4話
「うぁっ!?」
グルリと視界が回転して、とっさに受け身をとる。
「レイラ! ストップ!」
何かが腹の上に馬のりになり、アドニスがあせったような声で近づいてくる。
何が起こった⋯⋯?
俺が首をおこすと、視界の下で、何がキラリと光った。
え、まさかこれって⋯⋯。
「レイラ! うちのナイフ返しなさい!」
「ぁっ⋯⋯」
アスベルトの怒声と同時に、フッと腹が軽くなる。
一拍遅れて、顔をのぞきこんできたエルが軽く目を見開き、手をつかんで立たせてくれた。
うわぁ、草まみれじゃん、俺。
背中の草を払おうと、手を後ろに回す。
ん⋯⋯? なんか、首が痛いような⋯⋯?
中途半端に伸ばした手を戻し、首に当てた。
真っ赤に染まった指先を見て、やっぱり見間違いじゃなかったか、と思いつつ眉をひそめる。
「ねぇ、大丈夫?」
「ああ。傷は浅いみたいだしな。ただ、傷は塞いでおきたい。絆創膏か何か、持ってないか?」
「あったかな⋯⋯あ、あった」
ペリペリと紙をはがして、エルが傷口に絆創膏をはってくれる。
浅かったとはいえ、切られたのは急所の首だ。
周りに妖の気配がないってことは、アドニスたちの誰かだろう。
初対面なのに、いきなり物騒だな。
これから同じクラスだっていうのに、先が思いやられる。
そんなことを考えながら、エルの肩ごしに、固まっているアドニスたちを見やる。
「レイラ、あの子は編入生だよ。いきなり襲ったらダメでしょ」
「だってぇ⋯⋯なんとなく邪魔だったんだもん」
「またそんな理由で⋯⋯。いい? あの子はレイラの魔力暴走を止めてくれた人の友達なんだよ。恩人の人にナイフを向けたらダメ」
「そうだけど、あの人もボクは排除したかったよ? だけど、我慢したのぉ。助けてくれたから」
「もー⋯⋯。ダメなものはダメ。ほら、謝りに行くよ」
邪魔だったから切る。排除したかった。
えぇ⋯⋯?
俺、そんな理由で殺されかけてたのか⋯⋯?
どんな残虐なヤツだよ。
アドニスに手をひかれてきた少年に、俺は思わず目を丸くした。
俺も身長は低いし、華奢なほうだとは思うけど、彼はもう一回り小さい。
ふんわりと柔らかそうな薄茶の髪に、童顔な顔立ちも相まって、あるで天使のようだ。
アドニスは少年を横に立たせると、俺らに向かって深々と頭を下げた。
「レイラが、トゥレーラが、本当に申し訳ないことをした。キツく言っておくから、どうか許してもらえないかな。⋯⋯ほら、レイラも謝って」
トゥレーラが、アドニスにうながされて、ぴょこりと頭を下げる。
「ごめんなさぁい。でもね、ボクに邪魔だって思われるのが悪いんだよ?」
「レイラッ!」
アドニスが鋭くレイラをとがめる。
けど、当の本人はどこ吹く風でポケットに手を入れた。
「コアっ!」
グイッとエルに腕を引っ張られた。
シュッと耳元で風を切る音が鳴り、俺はとんできたソレの軌道に、魔力の壁を作り出す。
落下して地面に落ちたソレは――ナイフだった。
「あれっ!? うちのナイフが一本ない!」
アスベルトが腰のポーチを探り、いつの間に、とトゥレーラに視線を向ける。
「レイラ!」
トゥレーラがアドニスの制止を振りきって、俺らのほうにトコトコと歩いてきた。
俺をかばうようにエルが前に立ち、トゥレーラを視線で威嚇する。
なんで近づいてくるんだ?
次は何をして⋯⋯。
?通りすぎた⋯⋯?
あぁ、ナイフをとりに行ったのか。
アスベルトのものみたいだからな。
トゥレーラはナイフを拾うと、片足でクルリと回転し、俺らに見せつけるようにつき出した。
「破壊っ」
トゥレーラが握っているナイフの柄から、細かな亀裂が走る。
パッと手を離すと、粉々になったナイフのかけらは、水に砂糖が溶けるように消えた。
は⋯⋯?
ナイフはどこにいったんだ⋯⋯?
消えてなくなるって、そんなの反則技だろ。
やってみせたこととは対称的に、トゥレーラが無邪気な笑みを浮かべる。
「ボクの能力は『破壊』。ボクより弱いヤツは、無条件で消滅させられるんだぁ。だからね、お前らなんていつでも⋯⋯」
「レェェイィラアアアァァ!!」




