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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 六章
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4話

「ガアッ!」


 妖狼が、コンクリの地面をえぐって、前足を振り下ろす。


 俺は半身になってよけると、妖狼の首の後ろに軽く魔力の刃を当てる。


 ⋯⋯やっぱり固いな。刃が通りそうにない。


 すぐに、チリッと首を切られたような痛みが走る。


 妖狼の目は、警戒するように赤く光っていて、俺の出方をうかがっていた。


「⋯⋯上等だ」


 刃が通らないとはいえ、エルとディルは、弱体化ならできるって言ってた。


 ディルは攻撃手段がない上に動けないけど、エルは妖力をぬくことができる。


 きっとスキを狙って弱らせてくれるはず⋯⋯。


「エル?」


 なんであんな、端のほうで小さくなって⋯⋯。


 俺が、引っこんでろ、なんて言ったからか⋯⋯?


「ヨソミ、スルナッ!」

「っ!」


 しびれを切らしたようにつっこんできた妖狼に、意識を集中させて、ひたすらかわす。


 刃が通らない今、攻撃すればするほど、致命傷になるのは俺のほうだ。


 まだ妖狼の動きを見きれてるからいいけど、元は俺より上のレベル。

 少しでも反応が遅れたら、あの鋭い牙と爪で、即ズタズタだ。


 一人はもちろん、余裕勝ちなんてできそうにない。


 ⋯⋯ああくそっ! どうしちゃったんだよ、エル⋯⋯!?


「しまっ⋯⋯!」


 意識をそらした一瞬に、ローブが妖狼の爪に引っかかる。


 俺の動揺を読みとった妖狼は、瞬時に口にくわえかえると、ブンッと弧を描くように振り上げ、思いっきり地面にたたきつけた!


「カハ⋯⋯ッ」


 反応できない速度に、目がくらむ。

 あまりの衝撃に、息が止まる。


 頭ごと丸呑みにしてしまうそうな口、鈍い赤色で汚れた血生臭い牙が、一瞬にして迫る。


「くっ⋯⋯!」


 体をまたがれた状態で、とっさに頭を魔力でおおう。


 ガキンッ!


 生身の生物からは出ない、金属がぶつかり合うような轟音が鳴り響き、俺は顔をしかめた。


 ⋯⋯これは、勝てない。


 グググッと、魔力ごとかみくだこうと(りき)んでいた妖狼が、あきらめたように顔を離す。


 前足をわずかに上げたと思うと――俺の片腕にのせた。


「ぐっ、あああぁああぁぁぁ!」


 バキバギゴギゴリッ!


 腕がちぎれたとも錯覚するような、激しい痛み。


 肺で叫ぶ俺を見て、妖狼はニタリと残虐な笑みを浮かべ、もう片方にも前足をのせる。


「があああぁああぁぁ⋯⋯っ!」


 痛い痛い痛い痛い痛い⋯⋯!


 断末魔にも近い悲鳴を上げる俺を見て、妖狼は再び口を開けて、頭を食らおうとする。


 ⋯⋯ああくそっ、ダメだ。


 妖狼の動きが、やけにゆっくりに見える。

 死ぬ直前のやつか。


 せっかく、学校のヤツらとも話すようになってきたのに。

 母さんとも、ぎこちなさが消えつつあったのに。


 俺は、報酬をもらって、エルと一緒にいられれば、それでよくて。

 余計な人づきあいも勉強も、何もかもいらなかった。


 理由は簡単。面倒だからだ。


 人づきあいが増えれば、トラブルも失うモノも多くなる。勉強は分からないし、つまらない。


 面倒なモノはシャットダウン。

 ただ本当に、それだけだったのに。


 最近は、ほんの少しだけ、楽しいなって思ったりなんかもして。


 面倒だったはずなのに、そうでもないって思うことが、たまにあって。


 よく分からないけど、胸が温かくなって、なんだか心地よかった。


 まだアイツらと、みんなと一緒にいたい。


 だから俺はまだ、死にたくない⋯⋯!


「⋯⋯エル、助けてくれ⋯⋯」


 無意識にこぼれ出たつぶやきは、情けないほどか細くて。


 ほぼ口が動いてるだけだったから、たぶんエルには聞こえてなかったと思う。


「了解、主様」


 ドッと何かをけり上げる音がして、朦朧(もうろう)とする意識をムリヤリ起こし、顔を向ける。


「え、る⋯⋯」


 俺の足元でひっくり返った妖狼に、馬のりになったエルが、金色に光る瞳を優しく細める。


 任せて、と言わんばかりの表情に、俺は脱力するような安心感を感じた。


「LEVEL5、分解(ディサセンブル)!」

「ガァァ⋯⋯!」


 カッと目を刺すような金色の光に、俺は顔をそむけて目を閉じる。


「コア! とどめ!」

「分かって⋯⋯る⋯⋯!」


 エルがつり上げた妖狼に向かって、動かない腕のかわりに、足から魔力をとばす。


「ガ⋯⋯ッ」


 断末魔も出ない間に首を切断された妖狼が、俺の足に触れる。


 俺は魔力を流すと、妖狼を水晶にかえた。


 エルは、水晶を腰のポーチにしまうと、俺の顔の横にしゃがんだ。


「⋯⋯これは、完全に砕けてるねぇ。まったく、コアの命令がなければ、僕がもっとはやく助けられたのに」

「命令? なんの話だ」

「僕とコアは従魔関係でしょ。コアが魔力を声にのせて命令すれば、使い魔はそれに逆らえない⋯⋯ウソでしょ。まさか、無自覚?」

「ああ⋯⋯。魔力って、そんな使い方もあるんだな」


 エルが言葉を失って、俺との間に、なんともいえない沈黙が流れる。


 ⋯⋯しょうがないだろ。知らないものは知らないし、勝手になっちゃったんだから。


 はぁ、と大きくあきれたため息をついて、エルが俺を起こす。


「ディルー! そんなとこで寝てないで、コアの治療してよー!」

「分かってるよ、エル。コアが心配なんだよねー」

「違っ⋯⋯! いや違くないけど⋯⋯急に何を言い出すの!?」

「人使いが荒い仕返し」


 俺を挟んで、エルの反対側にフワリと羽根をはばたいたディルが、メスのような刃物で俺の両手首に小さく傷をつける。


 すると、まばたきの間に、変な方向に曲がっていた腕が治り、感覚も戻った。


「⋯⋯痛くない」

「当たり前だよ。治したんだから。⋯⋯でも、あんまりコレに頼るのはオススメしない。菌に慣れてない体に、短期間に多量摂取させると、最悪爆ぜるからね」


 ⋯⋯爆ぜる!?


 ディルがニコニコとほほえみながら放った言葉に、サッと顔から血の気が引く。


 俺はまだ、少量だよな? 大丈夫だよな⋯⋯?


「⋯⋯ハルマは!?」


 俺が振り向こうと体をよじると、エルがグッと強く肩をおさえた。


 視線を落としたエルから顔をそらし、キュッと口を引きむすんだディルをじっと見つめる。


 しばらく口を開け閉めし、ようやく決心したように、言いづらそうに口を開いた。


「ハルマは、もう私が診たときには、助からない状態だった。できることは全部やってみたけど、体すらくっつかなくて⋯⋯」


 最後まで言い終えることなく、ディルは悔しげに唇をかむ。


 ウソ、だろ⋯⋯。


 もう、会えない⋯⋯?

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