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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 一章
3/78

3話

 俺はベッドの下の引き出しから黒いコートと猫の仮面をとり出し、サッと身につける。


 興奮して猫のしっぽと耳が出てしまっているエルも、隣の引き出しから戦闘服を引っ張り出した。


 ウキウキと着がえるエルだけど、俺は不満だ。


 ジャケットのような大きめの黒い服に、ピッタリと足に沿うタイツ。

 口元をおおうマフラーに、俺とおそろいの猫の仮面。


 おかしい。どう考えても、エルのほうが動きやすい服だろ。

 俺のほうが、はっきり言って弱いんだから、もうちょっと腕とか出しやすくしてほしかったよ!


 魔力を使うだけなら、いいんだけど。特別な動きは滅多にしないから。


 だけどさあ、妖と戦うときは、走らないといけないじゃん。止まってられないんだよ!


 俺がつき出した腕に被さるコートをじっとにらんでいると、着がえ終わったエルが、あきれたようにポンポンと俺の頭に手をのせた。


「あきらめなって。僕はいいけど、コアは人間なんだから、少しでも頑丈な服のほうがいいよ」

「くぅぅぅ⋯⋯! 俺だって、タフなほうなのに⋯⋯!」

「その髪だって、妖から隠れるのに不便でしょ。支給されたんだから、文句言わないの。どうしてもって言うなら、自分で作ればよかったんだから」

「それに命預けんのは、めっちゃ不安だろ!」

「ソダネー」


 どうでもよさそうに冷たい目で見下ろすエル。


 でも俺は知ってる。


 その瞳の奥に、火傷しそうなくらい熱い闘争本能が渦巻いていることを⋯⋯!


「⋯⋯分かった分かった。もう行こうか」


 俺の言葉に、パァッと顔を輝かせたエルが、タンッと窓枠に足をかけ、開け放った窓から外へととび出す。


 さすが、速いな。


 俺も追わないと。今のエルは戦いたくてウズウズしてるから、暴走しかねないし。


 もうそろそろ現場に向かわないと、着くころには真夜中になって、犠牲者が増える可能性もある。


 俺は窓枠に両足をのせ、近くの木に狙いを定めた。


「⋯⋯なんの音だ?」


 ジジッとノイズのような小さな音が、後ろから聞こえ、俺は首を回す。


 吸いこまれるようにして、ベッドの上に放り出された依頼書の文字を目でなぞる。


 少し魔力をこめた視線は、報酬の数字にぶつかった瞬間、ジジッとノイズ音がして魔力を解かれた。


 八十万の文字が押しつぶされるように歪みはじめる。


 ⋯⋯なんだこれ。


 依頼書の文字が動くなんて、初めてだ。


 しかも、報酬額だけなんて、何かそこに意味が⋯⋯。


「コアー! はやく行こうよー! 僕興奮が収まらなくて、この山ごと破壊しちゃいそうー!」


 下のほうから、べキョッと何かが潰される音がした。


「ちょっ!? ああもうっ落ちつけって!」


 まだ形を作らない文字から無理矢理目を離し、俺は窓枠をけって木にとび移る。


 エルが暴走したとき用に備えてある、両腕で抱えこめるくらいの大きさの円柱の金属。


 それが、エルが上からたたき潰したせいで、エルと同じ高さだったのに、四分の一くらいに凹んでる。


 この金属、実は能力具で、魔力を流しこめば、元に戻るようになってる。


 能力具っていうのは、魔力を流して使う道具のことで、様々なものがある。


 妖を切る剣とか、治癒ができる機械とか、俺の部屋のテレビも、魔力で動いてる。

 なんせ、こんな山奥には電気も水も、何も届かないからね。


 不便なんだけど、この山には妖が嫌がるモノが充満してるらしく、安全なんだそうだ。


 エルは⋯⋯たぶん俺の使い魔だからセーフ。


 木の枝の上でしゃがみ、今にも地面を殴りそうなエルに猫じゃらしをつき出す。これも一応、能力具だ。


「おーいエル。行くぞー」

「⋯⋯っ! グルル⋯⋯」


 殺気立った獣の表情を一瞬で引っこめ、エルは甘えんぼうな子猫みたいにトッと俺の隣に着地して、猫じゃらしに手を伸ばす。


 ⋯⋯何度見ても面白いな。あの大人なエルが、無邪気に身を乗りだしてるなんて⋯⋯!


 名残惜しくも俺がフッと魔力をぬくと、エルはハッとしたように、猫じゃらしをつかんだまま固まった。


 ニヤニヤとエルの顔をのぞきこむと、カァッと顔を赤くして猫じゃらしを離した。


「コア! ソレは使うなって言ったでしょ!」

「暴走するエルが悪いんだろ」

「はやくこないコアが悪い! ⋯⋯うぅっそんな目で見るなあー!」


 エルは俺の視線から逃げるように上の枝へとび移り、南の方向へ木々を伝っていく。


 あーあ、そんなに慌てて大丈夫か?

 こういうときのエルって⋯⋯。


「うっうわああぁああぁー!」


 山の麓あたりで叫んだエルの声が、山頂の俺まで届く。


 ⋯⋯エルって、恥ずかしくなるとドジ、だな?

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