3話
「つ、疲れた⋯⋯」
「え? 結構楽しかったじゃん」
「そーですかそーですか、それはよーござんした」
「え、何それ怖。コア、大丈夫?」
壊れたと騒ぐエルを軽くこづき、俺はとにかく家に帰ることを考えていた。
整備されていない、木々に囲まれた獣道。
日が落ちかけて、不気味に見えるけど、それは俺の家も山の中だから、慣れてる。
でも、なんだろうな。
なんか、胸の中がザワザワと落ちつかない。
嫌な予感ってわけじゃないけど、なんか落ちつかない。
夜だから? 疲れてるからか?
歌詞パーティーの後、三時限から六時限まで、魔法学やら妖学やらって、ずっっっとノートに向き合いっぱなしだった。
欠陥クラスだから、先生はいないらしくて、主にアドニスが先生役をやって教えてくれた。
アドニスの教え方は上手なんだろう。
けど、残念ながら、俺の頭が追いつかないまま終わった。
そもそも、もう二年生になるんだ。
一年生の知識なんてない俺には、余計に分からない。
なんで今さら、学校に通えだなんて⋯⋯本部もふざけてるだろ。
「あ、コア。ちょっと待ってて」
山を下りたとき、エルが俺をおいて、近くの店に駆けこんでいった。
なんだ? 母さんに何か頼まれたのか?
もう少しでワープ地点の建物だっていうのに⋯⋯。
はやく帰りたいあまり、不満が蓄積していくのを感じる。
「お待たせー」
「遅い。はやく行くぞ」
「ごめんって。⋯⋯はい、これ」
俺は、エルが袋からとり出したソレに、ハッと息をのんだ。
ニコニコと、俺の反応を楽しんでいるエルの手には、プリンがのっていた。
まさかこれ、俺に?
袋にはもう何も入ってないってことは、これを買うためだけに店に入った?
俺があのとき、ハルマとケンカしたから?
「コア、勉強苦手なのに、頑張ってノート書いてたし、あんなまでしてプリンを食べたがってたのは、疲れてるからなんだろうなって。はい、帰りながら食べていいよ。お疲れ様」
「⋯⋯ありがと」
俺がバッと奪うようにプリンをとると、エルはアハハッとおかしそうに笑った。
「笑うな⋯⋯」
「っごめんごめん⋯⋯!」
まだ笑ってる⋯⋯!
俺はなんだか恥ずかしくなって、プリンのフタとスプーンの紙をはがすと、勢いよくすくって口に入れ、エルの先を歩き始めた。
笑いをこらえているような息づかいが、すぐ後ろから聞こえてくる。
くそ⋯⋯! なぜか耳と頬が熱い⋯⋯!
エルがプリンを買ってきてくれることなんて、ほぼ毎日のようにあった。
だけど、それはいつも冷蔵庫の中にあって、思えば面と向かってもらうことなんて、初めてだ。
⋯⋯いや、何かをもらったこともない、な。
ん? あったっけな?
純白の羽根がついたネックレ、ス⋯⋯ッ!
「⋯⋯ぁ⋯⋯っ!」
「コア!?」
頭の内側から貫かれるような頭痛に、俺はプリンを落としてうずくまる。
慌てて駆けよってきたエルが支えてくれたおかげで、倒れはしなかったけど、視界は立ちくらんだみたいにゆがんでる。
「分解、LEVEL⋯⋯ッ!?」
急に腰をグッと引っぱられ、俺はされるがままに受け止められる。
「分解LEVEL2⋯⋯コア、大丈夫?」
洗い流されるみたいに引いた痛みに、俺はうっすらと目を開ける。
心配そうにのぞきこむエルの瞳から、金色の光がスゥッと消え、俺は魔力暴走を起こしたことを悟った。
俺はゆっくりと身を起こし、軽く頭を振る。
「ああ。ごめん、また俺⋯⋯」
「いいよいいよ。⋯⋯それより、厄介なことになった」
エルは鋭い視線で周囲を見回すと、ハッとしたように俺を抱えて、近くの屋根へととんだ。
ドッ!
さっきまで俺らがいた地面に、何か細いモノがつきささる。
矢だ。
「ラムダ、ノア。久しぶりだね」




