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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 四章
32/78

5話

 空気を震わせるほどの絶叫に、バッと耳を塞ぐ。


 ビクッと肩をはねたトゥレーラの視線を追うと、そこにはフゥフゥと息を荒くしたアスベルトが立っていた。


 セピアが必死になだめているけど、まったく効果がないみたいで、目が怒りで血走ってる。


 とんでもない圧力⋯⋯何か、そんなに怒ることなんてあったか?


 巻きこまれたくないから、近づいてきてほしくはないけど、まぁ都合よくはいかないよな。トゥレーラの近くにいるし。


 アスベルトは大股でズンズンと歩いてくると、トゥレーラの胸ぐらをつかんだ。


 エルやアドニスよりは低いけど、長身のアスベルト。

 俺より低い、低身長のトゥレーラ。


 普段どんなヤツなのかは知らないけど、我を失っているアスベルトは、地面からトゥレーラを浮かせた。


「うちのナイフ、破壊(デストラクション)するなって何度も言ってるよね? あれ、その辺で売ってるものじゃなくて、対妖用なの。うちがお金を少しずつためて、やっと一本ずつ買ったモノなの」

「ごめ⋯⋯もうやらな⋯⋯」

「そんな言葉は聞き飽きてるって言ってんの! ねぇ、返してよ。今までの全部! アンタなら、金持ちなら、すぐに壊してしまえる程度の値段なんでしょ!?」


 アスベルトが、ギリギリとトゥレーラをしめ上げる。


 トゥレーラが苦しげに顔をゆがめたのを見て、あきれたように放っていたアドニスが、止めに入った。


「アルト、やりすぎだよ」

「アンタには分かんないよ! うちらが苦労して手に入れたモノなんて、親に頼めば手に入れられるアンタになんか! どうせレイラの肩を持つんでしょ!」

「⋯⋯っ!」

「ア、アルトちゃん落ちついて⋯⋯!」

「セピアまで⋯⋯」

「い、いや、私は⋯⋯!」


 ワァワァと言い争いが、だんだん大きくなっていく。


 あーあ、面倒くさいのが始まった⋯⋯。


 巻きこまれるのはごめんだと、さりげなく離れようときびすを返す。


「⋯⋯ねぇ、おいてくの?」

「? ああ。妖がよってきてることくらい、気づいてるだろ」

「気づいてない」

「おわっ!?」


 数十メートル離れていたはずのハルマティアが、耳元でボソッとつぶやいてきた。


 ビ、ビックリしたぁ⋯⋯!


 なんなんだコイツ。


 移動するごとに、いちいち身体強化は使わないだろうから、俺らのところまでくるのに、こんなに速いはずがない。


 これがハルマティアの能力⋯⋯?

 でも、身体強化でカバーできるしな⋯⋯?


「気づいてない? 下級と中級の妖だから、妖力なんて簡単に察知できると思うけど」

「自分は上級だから、察知されない、と」

「なっ⋯⋯!」

「君は上級の妖、そっちは人間だが妖力を感じる」


 ハルマティアは身じろぎ一つせずに、俺を見つめている。


 もう確信持たれてる⋯⋯!?


「⋯⋯なんでそう思うんだ?」

「なんで、か。俺が普通じゃないからだ。⋯⋯安心してくれ。誰かに言うつもりはない」

「それって、どういう⋯⋯」


 言い終える前に、ハルマティアがパッと姿を消す。


「うわぁ! ハル!?」

「ぅ、ゲホッゴホッ⋯⋯!」


 声がしたほうを見ると、ハルマティアがアスベルトとトゥレーラを脇に抱え、グッと膝を曲げていた。


 まばたきの間にハルマティアは消え、あっけにとられたアドニスとセピアが残された。


 妖たちの気配が近づいてきてるな。


 中級はともかく、下級なら身体強化で簡単に振りきれる。


 なんでハルマティアは、アスベルトとトゥレーラを抱えていったんだ⋯⋯?


「ぅわっ!? 何を⋯⋯うわああああぁぁ⋯⋯!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ!」


 ボーッと眺めていた先にエルが現れ、ヒョイッとアドニスとセピアを抱えて地面をける。


 真っ青な空に大きく弧を描き、アドニスの悲鳴とともに、木々へと消えていった。


 一人残された俺は天をあおぎ、ため息をついた。


 ハルマティアがどうやって帰ったのかは分からないけど、人を二人も抱えて高速移動したり、高くとんだり⋯⋯身体能力の差をつきつけられた気分だ。


 俺も一人なら木の上をとびこえられるけど、あの教室まで一息に行ける自身はない。


 下手にとんで、着地するときに妖に襲われれば、苦戦するのは目に見えてる。


 この山に、妖がどこからどこまでいるのかは分からないけど、とりあえず木々の間をつっ走るしかないな。


「⋯⋯よし、行くか」


 俺はグッと身を沈め、足に力を入れる。


 ダンッと強く地面をけり、一歩で森に突入する。


「シャァァァァッ!」

「ピュルルゥルルル⋯⋯」


 木々の間からとび出してきた妖たちを、切る&魔力を流して結晶化。


 木の幹をけってジグザグに進みつつ、妖たちを片っ端から倒していく。


 そういえば、下級と中級の結晶って小さいんだよな。


 最近まで上級以上しか相手してなかったから、手のひらサイズだったけど、これはビー玉と、もう一回り大きいくらいだ。


 ⋯⋯まぁ、妖のほとんどは下級か中級なんだけど。


 俺は、自分の運の悪さと境遇に苦笑し、何気なく左に目をやった。


「っ!?」


 薄暗い視界で、何かがキラリと光を反射した。


 とっさに足をついていた木をけり、頭上の枝に手をかけ、クルリと一回転してとびのる。


「うぁっ!?」


 ドンッ!


 重いものがぶつかる鈍い音とともに、俺がのっている木が、つり橋みたいに揺れる。


 バキバキッと嫌な音を立てて傾き始め、俺は急いで隣の木へととび移った。


 うそだろ⋯⋯。一撃だぞ⋯⋯?


 上級はともかく、腕を広げても収まりきらない太さの木を、一撃で殴り倒すなんてムリだ。


 ここは妖倒士の卵が集まる場所だから、上級なんて大物は、まずいないだろう。

 一人前の妖倒士だって、討伐が難しいんだから。


 俺は、おそるおそる下をのぞきこむ。


「なん、だ、あれ⋯⋯」

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