3話
けど、エルの顔を見た瞬間、おびえたようにペタンと座りこんでしまった。
あんなに我を失ってたのに、そんなにエルが怖い顔してたのか?
怒る要素なんて、なかったと思うけどな。
不思議に思って、エルの顔をのぞきこむ。
「は!? バカ! 能力はあんま使うなって言っただろ!」
ばつが悪そうに顔をそむけるエルの瞳から、スゥッと金色の光が消えていく。
エルが、妖力を使った証拠だ。
アスベルトは、エルが怖くて座りこんだんじゃない。
エルに魔力を分解されて、力がぬけたんだ。
なんで、こうも堂々と使うんだよ!?
みんな見てるじゃん。
しかも、一番注目が集まってるときだっただろ。
さすがに妖力を使ったら、誰だってエルが妖だって分かる。
どうごまかす? いや、無理か。
もういっそ、二人で逃げるか!?
必死に考えをめぐらせていたときだった。
「ガウッ」
近くのしげみから、大型犬くらいの大きさの狼がとび出してきた。
ハッと顔を上げたときには、もうすでに足を肩にのせられていた。
真っ赤な口と、濁った鋭い牙が目の前に迫る。
しまった、油断した⋯⋯!
せめてかみつかれないようにと、顔の前に魔力で盾を作り出す。
「コア、僕がやるよ」
サッと横から手が伸びてきて、狼の右前足をつかむ。
狼がグイッと引っ張られて横に消えると、キャゥと情けない声を出して、力なくぶら下がった。
エルは目の光を戻しつつ、狼を地面へと横たえ、俺に目配せしてきた。
あーあー、やってくれたなぁ⋯⋯。
この狼、妖だろ?
中級くらいなら俺だって倒せる。
わざわざ、エルの妖力をさらす必要なんてなかったのに⋯⋯!
エルが、とどめをさして、と目で訴えてくるけど、俺はそれどころではないと、おそるおそるアドニスたちを見回す。
「⋯⋯ねぇ、アンタって、もしかして⋯⋯」
アスベルトがへたりこんだまま、ボウゼンとエルを見上げる。
やっぱりバレるよな⋯⋯!?
あぁ、これからはエルと逃亡生活か。
妖倒士も敵に回っちゃって、妖にも注意しないといけなくて⋯⋯。
「魔力も妖力も吸う能力!?」
「う、うん」
「嘘⋯⋯! ねぇねぇお願いがあるんだけど、レイラから魔力を吸い出してほしいの!」
「いいけど、レイラって誰⋯⋯うわぁっ」
瞳を輝かせたアスベルトが、エルを引きずるようにして、仮面の少年のところへつれていく。
二、三言交わすと、彼を追って木々の中へと入っていった。
俺は、どさくさにまぎれて、狼の首をはね、水晶へと変えておく。
バレて、ない⋯⋯?
あんなに派手に能力を使ったのに?
能力を使うとき、体のどこかが光るのは、魔力も妖力も同じだ。
魔力は人間が持っているモノなだけあって、違和感がないというか、敵意がふくまれていない限り、危険だと思うことはない。
でも、妖力は基本、人間が持てるモノじゃないから、固いしこりのような違和感を感じるはず。
もう十三歳だぞ?
魔力と妖力の見分けくらい、簡単につくはずだ。というか、感じられる。
逆に、どうして分からなかったんだ?
俺としては、そのほうがありがたいけど⋯⋯。
「アルトがエルくんまで連れていっちゃって、ごめんね」
「ででででもっ! アルトちゃんは悪い子じゃないんですっ。どど、どうか、誤解しないであげてくだひゃいっ」
かんでしまって、顔を真っ赤にしたセピアが、ただでさえ自信なさげに丸めていた背中を、さらに縮めた。
慣れたように苦笑いを浮かべたアドニスは、俺に視線を戻すと、朗らかに笑った。
くっ、罪深いヤツめ⋯⋯!
こうやって、柔らかい笑顔で人を虜にするんだろ。
セピアがタコみたいに真っ赤になってるぞ。
「さっきの、ヤギの仮面の子はハルマティアっていうんだ。ちょっと事情がある子でね。詳しくは本人に聞いてほしい」
「そうか。でも、関わり合うつもりはさらさらないから、大丈夫だ」
というか、関わりたくない。
ハルマティアは、俺とエルが妖力を持っていることに気づいてる。
どこまで確信してるかは分からないけど、どうにか口封じして、その後は近づかないのが得策だろう。
一人でウンウンとうなずいていると、突然、横から何かにとびつかれた!




