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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 六章
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3話

 夜だったらまぎれてしまえそうな、漆黒の毛。

 鮮血をそのまま固めたみたいな、真っ赤な瞳。

 馬ほどの大きさもある狼の口には、人間がくわえられていて、鋭い牙が食いこんでいた。


 アレはもう、手遅れか⋯⋯!


「コイツが依頼の妖狼? コアに回ってくるような強さじゃないと思うんだけど⋯⋯。コア、依頼の報酬額は?」

「えっと⋯⋯そういえば、見てないな。そんなに強いのか?」

「うん。七柱の次、つまり僕の下くらいだね」

「獣型なのに!?」

「例外もあるんだよ」


 エルが俺をおろし、真剣な目つきで妖狼をにらみ返す。


 フッと風が吹いたと思うと、俺の足元にはハルマがうつ伏せで倒れていて、妖狼の口からは大量の血が流れ出ていた。


「⋯⋯こんな感じでいい? あ、ハルマはしびれさせてるだけだから、大丈夫」


 こっちは事切れてるけど、とつぶやいて、ディルが胴体のちぎれた人間を離れた場所に寝かせる。


 ⋯⋯まったく、むごいな。


 俺は心の中で手を合わせると、キッと妖狼をにらみつける。


 妖狼は苦しむようにもがいて、カッと赤く瞳を光らせた。


「うっ⋯⋯!」

「ディル!?」


 ハッとディルを見ると、喉をおさえて苦しげにうずくまっていて、肌がサッと紫色に変化した。

 ディルが震える手で腕を引っかくと、少しずつ肌の色が戻る。


「ゲホッゲホッ⋯⋯! ⋯⋯やられた。アイツ、攻撃を受けたら、術者に返す能力だ」


 ディルは口元の血を袖で拭って、俺らの横に並ぶ。


 ⋯⋯アレはディルの能力だったのか。


 妖狼はディルの能力を受けて、それを術者であるディルに返したんだ。


「え⋯⋯治ってる⋯⋯?」


 ブルブルと頭を振った妖狼は、何事もなかったかのように、牙をむいて威嚇してる。


「そうか。私が自分で治したところも、返っていったんだ」

「は⋯⋯? じゃあ今回、ディルの能力は効かない⋯⋯?」

「そうだね。私みたいな、殺すのに時間がかかるようなのとは、相性最悪だ」

「ってことは、一発で倒せばいい⋯⋯いや、倒さないといけないねぇ」


 一発、か。


 俺が魔力で首を切るのもいいけど、もしあの熊妖みたいに、刃が通らなかったら、俺のほうが死ぬかもしれない。


 妖狼は妖だから、首に多少傷がついたって、致命傷にはならない。

 けど、俺は人間だから、首が傷つけば危ない。


 エルは妖力を操るから⋯⋯妖狼から一気に妖力をぬいたら、イケるか?


 俺がエルを見上げると、エルは困ったように苦笑いした。


「僕は、妖力を(ゼロ)にすることはできないよ。(イチ)とかに減らすことはできるけど、空にはできないんだ」

「それができたら、エルは今頃、七柱上位だからねー」

「しょうがないでしょ。妖同士は消し合えないんだから」

「まーねー。できても、弱らせて動けなくするくらいだ」


 やっぱりそうだよな。簡単にはいかな⋯⋯。


 ⋯⋯弱らせる? 動けなくする?


「なぁ。それって、体の耐久性も低くなるのか? 切りやすくなるとか」

「! なるほどねぇ。まぁ、少しは柔らかくなるかも? ねぇディル」

「そうだね。妖力の残りが少なくなると、魔力への耐性は下がる⋯⋯ッ!?」


 ディルが焦ったように顔を左右に振って、何かを探すような仕草を見せる。


 なんだ? 他にも敵が!?


 つられて妖狼から、視線を外す。


「ぐ⋯⋯っ!」


 フッと獣の臭いがして、隣からディルが消える。


「ディル!」


 速い!?


 こんなの、エルが言うように、俺レベルじゃ倒せない⋯⋯!


 ⋯⋯いや、待てよ?


 コイツは七柱の下。つまり、七柱序列三位のディルからしたら、だいぶ格下なはずだ。


 そのディルが、反応すらできずに吹っとばされるなんて、そんなのありえな⋯⋯。


「⋯⋯妖力が感じられない。これじゃあ、ディルは妖狼の存在が分からない⋯⋯?」


 ディルは目が見えないから、魔力と妖力を感じとることで、物や生物の位置を把握する。


 だから、妖力を消せば、ディルは妖狼の動きが分からなくなるわけだけど⋯⋯。


 でも、妖力を消せるのは上位の妖だけだろ。

 って、この妖狼は上位層か!


「マズハ、フタリ⋯⋯」


 しかも、しゃべるだと!?


 しゃべるってことは、それなりの知性を持ってるってことで⋯⋯ああもうっ、最悪だ!


 ⋯⋯って、二人?


「⋯⋯コア、ハルマは?」

「ハルマ? ハルマならここに⋯⋯」


 いる、と言葉を舌だけで発音し、やたらとカタい、エルの視線を追う。


「ハルマッ!」


 頭での理解よりはやく、体が動いていた。


 エルがなんか言ってる気がするけど、そんなの耳に入らない。


 ただ目に映るのは、妖狼の口から垂れ下がった、ハルマの体だけだ。


「離せええぇええぇぇ!」


 グシャッ。


 魔力の刃を振り上げた俺の目の前で、妖狼の口が無慈悲に閉じられる。


 とび散った鮮血が、四方八方にへばりつく。

 俺は、胸の底がサッと冷たくなるのを感じた。


 ゆる、さない⋯⋯!!


 どこか懐かしいような激情が体中を支配し、頭がどうしようもない憎しみで真っ白になる。


「ねぇ待って! コア! 僕がやるから! 落ちついて!」

「うるさい。俺がやる」

「コアじゃ勝てないって! ハルマが目の前で殺されて、妖狼が憎いのは分かるけど、でも⋯⋯!」

「うるさいって言ってるだろ! エルは引っこんでろ!」


 肩をつかんだエルの手を、乱暴に払う。


 傷ついたように息を吸ったエルの気配が、やけに遠く感じる。


「ナカ、マ、ワレカ」


 力なく垂れたハルマの体を、妖狼は雑に放り投げる。

 ドサッと重い音を立てて、倒れているディルの上に重なった。


「お前⋯⋯っ! 絶対に許さない⋯⋯!」


 ありったけの怨念を吐き出すと、妖狼は残虐に口元をゆがませた。

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