2話
俺はため息をつくと、観念してエルのほうへ歩いていく。
二、三歩進んだところで、シュッと風を切る音がし、俺は反射的に後ろへとんだ。
「アンタ、誰? この、うさんくさいのの仲間?」
「アルトちゃんっ⋯⋯!」
「うさんくさい!?」
緑がかった黒い髪を、高い位置で結んだ子が、片手にナイフを構えて、俺をにらんでくる。
焦げ茶色のボブカットの子が、オロオロと袖を引っ張るけど、全く動じない。
俺は、ひそかにショックを受けているエルに、自業自得だ、と冷めた視線を送り、両手を上げた。
「俺は怪しい者じゃない。今日からこの学校に通う、ただの編入生だ。俺もソイツ――エルも、1−10に入る予定だ。まだ信じられないか?」
まだガルガルと警戒している彼女は、何か言おうと開けた口を、そっと誰かの手で塞がれた。
「ごめんね。アルトは悪い子じゃないんだ。ただ、少し警戒心が強いだけで」
「⋯⋯お前は、俺らのことを信じてくれるのか?」
「まぁ、編入生のことは聞いてたし、妖倒士の服を着てるし。危険な人ではないかなって」
⋯⋯つまり、完全に信じているわけではない、と。
砂色の透き通るような髪をセンター分けにし、穏やかな顔立ちに、王子様スマイルが浮かんでる。
どう見ても、エルよりコイツのほうがうさんくさいだろ。
はりつけの笑顔なんて、エルで見慣れてんだよ。
俺がじーっと白けた目を向けていたからか、彼は眉を下げた。
「そんな目で見ないでよ。僕はアドニス。この子はアスベルト、こっちの髪が短い子はセピア。⋯⋯ってあれ、ハルとレイラは?」
「ハルくんは、あそこの木陰にいるけど⋯⋯」
アドニスの問いに、セピアがオドオドと目を泳がせながら答える。
彼女の震える指先を目で追うと、ボーッとしている少年が、木の根元に座っていた。
ヤギの仮面を顔につけ、青が強い紺色の髪は三つ編みにして、背中に流している。
彼がゆっくりと首を回して俺らのほうを見ると、ピンッと張りつめた空気が漂った。
「お前、妖臭い」
「っ!?」
耳元でささやかれた低い声に、バッととびのく。
さっきまで俺がいたところには、彼が静かにたたずんでいて、光のないヤギの瞳が俺を見つめていた。
なんだ⋯⋯なんなんだ⋯⋯!?
妖臭い?
いや、そんなはずない。
俺は妖力を持っているとはいえ、見た目は人間だ。
母さんにだってバレてないし、アドニスもアスベルトもセピアも、なんの反応もない。
⋯⋯まさか、コイツにはバレてるのか?
心臓がドッドッと早鐘を打ち、背中を冷や汗が伝う。
だとしたら、妖であるエルなんて、お見通しなんじゃないのか?
マズいな、こんなところでバラされたら、エルは討伐されるし、俺は妖帝討伐に行かされて、その後はおはらい箱だ。
母さんお父さんの立場も危うくなる。
そんなのは、絶対に嫌だ。
考えろ。どうすればいい!?
「ハル! 編入生の子だから、驚かせたらダメだよ」
「ん。あの⋯⋯」
淡々とうなずいた彼の声に、ハッと顔を上げる。
まさか、俺とエルのことを言う気か!?
ああぁあああぁあどうしよう⋯⋯!?
実力行使で口封じが一番手っとりばやいけど、アドニスたちが不審に思うよな。
何か言って言葉をさえぎるにも、コミュ力底辺の俺じゃあ、内容が思いつかない⋯⋯!
何か方法はっ――!
「まっ⋯⋯!」
「トゥレーラが魔力過多になっているが⋯⋯」
「えぇ!? それはやく教えてよ!」
「ごめん」
⋯⋯え?
俺らのことじゃ、ない、のか⋯⋯?
安心するのははやいと思いつつも、肩の力がぬけていくのを感じる。
「コア。なんかあったの?」
トン、と肩をたたかれて振り向くと、エルが心配そうに俺を見ていた。
「ああ。あの紺色の髪のやつ、俺が妖力を持ってることに勘づいたみたいでさ」
「え!? ってことは僕も⋯⋯?」
「だな。無闇に能力を使うのは、やめといたほうがいいかもしれな⋯⋯」
「なんで持ってないの!」
大声のほうを見ると、アスベルトがアドニスにつめよっているところだった。
セピアは相変わらずオロオロと二人の顔を交互に見ていて、ヤギの仮面の少年は我関せずというふうに少し離れている。
「今日は妖退治だって分かってたよね!? アドニスがいつも持っていくから、うちらはアドニスが持ってるものだと思うじゃん!」
「ごめんって⋯⋯!」
「ごめんじゃないよ! レイラが、レイラが死んじゃうじゃん⋯⋯!」
最後は泣きそうに声を震わせたアスベルトが、やりきれない感情のままに動くように、俺らのほうに走ってきた。
「待ってアルト!」
「ねぇ待ってって言ってるよ?」
エルの脇を駆けぬけようとしたアスベルトの腕を、エルがつかんだ。
「エル、面倒事に⋯⋯」
「離して! 間に合うかもしれないでしょ、今からとりに行ったら!」
アスベルトが殺気をこめて、エルをにらみつける。
けど⋯⋯エルの顔を見た瞬間、おびえたようにペタンと座りこんでしまった。




