7話
「⋯⋯なんてな」
絶対にしとめたという確信からくるスキ。
俺は、それを待ってた!
デルタの腕をガッと握って、そこを支点にもっと高く体を持ち上げる。
魔力を変形させ、服を貫通してデルタの肌につき立てる。
その傷口から鎮静剤に近いモノをたたきこむと、俺はトッと地面に着地した。
⋯⋯さて、即興で思いついた方法だけど、うまくいってるか⋯⋯?
ドッと膝をついたデルタは、メスを落とし、すっかり落ちついたように座りこんでいる。
よかった、うまくいったみたいだ。
「⋯⋯ノア、ごめん、ごめん⋯⋯!」
放心した様子だったデルタが、急にボロボロと泣き出した。
涙も拭わずに泣きわめくデルタは、まるで子どもで、俺はデルタの正面に片膝をついて、顔にハンカチを当てた。
「俺はさ、昔の記憶がないから、ノアとの記憶もない。だけど、さっき少しだけ思い出して、俺がやらないといけないと思った。ノアを俺が殺したのか、まだ信じられないでいるけど、俺をかばってなら、なおさらだ。悪いけど、俺はまだノアとの約束を果たしてないし、死ねない」
静寂の中、俺は無心に涙を拭き続ける。
しばらくして、落ちついたように深呼吸したデルタから手を離すと、彼はしがらみが解けたような顔でほほ笑んだ。
「さっきコアの菌を食らったとき、一緒にノアの妖力も入ってきて。ノアが言ったんだ。コアはいい子だよって、助けてあげてって」
いい子だよって⋯⋯なんだよ、なんか顔が熱い。
「なのに私は、自分の感情ばっかりで、ノアの気持ちまで失くすところだった⋯⋯!」
デルタの笑顔がノアに重なって見えて、俺は目を見開いた。
この兄妹って、すごい似てるんだな。
デルタといたら俺、記憶も思い出しやすいんじゃ⋯⋯?
「ありがとう、コア。じゃあもう私、行くね」
「あっ⋯⋯!」
デルタは羽根を大きくはばたくと、俺が言葉を発する前に、空へととび立ってしまった。
行ってしまった⋯⋯。
って、エルは!? アルトは!?
「⋯⋯ハデにやったねぇ。この血だまり、処理するの大変そうだよ」
「エル!」
パッと振り返ると、エルがスヤスヤと眠るアルトを抱えて立っていた。
服は血で汚れているものの、矢の傷以外に目立った傷はなさそうだ。
よかった、ホント無事で⋯⋯。
「っごめん、エル。俺、歩けなさそう⋯⋯」
「デルタ相手に勝ったんでしょ? 僕のほうが動けなくてごめんなんだから、これくらい気にしないでよ」
ホッとして足から力がぬけた俺を、エルは優しく笑ってヒョイと抱える。
そっか、俺、デルタに勝ったんだ。それも、一人で。
思えば無謀だったかもしれないけど、エルたちを傷つけてほしくなくて必死だったんだから、しょうがない。
「アルトはどうしたらいいんだろ」
「魔道具の中につっこんだら、どうにかなるんじゃないか? 生体認証で勝手に送ってくれるわけだし」
「そうだね。よし、じゃあ入れちゃおう」
「おいエル、投げていいとは言ってない」
いつの間にか到着していた、ワープ地点の建物。
目の前には魔道具である祭壇が備えられていて、三人分くらいの太さの白い光が、円柱状に伸びている。
その光の中に、エルはアルトをポイッと放りこむと、涼しい顔で自分も中に入った。
まばたきの間に、景色が木々に囲まれた俺の家にかわる。
なんやかんやでいろいろあったけど、とりあえず無事に終わってよかったぁ⋯⋯!
ってヤバ⋯⋯家に帰ってきた安心感で眠気が⋯⋯。
「コア。あとは僕がやっとくから、寝ててもいいよ」
「ん、そーするー⋯⋯」
目を閉じるとあっという間に沼に引きずりこまれる。
エルの優しい視線を感じながら、俺は眠りについたのだった。




