2話
「コアだ。能力は魔力を形にすること。⋯⋯趣味?」
考えてみると、俺は何をすることが好きなんだ?
寝て起きてご飯食べて妖退治。
それのくり返しじゃないか?
趣味なんて⋯⋯いや、好きなもの?
「⋯⋯好きなものは報酬の高い依頼だ。まぁ俺はあまり学校にくる気はないから、放っておいてくれると助か⋯⋯」
「何言ってる。コアはここにこい」
俺の言葉をさえぎった低い声は、ハルマだ。
仮面をつけていても、感じられる視線の圧に、俺は思わず身を引いた。
⋯⋯なんだ?
なんで怒ってる? しかも、学校にこいって何?
俺がきたってこなくたって、ハルマは困らないだろ。
そもそも俺は、面倒なことが嫌いだ。学校にくる気は、さらさらない。
「なんでハルマに、そんなこと言われないといけないんだ。お前には関係ないだろ」
「ないな。でも俺は、コアにきてほしい。こないなら、迎えに行く」
「ハァ? こなくていい。そもそも、お前は俺の山までこれないだろ。遠いんだから」
「俺ならすぐだ。コアを抱えても」
「連行する前提の話をするな。いいか、俺は行かないからな」
なんなんだ、コイツ。
何言っても返ってくる。
まるで俺に会いたがってるみた⋯⋯やめよう。さすがにそれはない。
「ハルマがあんなに食い下がるなんて、珍しいね」
「いや、それもだけど、依頼? 迷子探しとかで、そんなに額のいい依頼なんて、あったっけ?」
「も、もしかして、もう妖退治の依頼、受けてたりして⋯⋯」
「えー!? 何それ、ボクも行きたいー!」
ワチャワチャと、騒がしい空気が教室を満たす。
てか、ハルマのヤツ、全っ然諦めてくれない⋯⋯!
行かないって言ってるのに、全く話が通じない。
なんなのマジで!
ハルマの身体能力が高いのは知ってる。
エルと同等あるかないかくらいだろう。
でもだからって、ワープする魔道具を使わないと、半日はかかるんだぞ!?
そもそもハルマは、俺の山知らないだろ。
あれ、もしかして迎えなんてこれないんじゃ?
ってことは、不毛なやりとりじゃん、これ。
「僕はエル!」
しびれを切らしたように声をはったエルに、全員の視線が集中する。
待てよ⋯⋯?
あの鳥肌が立つようなキレイな笑みは、若干キレてる⋯⋯!?
叫んだわけでもないのに声が響いたのは、妖力をのせたからか。
いやでも、さっきエルだって、ハルマとにらみ合ってたじゃん!
そんなんでキレるなよ!
エルは俺のおびえた顔を見て、心を落ちつかせるように息を吐いた。
「僕はエル。能力は妖力を吸うことで、魔力も頑張ればイケるよ」
いや逆だろ。妖なんだから。
しかも吸うことじゃなくて、操ること、だろ。
⋯⋯って、この場では言えないか。
「趣味は妖狩りで、好きなことは妖狩り。これからよろしくねー」
追加。嫌いなものは猫じゃらし。
エルはひらひらと片手を振ると、隣りに座ってるセピアに視線を向ける。
キョトンとした顔でエルを見つめ返したセピアは、ボッと赤くなって、うつむきがちに口を動かした。
「わ、私は、セピア、でひゅ⋯⋯っ。その、能力はなくて、魔力も使えません⋯⋯。趣味は絵を描くことです⋯⋯」
能力が、ない?
なのに妖倒士になろうって?
危険すぎじゃないか?
驚いてセピアを見つめる俺とエルに、セピアはますます肩を縮めた。
「⋯⋯分かってるんです。でも、私には、この選択肢しかないので⋯⋯」
うつむいて、前に流れた横髪からのぞく瞳は、強い覚悟で光ってる。
⋯⋯意外だな。
オドオドしてるから、もっと芯がないヤツだと思ってた。
「ハルマティア。能力は⋯⋯超高速」
ハルマは淡々と言うと、すぐに黙りこんでしまった。
⋯⋯なんだ、今の間。
能力なんてしょっちゅう使うから、悩むこともないだろ。
それとも何か⋯⋯隠した?
セピアといいハルマといい、このクラスはみんな、何かしらの事情があるんだな。
まぁ俺には関係ないことだけど。
明日からこないつもりだし。
俺が一人で納得している間に、アドニスは、部屋の隅のほうでたたまれていた長机を、俺らの前に広げた。
サササッと目にも止まらぬ速さで菓子を並べると、満足そうに自分の椅子を持ってきた。
デカいな、この机⋯⋯。
七人が囲んだって、だいぶ余裕があるぞ。
これを一人で持ってきたアドニスって、意外と力があるのか?
「二時限目は歓迎会だからね。好きなだけ食べていいよ。パーッと楽しんじゃおう!」
「うわ、ボクあれ食べたい! もーらいっ!」
「ちょっ、レイラズルい!」
「私はこれもらうね」
「⋯⋯⋯⋯」
さっきの不穏な雰囲気なんて、なかったみたいに、それぞれが菓子に手を伸ばしてる。
外にいたときもそうだったけど、仲直りというか、元通りになるのがはやいな。
「コアは食べないの?」
エルがクッキーを片手に、不思議そうにのぞきこんでくる。
「腹減ってないし、別にいらな⋯⋯」
「え? プリンあるよ?」
プリン!?
サッと机に目を走らせる。
⋯⋯本当だ。ちょうど机の真ん中ら辺にある。
ラスト一個のプリンには、ハルマが手を伸ばしているところだった。
マズい⋯⋯このままじゃ、今から動いてもハルマのほうがはやい⋯⋯!
いつもなら、誰かから奪うなんてしないけど、あの熊妖と戦った後だ。炎もモロに食らったしな。
なんか、どうしても食べたい気分だ⋯⋯!
俺はローブの中で小さく手を動かし、プリンをおおうように、魔力をドーム状に変形させる。
「っ!?」
ハルマの手が、プリンに触れる前にはじかれ、困惑したように固まっているスキに、俺はサッとプリンをとった。
「⋯⋯コア」
「悪いな」
俺は知らぬ顔でフタを開け、付属のスプーンでプリンを食べ始める。
口をつければこっちのもんだろ。
半分まで食べ進めたとき、俺の手からプリンが消えた。
「はっ!?」
「甘い」
バッとハルマのほうを見たときには、もう空のプリンカップが机に置かれていた。
同じように重なっているのが、二つ、三つ。
「⋯⋯おい、お前そんなに食べたなら、一個くらいくれたっていいだろ!?」
「俺が先だった。それを奪ったんだから、半分食わせてやっただけでも、感謝しろ」
「嫌だ。結果、俺がとったんだから、俺のものだろ」
「ガキかよ。じゃあ、俺に吐き出して返せって?」
「んなこと言ってない!」
再びギャーギャー言い合う俺らを、他はポカンとして見ている。
挟まれたセピアは、縮こまりながら菓子を食べ、エルはあきれたように肩をすくめて、机に手を伸ばした。
「⋯⋯プリンごときで、こんなに熱くなるなんてね。二人とも、プリンが好きなんだ」
「ボクも好きだけど、あそこまでじゃないかなぁ」
「私も。でもアレ、見ててちょっと面白いよね」
同意とでも言うように、アドニスとレイラがうなずいたのを見て、エルは頬を引きつらせた。
(三人はもう見学モードだし、セピアも止められないだろうし⋯⋯このまま二人を言い争わせる気? ハルマは分からないけど、コアは他のスイーツに興味がない分、プリンへの執着がすごいんだよねぇ。だからコレ、止めないと当分終わらないと思うんだけど⋯⋯)
エルはもう一度、みんなを見回す。
(⋯⋯ダメだ。誰も止める気なんてない)
さっきから同じような内容で言い争ってるし。
「はいはい、ストップストップ。能力使ってまで、プリンのとり合いしないの」
「でもハルマが⋯⋯!」
「でもじゃない。家にあるから」
「⋯⋯⋯⋯」
エルの言葉を聞いたコアは、バツが悪そうに他のお菓子に手を伸ばす。
コアから逃れたハルマは、もうとっくにスイーツタイムだ。
(僕がこれからも、こんなことしないといけないのかな⋯⋯?)
エルは先を思いやって、ハァと大きくため息をついた。




