9話
理由があるからって、命を捨てていいことなんて、絶対にない。
人間の中のクズだけを殺すなら、ゼータを退治する必要なんて、なかったんじゃないのか?
⋯⋯俺は、間違ってない、よな⋯⋯?
「⋯⋯ねぇコア! 動物たちをどうにかしないとねぇ。本部に連絡して、人を派遣してもらおうか。妖力は全部ぬいて、妖じゃなくなってるから、動物として寿命がきてるコたちは、亡くなっちゃってるかもしれないけど⋯⋯。生きてるコたちは、保護してもらおうね!」
エルが、わざとらしく明るい口調で俺に話しかけ、スマホを耳にあてる。
相づちを打ちながら、トントン話を進めていくエルをボーッと眺め、ふと子どもが目に入った。
大事そうに、離さないように、腕でしっかりと妖を抱いてる。
妖のほうも、安心しきったように力をぬいて、ゴロゴロ喉を鳴らしてる。
⋯⋯そういえば、この猫妖、エルが分解したあとにきたから、妖力が残ったままだよな。
俺らには殺気むき出しだったのに、この子どもに対しては、ただの猫みたいだ。
「エル。この妖の妖力はぬくのか?」
「⋯⋯ん? あー、ぬこうと思ってる、けど⋯⋯」
電話を切ったエルが、子どもを見下ろして、困ったように苦笑いを浮かべる。
不純妖から妖力をぬいて、命の保証はできない。
だけど、この子どもは、妖をすごく大事に思ってる。
⋯⋯もし失敗したら?
考えるだけで辛いよな。
「あんまり使いたくなかったんだけど⋯⋯」
エルがまたスマホを操作し、耳にあてる。
「もしもし? うん、護身用にすごく役に立ったよ。また一つ作っといてほしい。⋯⋯今日は別のモノなんだけど、不純妖を絶対に生かせて、完全に妖力をぬくモノを作ってほしくて⋯⋯えっと、今すぐ。できる? ほんと? ありがとう!」
「誰?」
「アルファだよ。今すぐ届けてくれるって」
アルファ!?
俺が目を丸くすると、エルは気まずそうに目をそらした。
七柱トップと連絡をとってることには驚いたけど、なんで目をそらすんだ?
怪しいな⋯⋯。
「そういえば、エル。アルファに何か作ってもらうとき、何かを差し出したって言ってたよな。危ないこととか、してないよな? 何を差し出したんだ?」
「⋯⋯怒らない?」
「程度によるな」
エルは、言い訳を探すように視線をさまよわせ、最終的にうつむいて、ボソボソと口を動かした。
「コアの妖力と魔力をぬいて、アルファに渡してた」
「理由は?」
「僕だけの力じゃ、七柱からコアを守れないと思って⋯⋯」
ハーッと、長くあきれのため息をつく。
怒ってると思ったのか、エルが肩を縮めた。
勝手に俺の魔力と妖力を持っていかれて、さらにアルファに渡してたなんて、正直めっちゃ不快だ。
でもそれよりも、俺に黙ってたってことのほうが、腹立ってる。
それならそうと、俺にも言ってほしかった。
⋯⋯でもまぁ、エルなりのプライドみたいなものだろ。
エルらしいっていえば、エルらしいよなぁ。
「⋯⋯怒らないの?」
「別にいい、次から俺にも教えてくれれば。エルのことだから、悪用されないように、とか、いろいろ条件つけてくれてそうだしな」
「うんっもちろん! 一応、アルファは全面的に僕たちの要求をのんでくれるみたい。だから⋯⋯」
シュッと赤い光が、エルの言葉をさえぎるように割って入り、妖の頭にあたって、パンッとはじけた。
「もうきたのか」
「はやいね。しかも、もうこの猫の中に妖力はないよ」
穏やかな寝息を立てる子どもと猫に、俺らはホッと息をつく。
「うわ、すご⋯⋯」「これ全部?」
音もなく急に現れた黒ずくめの集団が、一面に広がる動物たちの山に、目を丸くしていたけど、すぐ手慣れた手つきで一匹一匹、生死の確認を始める。
あっという間に運び出された動物たちに、あっけにとられていると、エルが服の裾を引っ張った。
「この子、どこに住んでるんだろう。親御さん、心配してるよね」
「派遣されてきた人たちに任せればいいんじゃないか? ⋯⋯イレギュラーすぎたけど、今回の依頼も、完了だな」
「まさか七柱に会うなんてねぇ。大変だった」
俺は、エルと一緒に派遣されてきた人たちに子どもと猫を預けて、改装された我が家へと向かった。
もう地平線からは、太陽が俺らを照らしていた。




