表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 一章
4/78

4話

「今日の獲物は僕が狩る」

「いや、妖同士じゃ無理だろ」


 ギラギラと仮面の奥で光るエルの目は、ちょっと⋯⋯いや、かなり怖い。


 俺はあのあと、全身葉っぱだらけのエルを回収し、目的地である小さな村に向かった。


 一面に広がる田んぼの中に、ポツポツと木造の一軒家が建っている。一言で言えば、田舎だ。


「おい、そろそろ機嫌直せよ。どこから出てくるか分かんないんだから」

「いい。どこから出てきても、狩れる」


 目が合っただけで気絶しそうな殺気を放ちながら、エルは周囲を鋭く見回す。


 猫じゃらしを使うと、いつもこうなるんだよなぁ。

 暴走したら、俺の家一帯が吹きとびかねないし、止めるには俺が猫じゃらしを使うしかない。


 まあ、次の日にはケロッとしてるしな。

 今日は会話ができるだけ、マシなほうだ。


 任務だって問題なく動けてるし、猫じゃらしを使うことに、俺はあまりデメリットを感じないな。


 俺の住む場所がなくなるより、全然いい。


 俺らは踏み固められた道をゆっくりと歩き、近くに妖の気配がないか、探す。


 だけど⋯⋯。


「コア、全然気配がないんだけど」

「俺もだ。八十万の依頼なのに、見つからないなんて、詐欺だ」

「そういうことじゃないでしょ⋯⋯」


 エルがあきれたようにため息をつく。


 それもしかたない。いつもは短くて一時間、長くても四時間で終わるのに、今回は探すだけで五時間をこえてる。


 もうここにはいないのか、隠密なんていう高度な術を使える妖なのか⋯⋯。


 なんにせよ、もう帰りたいよ⋯⋯。


「あっ、すみませーん。ここで起きている事件について、調べにきた者ですが」


 エルが道から外れ、田んぼを一つとびこして、家の扉をノック。


「なっエル!?」


 勘弁してくれよ。俺らは目立っちゃダメなんだから⋯⋯!


 足に魔力をこめ、俺は田んぼの上をジャンプしてエルの足元に着地する。


「行くぞ、エル」


 俺がエルの袖を引っ張ったときだった。


 バンッと目の前の扉が開いて、ギラリと光る刃物がつき出された!


 エルは半身になってよけ、刃物の奥をつかんでひねり上げる。


「⋯⋯? 子ども?」


 エルにつり上げられているのは、十歳くらいの少年だ。

 無地の白いシャツと黒いズボンをはいていて、全体的に汚れている。


 その表情に、子ども特有の無垢な笑みはなく、親の敵でも見るような目でエルをにらんでいる。


「俺の家は渡さない! 一人だからなんだ。ここは俺のものなんだ!」


 エルはほえる少年を冷たく見下ろし、そっと地面に下ろした。


 少年はバッと地面に落ちた刃物を拾うと、扉の前に立ち、両手で構えた。


 興奮しているな。こっちの話を聞いてくれそうにない。


「エル⋯⋯」

「驚かせてごめんね。僕たちは君の敵じゃないよ。ここでの事件を調査しにきたんだ」


 袖を引く俺を無視して、エルは少年の前にしゃがみ、目線を合わせる。


 俺らは人の記憶に残ったらいけないんだって⋯⋯。


 エルの肩に手をおいた俺は、ハッと息をのんだ。


 顔を少しのぞきこむと、エルの目が強く金色に光ってる。妖力を使ってるんだ。


「敵じゃない⋯⋯? でも、最近くる人たちは、みんな、家を渡せって。俺からとりあげようとするんだ」

「そっか。でも、僕たちはしないよ。この家は君のもの。僕たちは敵じゃない。そうでしょ?」

「お兄ちゃんたちは敵じゃない⋯⋯」


 少年がうつろな目でつぶやき、腕を下ろした。


 エルがよいしょと立ち上がり、パンッと手のひらを打つ。


 はじかれたように目に光をとり戻した少年は、困惑したように俺らと手の中の刃物を見比べた。


 そして、なぜか疲れたように眉を下げ、横に一歩ズレた。


「⋯⋯お兄ちゃんたち、この村の事件について知りたいんだよね? よかったらさ、俺の家を見ていってほしい」


 俺が入るのを躊躇していると、エルが耳元に顔を寄せてきた。


「何かありそうだし、入ってみよう。さっき扉が開いたときから、血っぽい匂いがするんだ」

「は? エル、それって⋯⋯」


 言い終わるのを待たずに、エルは家に入っていった。


 えー、絶対この家、今は妖いないでしょ⋯⋯。


 下から視線を感じて目を向けると、少年がすがりつくような目で俺を見つめていた。


 ⋯⋯分かったよ。入ればいいんだろ。


 俺は少年の前を通り、玄関に足を踏み入れる。

 靴は脱がずに家に上がる。


 けど、特に変わったところはない。少年が掃除をしているのか、ほこり一つも落ちていない。


 タタタッと後ろから追いかけてきた少年が、俺の横に立って、廊下のつきあたりを指さした。


「あそこにね、二つ部屋があるんだ。右が父ちゃんと母ちゃんの部屋で、左が俺と姉ちゃんの部屋。そこを見てほしいんだ」


 痛みをこらえるように歯を食いしばる少年は、覚悟を決めたように歩き出した。


「⋯⋯まずは右だな」


 見る必要あるか? 時間のムダな気がする。


 俺が右の部屋に手を伸ばすと、触れる前に勝手に開いた。


「ひっ」

「あ、コア。特に何もなかったよ。予想どおり、血が部屋中の床に染みこんでた。二人分の異なる血液だったから、この子の両親のもので間違いないと思う」

「そうか」

「で、何やってるの? 子守り?」

「そんなわけないだろ。エルが急に出てくるから、怖がっちゃったんだよ」


 俺は、腕にしがみつく少年を引きずって、左の部屋の取っ手に手をかける。


 それを珍しそうに眺めながら、エルは後ろであくびした。


「⋯⋯暇そうだな、エル。ガキの面倒を見ててくれよ。動きづらいんだ」


 ニッコリと笑みを浮かべ、エルに少年をおし出す。


 エルは開けていた口を一瞬で閉じ、ブンブンッと顔の前で手を振った。


「いやいやっ、僕だって忙しいんだからっ。コア、僕が先に入るよ。そうしたら、片手が空くでしょ」


 エルのやつ、面倒なことから逃げやがった⋯⋯!


 サッと手を払われ、エルが部屋の中に滑りこむ。


「うっ⋯⋯!」


 中からエルの苦しそうな声が聞こえ、俺は扉を壊す勢いでおした。


「エルッ!? ⋯⋯?」


 妖にでも襲われているのかと思っていたのに、俺が目にした光景は、どうもマヌケなものだった。


 アレってたぶん、エル、だよな⋯⋯?


 衣装棚とちゃぶ台におし潰されているエルに近づき、チョンチョンとつま先でつつく。


 うん、生きてるな。大丈夫そうだ。


 俺はエルを放っておくことに決め、部屋の様子を観察する。


 ちゃぶ台と衣装棚、奥には二段ベッドか。

 よくある子ども部屋だな。


 ただ⋯⋯血の匂いが濃い。


 左の部屋からはあまり感じられなかったのに、こっちの部屋は、妖の気配が少し残っている。


 暗くて部屋の色は細く見えないけど、何日か経っても血の匂いがするんだ。結構な範囲に血が染みついてるだろうな。


「⋯⋯あれ? これさ、誰の血?」


 いつの間にか抜け出したエルが、鼻をヒクヒクと動かして床に伏せる。


 倒れてたちゃぶ台も衣装棚も、元あったようにキレイに並べられてる。ちゃんと戻すんだ。


「エル、それはどういう⋯⋯」

「おに、ちゃ、おれ、おれ⋯⋯!」


 エルに視線を向けたつもりが、半べその少年と目が合ってしまい、その瞬間、うわああっ、と耳を塞ぎたくなるような大声で泣かれた。


 うっわぁ、メンドくさ⋯⋯。


 泣きやませる方法なんて知らないし、かといって、泣かせておいて任務に支障が出るのも困る。


 お手上げ状態で遠くを見ていると、エルがサッと少年の前にかがんで、目を光らせた。


 ガクッと気を失った少年は、エルに抱えられ、安らかな寝息を立てた。


「あんまり一般人に妖力を使うの、よくないぞー」

「じゃあ、他の方法で泣きやませればするよかったじゃん。できなかったでしょ」


 うっと言葉につまる俺を見て、エルは満足げに笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ