4話
どこかフワフワした声に視線を向けると、向かいの屋根に、二人の人影が立っていた。
逆光でよく見えない⋯⋯。アレは、鳥の羽根?
けど、エルは黒いシルエットに覚えがあるようで、威嚇するように鋭くにらみつけた。
「デルタ、なんの用?」
「変わったね、ラムダ。昔はそんな目しなかったよ」
デルタ⋯⋯まさか七柱!?
今日アドニスに教えてもらったばかりだから、覚えてる。
七柱は、ギリシャ語のアルファベットの名前をつけられるんだそうだ。
もちろん、アルファのαがトップ。
デルタってたしか⋯⋯Δ。ってことは、エルやゼータより強い!?
あーもう! なんでこんなに七柱と遭遇するんだ!
エルを除いて、もう三人目だぞ!?
「⋯⋯あれ、ノアじゃ、ない?」
「? ああ。俺はコアだ」
ノアって、俺がときどき思い出す、妖のことか。
今じゃ思い出したときの記憶も曖昧だけど、少なくとも髪は長かったし、羽根もあったはずだ。
とても俺と見間違えるとは思えないけど⋯⋯?
「デルタは目が見えないんだ。でもそのかわり、妖力や魔力を探知する能力に長けてる。菌というか粒子というか、そういうモノを操って攻撃してくるスタイルだから、気をつけて」
「傷口から入れるとか、空気で感染させるってことか?」
「まぁ、そういうことだね」
遠距離も中距離もってことか。
さすがは七柱上位。面倒な能力してるな。
デルタがユラリと体を揺らし、俺とエルは身を低くして構えた。
デルタの隣の人影が、弓を構える姿勢をとる。
⋯⋯くる!
パッと矢が手から離れたのを見て、俺とエルは左右にとんでよける。
「やっぱりコイツじゃダメかぁ。使えないよね、人間って」
⋯⋯人間?
デルタは、邪魔なものをどかすように足で払うと、隣の人影はあっけなく地面へと落下する。
「っ!」
「コア! 罠かもしれないよ!」
考えるよりも先に、体が動いていた。
頭から落ちてるから、地面につけば、まず助からない。
見殺しになんて、できるかよ⋯⋯!
俺は少しだけ余裕をもって下につき、全身で受け止め、身体を沈ませて衝撃を逃がす。
とりあえず地面に寝かそうと、その人をあお向けにしたときだった。
「アルト⋯⋯!?」
緑がかった黒髪。俺より背の高い体。
意思の強い瞳は閉じられていて、眠っているようだ。
そのアルトが、俺に矢の先を向けてる。
もう目と鼻の先だ。よけられない⋯⋯!
ドッ!
「っ! ⋯⋯?」
何かに矢が刺さる、重い音。
衝撃がこないことを不思議に思って、目を開ける。
「ぅ⋯⋯っ」
「エルっ!?」
俺とアルトの間にねじ入ったエルが、苦しそうに倒れてる。
俺はとりあえず心の中で謝ってから、アルトを縄で近くの電柱にしばりつけ、すぐにエルを抱き起こした。
「エル、エル! 大丈夫か!? ごめん、俺のせいで、また⋯⋯っ!」
俺がうかつに動いたから、またエルが⋯⋯!
泣きそうに声を震わせた俺に、エルはムリして笑った。
「気に、しないで。それより、さ、この矢ぬいて、止血、してくれない⋯⋯?」
「っ分かった⋯⋯!」
俺は言われた通りに肩の矢をぬき、首に巻いていたマフラーをキツくしめる。
黒色のマフラーでも分かる血のにじみ様に、俺は顔をゆがめた。
「そんな顔しない。ほら、前のラムダのときのほうが傷が大きかったし、大丈夫⋯⋯」
「いつまでそう言ってられるかな」
大また何歩かの距離に、デルタがフワリと着地する。
バッと身を起こしたエルが、俺をかばうように間に入った。
「だから、それが甘いって言ってるの。なんで分からないかなー。私は前のラムダが好きなのに」
デルタが軽くはねるように一歩進むと、エルが腰のポーチに手を回した。
「ムダムダー。誰に向かって投げようとしてるの? アルファのソレなんか、とっくに対策済みだよ」
ソレって、この前ゼータに投げてた、妖を弱らせるヤツ?
アレがあったから、ゼータに勝てたようなものなのに⋯⋯効かない?
俺はもちろん、エルでも歯が立たないなら、勝ち目なんてないんじゃ⋯⋯!?
ポタッポタッ⋯⋯。
液体がしたたる音に、俺はキョロキョロと辺りを見回す。
少し重い、粘着質な音。
聞き慣れたその音の出所を探すけど、見当たらない。
ってことは、まさか⋯⋯!?




