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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 五章
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5話

「ゴフッ⋯⋯!」

「エル!?」


 俺が慌てて正面に回りこむと、せきこんだエルの口から、大量の血があふれ出した。


 なんで⋯⋯っ!?


「その矢には、血を吐き出させる作用がある菌をつけたんだ。残念ながら、直接妖力を奪うことはできないから、とりあえずラムダの動きを封じられる方法を、ってね。⋯⋯まぁ、」


 エルの体にノイズがかかって、黒猫の姿になる。


 そうか、人間の姿だと血が流れすぎると死ぬ可能性があるけど、エル本来の姿なら、弱ることはあっても死にはしないのか。


 いやでも、さすがのエルでも、この出血量じゃ全く動けない⋯⋯!


 エルから流れた血は、もうすぐ向かいの道まで到達しそうだ。


 そんなエルを、デルタは冷たく見下ろしている。


「そこまでしなくてもよかったかな。本当、弱くなったね、ラムダ」


 なんの感情も宿さないその瞳から逃れるように、俺はエルを抱える。

 そして、エルがおぼれないように、店の近くにあったプラスチックケースの上に、そっと寝かせた。


 デルタは明らかに俺より強い。


 目的はなんだ? 俺か?


 だったとしても、俺一人じゃ絶対に勝てない。


 俺は、使い魔であるエルにだってボコボコにされる。


 エルが七柱最弱だなんて、今でも信じられない。


 そのエルだって、ラムダには勝てない。

 じゃあ俺にもムリだ。


 ⋯⋯でも。


 ムリだからなんだっていうんだ。


 俺が逃げたら、エルもアルトも、どうなるか分からない。


 俺を追ってきてくれるだけならまだいいけど、今の状態のエルとアルトを消すくらい、きっとデルタなら一瞬だ。それから俺を追ったって、すぐ。


 それなら俺に、逃げるなんて選択肢は、ない。


「もう終わった?」

「っ!」


 耳元でささやかれ、俺はバッと振り返る。


 トン、と身軽に一歩下がったデルタは、無表情で俺を見つめてくる。


 固めの、よく手入れされた金色の短髪。

 水色の、猛禽類みたいな瞳。

 俺よりも頭一つ分くらい背の高い彼の背には、大きな純白の羽根がたたまれている。


 あれ、俺、どこかで⋯⋯。


「ぅ⋯⋯ッ!」


 やめろ⋯⋯! 今エルはいないんだ⋯⋯!


 暴走したって、止めてくれる人はいない⋯⋯!


 上から圧縮するように頭痛を収めると、デルタは驚いたように目を見開いていた。


「⋯⋯狙いは、俺だよな? だったらあっちでやろうぜ」

「ああ、うん⋯⋯。そう、そうだね。私はコアを殺しにきたんだ」


 やっぱり俺か。


 まだ固まっているデルタの横を通りぬけ、俺は道の真ん中で軽くジャンプする。


「はやくこいよ。俺はここだぞ」


 まだ動かないデルタに声をかけると、引っぱられるみたいに、ヨロヨロと歩いてきた。


 なんだ⋯⋯? 様子が変だぞ⋯⋯?


「⋯⋯私は」


 俺の正面に立ったとき、デルタがうつむきがちに口を開いた。


「妹がいたんだ。それも、すごく明るくて優しい妹。でもあるとき、フラッと住処(すみか)から出て行って、戻ってこなくなった」


 ⋯⋯? なんの話だ。


「憧れの妖がいたんだ。僕よりも序列は低かったけど、強い拒絶の瞳をした、孤高の妖。だけどある日、妖倒士との戦いに行ってから、戻ってこなかった」


 脈絡がつかめないでいると、デルタがユラリと顔を上げた。


「⋯⋯っ!」


 めっちゃ強い殺気⋯⋯!


 さっきまでそんな予兆なかった。


 七柱らしい妖力なんて、みじんも感じられなかったのに、急に⋯⋯!


「私は探しに行くことにした。でも、運悪く妖倒士の山の結界に触れてしまって、動けなくなった。数日すれば治ったんだけど、一人のおばあさんが、小鳥姿だった私を拾って、看病してくれた。そんなの全く効果なんてなかったけど、私はなんだかおばあさんに尽くしたくなった」


 デルタはうつろに目を泳がせながら、四方八方に殺気を吹き散らしてる。


 あんなんじゃ、どこからも近づけない⋯⋯!


 さっきからなんの話をしてるんだ。


 俺に何を聞かせてるんだ⋯⋯!?


「おばあさんは体のあちこちが悪かったから、私は能力を応用して治してあげた。喜んだおばあさんは私を村のみんなに自慢した。だけど⋯⋯そこから悲劇は始まった」


 だんだんと低くなっていくデルタの声は、一瞬怒りで震えた。


「珍しがった村人たちは、私を捕まえようと、強引におばあさんの家におしかけた。おばあさんは必死で止めようとしたけど、ある村人とのとっ組み合いで、死んでしまった。ホント、バカだよね。私が人間なんかに負けるはずがない。かばう必要なんて、なかったのに。だから私は⋯⋯その村に強力な菌をまいて、全員殺した。私が持ってる中で一番苦しい、肌を内側から一ヶ月かけて焼く菌で」


 デルタは無表情で言葉を切ると、目に力を入れて俺をにらみつける。


「私はただ、妹と一緒に暮らせればよかった。憧れの妖にずっと憧れていたかった」

「それと俺と、なんの関係があって⋯⋯」


 俺はデルタと重なって、一人の少女が見えた気がした。


「ノア⋯⋯? うぁ⋯⋯ッ!」

「そう。私の妹の名前。やっぱりノアを殺したのはお前だったか、コア⋯⋯! ラムダを変えたのもお前だ。コアのせいで、私の憧れは弱くなってしまった⋯⋯! 忘れることも逃げることも許さない。私は、コアを殺す」


 倒れかけた俺の髪をつかみ、デルタが顔を近づけてくる。


 どうにかしないと、本当に殺される⋯⋯!


 くそっ、頭痛のせいでうまく体が動かないし、魔力も妖力も使えない⋯⋯!


 俺が、ノアを殺した?


 そんなの記憶にないはずなのに、俺のせいだって責める声がする。


『コアは本当に、不思議な人間だね。妖と人間の共存は、コアが実現するのかもね』

『? 俺はノアと仲よしだよ? きょうぞんしてるよ?』

『ふふ。私たちだけじゃなくて、世界中で、だよ』


 小鳥みたいに澄んだ美しい声が、頭の中で響く。


『約束だよ。いつか、妖と人間の争いがなくなる世の中にしてね』


 リアルによみがえる、小指をからめた感触。


 デルタによく似た少女が、デルタと重なってほほ笑む。


 これは⋯⋯俺の昔の記憶?

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