⋯」
「エル、ハルマは半妖だ。妖力と魔力のバランスも悪いし、不純妖ほどじゃないとはいえ、不完全な状態なんだよ」
「っ! なるほどねぇ⋯⋯。それは厄介だ」
? なんで今、不純妖が出てくるんだ?
「どういうことだ? 俺にも分かるように言ってくれよ」
「不純妖は知ってるよね? 不純妖は常に不安定な存在だから、命をつなぎとめるために、有効だと思ったモノをとりこむことがあるんだよ。まぁ、すごいまれなケースだけど⋯⋯ハルマは半妖だから、そういうことができてもおかしくない」
「なんでも?」
「うん。必要だと思えばね」
なんでも体にとりこめるって、そんなのアリかよ⋯⋯!
ハルマは生きのびるためじゃなくて、その全く逆だけど、自分の願いを叶えるために、必要だと思ったから、スイッチをとりこめたってことだよな。
そこまでして殺してほしいだなんて、こんなの正気の沙汰じゃないだろ!
「選べ、コア」
ハルマの声には、感情が感じられない。
俺らの注目が集まったのを確認してから、ハルマは口を開いた。
「俺一人の命か――何十万の命か」
「っ!」
選べ、ない⋯⋯っ!
重すぎる選択に、呼吸が荒くなる。
指先が、氷水につっこんだみたいに冷たくなる。
客観的に見れば、後者を選ぶべきなのは明白だ。
その何十万人の人たちは、誰かの大切な人で、誰かを大切に想ってる人。
俺がハルマを殺さなければ、その人たちは死ぬ。
誰かが大切な人を失う。
もし俺がそっちの立場だったら、あまりに理不尽だって絶望するし、一人を選んだヤツを呪う。
分かってる。頭では理解できてる。
でも、でも⋯⋯!
「俺には、できない⋯⋯」
ほぼ息だけの、かすれた声だったけど、物音一つしない路地裏には、よく響く。
言葉にすると、ハルマを殺すなんて、想像すらも怖くなった。
そうだ。俺にはできない。やりたくない⋯⋯!
「だよね。コアにはやらせないよ」
「ん。ハルマも、殺さない」
スッと立ち上がったエルとディルは、俺を安心させるように笑う。
数歩歩いてハルマと対峙すると、軽く身構えた。
「お前らじゃ俺を殺せない。⋯⋯いや、逆に俺が殺してしまうかもな。そうすれば、コアもやる気になるか?」
「何言ってるの。僕たちはハルマを殺さないし、コアにも殺させない。もちろん、僕たちが死ぬつもりもないよ」
「うん。戦闘不能にする。いくらガンマの子とはいえ、自然育ちの私らには勝てないでしょ」
「それはどうだろうな」
一拍の間が、一瞬で空間を支配する。




