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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 六章
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5話

 ⋯⋯もう、会えない⋯⋯?


 ――行くぞ、コア。


 いつも俺を引きずっていった、強引で力強い手の感触がよみがえる。


 俺があの手をつかむことは、あの声を聞くことは、もうないっていうのか⋯⋯!?


「おい。勝手に殺すな」

「ッハルマ!」

「信じられない⋯⋯」


 ディルがあぜんとつぶやき、エルは目を見開いて固まっている。


 俺がバッと背後を見ると、数歩離れた場所にハルマが立っていた。


「ハルマ⋯⋯! よかった、死んじゃったかと思っ⋯⋯」

「待ってコア」


 俺が駆けよろうと腰を浮かせると、エルが腕を引いて止めた。


 なんで、と問いかけて、俺は声が出なかった。


 エルがハルマを、鋭い目、疑いの目でにらみつけていたからだ。


「ハルマは体が真っ二つになった。こんなこと言うのもおかしいけど、普通の人間なら死んでるはずだ。僕とディルだって、人型じゃ死んでるかもしれないくらいの大ケガだよ」

「いや私は死なな⋯⋯」

「ディル、そういうのいいから。⋯⋯ハルマの能力は、超高速だよね。治癒系じゃない。それっておかしいと思わない?」

「⋯⋯濁すな。何が言いたい?」

「だからぁ、ガンマとの関係、そこにあるんじゃないの」

「ああ。そうだ」

「「っ!」」


 エルがグンッと俺の腕を引いて、横に抱えるようにしてかばう。


 ディルも刃物を構えて、殺気丸出しだ。


「目的は何? 七柱のスパイ? コアの暗殺?」

「エル⋯⋯!」

「コアは黙ってて」


 反射的に口を開いた俺を、エルが有無を言わさぬ声ではねつける。


 暗殺って、さすがにそれはないだろ。

 やろうと思えば、いつだって殺せたんだから。


「どうなの、ハルマ」


 シン、と物音一つしない沈黙が支配し、ほこりや建物の塗装の臭いが、一層濃く感じられた。


「⋯⋯俺は、望まれた存在じゃない」


 誰一人として、緊張感に身じろぎすらしない中、ポツリとハルマが話し始めた。


「人間の母親と妖の父親の間の子、つまり半妖。母上は父のことを妖だと知らないまま身ごもって。俺は、物心ついた頃から屋敷中の人間に忌み嫌われてて、殺されかけたこともあった」

「⋯⋯あわれんでほしいなら、話す相手を間違えてるよ」

「違う! そうじゃない⋯⋯。俺はただ、コアたちに頼みたいことがあるだけだ」


 ハルマは弱ったように言うと、頭の後ろに手を回した。


 コツンッとかわいた音を立てて、ヤギの仮面が落下し、同時に息苦しくなるくらいの妖力が放出される。あのときの、ガンマの妖力だ。


「俺は嘘をついた。本当は、能力なんて使えない。超高速は、父である妖の体質を受けついだだけ」

「こんなに高密度の妖力を持ってるのに? 魔力だって、感じられる」

「だからだ。大きすぎる妖力は、まだ俺には扱えない。妖力が魔力をおさえてるせいで、魔力も使えない」


 なるほど⋯⋯だからこんなに放出されて⋯⋯。


 ハルマはユラリと顔を上げ、長い前髪で隠れていた瞳をあきらめたように細める。


「オッドアイ⋯⋯。ッ!」


 青と黒の瞳を、吸いこまれるようにじっと見つめていると、ゾッと背筋に悪寒が走った。


 あのときと同じ、圧倒的強者感。


 本能みたいなモノだ。俺はハルマに勝てない⋯⋯!


「俺はスパイじゃないし、コアを殺す気もない」


 淡々と感情のない声が、異様なくらい路地に響く。


 ふところからとり出した一枚の紙を、丸めて俺に投げた。


「かして、コア」


 エルが俺から紙をとり上げ、広げて目を通す。


 ⋯⋯そんなに変なこと、書いてあったか?


 妖狼退治の依頼書の裏。

 エルはサッと顔色をかえ、複雑そうに眉をひそめてハルマを見る。


「なぁコア」


 俺とディルが紙をのぞくよりはやく、ハルマがすがるように声をかける。


「俺を、殺してくれ」

「「っ!?」」


 言葉が出なかった。


 殺してくれ⋯⋯?


 何、言って⋯⋯。


「俺は、家のヤツらに殺されかけた。毒を盛られて、屋上からつき落とされて、刺客をけしかけられて。でも、死ななかった。死ねなかった。俺の中の妖の血が死ぬことを拒んでて、どんな状況でも、俺は生きる手段を本能的に選ばされてきた。⋯⋯でももう、正直疲れたんだ。コアと会ったとき、解放されたい気持ちがおさえきれなかった。俺と同じように、魔力も妖力も持つコアなら、俺を助けてくれるんじゃないか、って」


 言葉が出なかった。


 止めないとって思うのに、何も考えられなくて、ただじっとハルマを見つめてる。


 俺は最近妖力が出てきたし、おさえられてるから、ハルマみたいに殺されかけたことはない。

 エルがずっとそばにいてくれたから、魔力と妖力を持ってて、疲れたから死にたい、なんて考えたこともない。


「⋯⋯なんでコアなら助けてくれると思ったの? ハルマほどの強さ、コアじゃ勝てないと思うよ」


 無意識か、俺の肩に回されたエルの腕に、力が入る。


「俺は魔力も妖力も効かない。物理攻撃も毒も、妖の体質のせいで、苦しいだけ」

「そんな⋯⋯不死身じゃん⋯⋯」

「そう。俺はどうやったって死ねない。ただ一つの可能性を残して、な」

「⋯⋯コアにはやらせない。危険だって、ハルマも分かってるでしょ」

「ああ。大人しくしていられればいいんだが、残念ながら、妖の血は反撃したがるらしくてな。コアじゃ俺には勝てない」

「だから、この依頼書に書いてある方法で、三人でかかれってこと?」


 ハルマが静かにうなずく。


 覚悟を決めたような、助けを求めるような、それでいて清々しい目をしていた。


「エル、依頼書って、何? もう任務は終わっただろ?」


 終わったって言ってくれよ⋯⋯!


 ようやく口から出た言葉に、エルは無言で紙を俺らに向ける。


『討伐依頼 報酬三百万

 半妖のハルマティアの討伐

 妖力等で弱らせた後、魔力と妖力を混ぜた攻撃での討伐を推奨』


 器用にも、赤い字で走り書きされた文章を、俺は何度も往復する。


 夢、だよな⋯⋯?

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