8話
「あ、なんか気に入らないヤツだ」
「こら、レイラ、こんなこと言ったら⋯⋯え?」
今気づいた、とでもいうように、全員が驚いた顔で俺らを見る。
最初っからいたんだけどな。ハルマしか目に入ってなかったらしい。
「あー⋯⋯うん。その、仲いいんだね」
「まぁ、似た者同士だから、ね。親近感はわくよ」
トゥレーラ以外のみんなは、気まずそうに視線をそらす。
俺はあんまり気にしてなかったのに、そんなふうにされたら、居心地悪いだろ⋯⋯!
「お前、名前は? 能力は?」
「え?」
「ボクねぇ、お前らに興味わいてきちゃった! ハルが初対面の人間を抱えてくるんだもん。びっくりしたよぉ」
トゥレーラが目をキラキラと輝かせて、熱っぽく両手を握る。
キラキラの正体は、きっと好奇心だけじゃない。
俺らに興味がわいたとか、あんなに敵対してたのに?
態度が変わりすぎじゃないか?
姿を見るよりも先に殺されかけたわけだし⋯⋯というか、そもそも命の危険と隣あわせの学校なんて、こなくてもいいんじゃないか?
おぉ! 名案!
トゥレーラを理由に、命令を断ってやる!
俺がエルに目で訴えると、少し目を見開いて、小さくうなずいてくれた。
「俺は帰る」
「僕はエル」
え、とエルのほうに顔を向ける。
同じく俺を見てきたエルが、困惑したように眉をよせていた。
自己紹介じゃない!
そうか。エルが驚いてたのは、俺が帰ることじゃなくて、俺らの能力を教えることについてか。
でも、たしかに、トゥレーラの質問の答えに対して、『帰る』は路線がズレてるな⋯⋯?
「アッハハハハハハ!」
甲高い笑い声に目を向けると、腹を抱えているトゥレーラと、後ろでアドニスたちが口をおさえている。
今のやつのどこが面白い⋯⋯って、こらえきれてないぞ。
肩が小刻みに震えてるの、見えてるからな。
「め、目配せしたのに別々のこと言うって、息合わなさすぎでしょ⋯⋯!」
「しかも、帰るって何? エルくんとコアくんはもう、この学校の生徒だから、このあとの授業も受けないとダメだよ」
アスベルトは口元をへの字にして言い、アドニスはさりげなく目元の涙を拭う。
セピアはこらえきれずに小さく吹き出すと、顔を真っ赤にしてアスベルトの背に隠れた。
ハルマが抱えていく前は、あんなにギスギスしてたのに、そんなことなかったみたいに、一緒に笑ってるの、よく考えたらすごいことだよな。
兄弟、姉妹みたいだ。
小学生の頃から一緒なのかもしれない。
「ここで立ち話もなんだし、教室に入らない? 次の授業は、編入生の歓迎会にしようか」
「は? なんだその、今決めた、みたいな言い方。時間割って、前から決まってるだろ? 先生もくるはずだし⋯⋯」
「いないよ」
「はぁ?」
先生がいないって、どういうことだ?
学校っていうのは、一日の時間割が決まってて、それぞれ担当の先生が授業をしてくれるんじゃないのか?
俺が眉をよせると、アドニスが寂しげに笑った。
「そっか。知らないんだ。⋯⋯とりあえず、教室に入ろう? いろいろ話すことあるから」
アドニスがあらためてうながすと、どこか複雑な表情を浮かべながら、彼らは薄暗い空気をおいていった。
⋯⋯そんなに大事な話が始まるのか?
「行くよ、コア」
「え。待てって!」
真っすぐに扉へ向かうエルを、慌てて追いかける。
なんのためらいもなく入っていったエルのあとに続くと、そこは教室というより、本当に倉庫だった。
白い人工的な光に照らされる、すすけた灰色の壁。
十数個のさびたパイプいすが乱雑に転がっていて、右の壁ぎわにホワイトボードがおかれている。
そのホワイトボードを中心として、半円を描くようにパイプいすを並べ、座っているアスベルトが隣のいすをたたいた。
俺は、いそいそといすに腰かけ、ギィと鳴った音に顔をしかめる。
これ、大丈夫か? 壊れない?
「全員そろったね? じゃあ、あらためて。1−10、別名、奈落の10組――」
ホワイトボードの脇に立ったアドニスの声には、感情がこもっていない。
まるで、何もかもあきらめたような表情をしている。
奈落、って⋯⋯。
「――欠陥クラスへ、ようこそ」




