1話
「欠陥、クラス⋯⋯」
俺――コアは、アドニスの顔をポカンと見つめる。
なんだ、それ。
欠陥って、いい言葉じゃないよな。
なんでそんなところに、俺とエルが?
仮にも、七柱の一人であるゼータを倒したんだぞ。データだって、エルがしっかり送ってくれた。
別に、俺は学校なんて、真面目に通う気ないからいいけど、軽んじられてるみたいで、気に食わないな。
「⋯⋯そんな顔で見ないでよ。僕たちだって、入りたくて、欠陥クラスにいるわけじゃないんだ」
アドニスは寂しそうに眉を下げ、隣のホワイトボードに、ペンで文字を書き始めた。
「二年生と三年生は、基本こないか、僕たちと被らない時間にいるか、その二択なんだよね。本当に、先生たちも手を焼いてるらしくて、何度も謹慎を食らってる」
「ボクも会ったことなーい!」
沈んだ空気の中で、唯一明るい声のほうに顔を向けると、アスベルトの向こうに座ったトゥレーラが、ニコニコと楽しそうな笑みを浮かべていた。
なんでトゥレーラのヤツ、笑ってるんだ⋯⋯?
場に浮きすぎて、思わず逆に座っているセピアたちとトゥレーラを二度見する。
ほら、セピアだって、うつむいて暗い顔してるし、ハルマだって⋯⋯いや、平然としてるな。
仮面のせいで表情が見えないけど、外で見たときと同じ感じだ。
トゥレーラは、俺が見ていることに気づくと、一層ニッと口角を上げた。
「僕は欠陥クラスにきて、よかったって思ってるんだぁ。魔力暴走を起こしやすい体質だからさ、みんなが面倒見てくれて、嬉しいの!」
屈託のないその笑みに、アドニスとセピアがパッと顔を上げる。
「レイラ⋯⋯。そうだね。僕も、みんなに会えてよかった」
「わわわ、私もっ」
ワアー、ナンテアツイセイシュンナンダー。
うらやましいとか、混ざりたいとか、微塵も思わないけど、予想してたよりも絆が強そうだ。
どういう経緯をたどってきたのかは、知らない。
けど、欠陥クラスに入ってるくらいだし、それなりの事情があって、それなりの苦労もしてきたんだろう。
だから余計に、仲間意識が強いのかもしれない。
「⋯⋯アルトちゃん? どうかした?」
トゥレーラが、アスベルトを心配そうにのぞきこんでる。
トゥレーラ、心配なんてできたのか⋯⋯。
他人のものとか勝手に盗んで、気に入らないヤツはソッコー手にかける、ヤバいヤツだと思ってた。
⋯⋯って、違う。今はトゥレーラじゃないだろ。
アスベルトがどうかしたって⋯⋯なんだ? 深刻そうな顔をしてるな?
これは、何か言えない秘密を、隠してるときの表情だ。
エルが俺のプリンを勝手に食べたときに似てる。
もちろん、マイナスのこと。後ろめたいことだ。
アスベルトはハッとしたように顔を上げると、すぐに作った笑みをはりつけた。
「ごめんごめん! ちょっとボーッとしてた。で、何何? なんの話?」
「⋯⋯本当に大丈夫?」
「うん! なんでもない!」
「ならいいけど。何かあったら、いつでも相談してね」
アドニスの言葉に、アスベルトはアハハと笑ってごまかした。
ハルマを除く三人は顔を見合わせ、不穏な沈黙が部屋を漂う。
あれ、そんなに強い絆でもないかもな。
セピアとトゥレーラは、純粋な心配が多いんだろうけど、アドニスは違う。
強い疑いの目だ。
今の一瞬が疑いにかかるほどの何かが、前にあったのか。
たったそれだけで疑うなんて、信じきれてない証拠だ。
まぁ、俺には関係ないことだけど。
俺は別に、このまま茶番を見ていたっていいけど、エルとハルマはどうだろうな。
「⋯⋯ねぇ」
「⋯⋯なぁ」
エルとハルマの呼びかけが重なり、二人は一瞬だけ視線をかわす。
「自己紹介しない?」
「自己紹介」
また被り、エルとハルマがバチバチッと火花を散らす。
⋯⋯カンベンしてくれよ。
なんでみんな、変な空気なんだよ。
収集がつかなくなるだろ。
俺が、じとっとあきれの視線を送っていると、エルがしかたなさそうに苦笑いした。
「とりあえず、自己紹介しようよ。自分の名前と能力、趣味とか好きなものとか? まあ、なんでもいいけどね」
エルがしきり直すように手をたたくと、アドニスがハッとしたように笑顔を作った。
それを合図に、他も動き出す。
「僕はアドニス。風を操るっていう、ただそれだけの能力だよ。趣味は⋯⋯そうだね、イノシシ狩りかな」
イノシシ狩り!?
そんな王子様みたいなナリで!?
なんかもっとこう⋯⋯上品な感じのことが好きなのかと思った。
人って、見た目じゃ全然分からないんだな。
ガタッと勢いよく椅子から立ち上がる音がして、ほぼ反射でそっちを見る。
「ボクはトゥレーラ! お前ら二人も、レイラって呼んでもいいよ。能力は破壊で、好きなものは気に入ったヤツ、嫌いなものは邪魔だと思うヤツ!」
「レイラ、それはたぶん、誰でも一緒だよ。行動に移さないだけで」
「そお?」
レイラの返事に、アドニスは慣れたようにため息をつく。
俺だって、気に入ったヤツは嫌いじゃないし、邪魔なヤツは嫌いだ。
それを行動に移すかどうか⋯⋯まったくアドニスの言う通りだな。
さすがに、嫌いだからって、消そうとはしない。
ましてや、初対面のヤツにいきなりなんて、ぶっとんでるにもほどがあるだろ。
「私はアスベルト。みんなからはアルトって呼ばれてる。能力はね⋯⋯」
順番周りを察したアルトが話し出し、何かを一瞬手のひらに出現させて、消した。
弧を描いた木の枝と弦、一本の枝の端にとがった金属と羽。
アレは⋯⋯弓と矢?
「見ての通り、弓と矢を何もないところからとり出せるだけ。ショボいし使えないから、妖と戦うときは、いつもこっちの短剣。好きな動物は鳥。以上! はい次ー!」
やたら終わりだけ元気だな⋯⋯。
って、次は俺か。
「コアだ。能力は魔力を形にすること。⋯⋯趣味?」
考えてみると、俺は何をすることが好きなんだ?
寝て起きてご飯食べて妖退治。
それのくり返しじゃないか?
趣味なんて⋯⋯いや、好きなもの?




