8話
エルは一瞬、顔を悲痛にゆがませたけど、すぐに真顔に戻った。
辺りが一面、金色のスポットライトでうめつくされたように輝く。
目を開けていられず、腕でかばう。
光がおさまった後の光景にヒュッと息をのんでいると、突然ガンマが膝から崩れおちた。
何が起きて⋯⋯。
「⋯⋯コ、待ってって! チョコ!」
幼い声⋯⋯まさかあのガキ!?
ここがゼータの作った空間だとしたら、一般人じゃ入れないはずだ。
今きたらマズい⋯⋯確実に戦闘の邪魔になる!
どこから出てくるのかと目を走らせていると、ゼータのわきを、茶色の丸い何かが猛スピードですりぬけた。
ガキにつれていかれた猫妖だ。
一直線に俺らのところに向かってきたかと思うと、グッと体を縮ませ、バネのようにとびかかってきた。
「嘘だろ⋯⋯。魔力の壁に爪がつき刺さってるんだけど⋯⋯」
数ミリ刺さった爪を妖力で支え、必死にしがみついて、俺らを威嚇してる。
「チョコー! ⋯⋯うわぁ!?」
「うご、くな⋯⋯」
妖に気をとられているうちに、妖を追ってきたであろうガキが、ゼータに捕らえられている。
ゼータは一歩も動いてないから、空間操作を使ったか、ガキが自分から突進してったか⋯⋯あーもう、最悪だ⋯⋯!
「俺に、何をした。答えろ。もし、俺に逆ら、えば、このガキがどうなる、か、分からないからな」
恐怖で震えるガキに、ゼータが短剣をつき立てる。
「答える、答えるよ。ゼータだけが、アルファに作ってもらったモノを持ってるわけじゃない。僕も作ってもらったんだ」
「⋯⋯無償で?」
「いやいや、何とは言わないけど、差し出したよ」
「そうか。じゃあ次は⋯⋯っ!?」
妖がハッとしたように攻撃をやめ、はねるように壁をけると、猛スピードでゼータにつっこんでいった。
「チッ! なんで俺に向かってくるんだ! ⋯⋯しまっ⋯⋯!」
人間を捕らえているからか、反射のように、ガキをおさえていないほうの手が出てしまう。
ゼータも、何かのダメージを受けているせいで、うまく体を動かせず、短剣の先を向けてしまった。
マズい、刺さるぞ⋯⋯!
俺とエルが、ゼータのところまでジャンプしようと、膝を曲げたときだった。
「ダメッ!」
小さな影が、妖と短剣の間に滑りこむ。
ギュッと妖と抱き上げると、力がぬけたように倒れこんだ。
ボウゼンと腕を垂れるゼータの短剣から、何かしたたって⋯⋯まさか、血!?
「あのガキ⋯⋯!」
妖をかばって刺されたのか!?
タンッと地面をけって、動物たちを踏まないように着地し、ガキを抱き起こす。
⋯⋯背中を軽くつかれた跡がある。
血が出ているとはいっても、そんなに傷は深くないみたいだ。
「エル、何か傷口を塞げるもの、持ってないか?」
「んー⋯⋯ってあれ? 僕、こんなの持ってたっけ?」
「ちょうどいい。それをこっちに」
手のひらサイズの四角い絆創膏を、つまんで首をかしげるエルから奪い、ガキの傷にはりつける。
ジワ、とうっすら血はにじんでるけど、ないよりはマシだろ。
「さて⋯⋯」
ゴミをポケットにつっこみ、エルにガキを預けて、ゼータを見下ろす。
ゼータは、動物に剣を向けてしまったことか、人間が体をはって動物を守ったことか、ショックを受けたように宙を見つめている。
「ゼータ。人間が身勝手に動物の命をもてあそんでいるのも事実だが、こうやって、命をかけてまで動物を守ろうとするヤツがいるのも事実だ。お前が言うこと、人間を守る立場の俺も、すごく正しいと思った」
動物たちだって、同じ生き物だ。
同じ地球に存在しているのに、ないがしろにしてもいいものなんて、あるのだろうか。
捨てられるペットが増えている今、命という価値が、人間と動物では違うと、勘違いしてはいないだろうか。
俺は、背後に積み上げられた動物たちを振り返り、エルの腕の中の子どもを見る。
「だけど、コイツみたいな人間と、そんな人間を、一緒に同じ『人間』としてまとめていいとは思えない。全部消してもいいとは思えない。⋯⋯だから、俺は人間を守る」
「⋯⋯知っていた。それでも俺の前には、蔑むような目で動物を捨てていく人間が、絶えるどころか増えていった」
やり場のない感情を吐き出すように、ゼータが小さく息をつく。
苦しげに顔をゆがめるゼータに、同情してしまいそうになるけど、俺は振り払うように、強く片手を上げた。
指先に魔力を集め、剣の刃の形を作る。
「⋯⋯妖帝様、申し訳ございません⋯⋯」
ほとんど息を吐き出すだけの言葉も切るように、腕を振り下ろす。
首が落ちるより先にゼータに触れ、魔力を流す。
渦巻いて俺の手のひらにおさまった水晶は、なんだか輝きがないように感じた。
⋯⋯ゼータは、他の妖みたいに、理由なく人間を殺していたわけじゃなかった。
いつから動物を妖化させていたのかは知らないけど、聞いた話だけだと、捨てた人間がその動物に襲われるっていう、自業自得な展開だ。
これからも、無責任な人間は絶えないだろうから、玩具のように扱われる動物は、増え続けるだろう。
ゼータが妖化させて生き延びていた動物も、この辺一帯だけとはいえ、多いから、今後死んでしまう動物も多くなるだろう。
ゼータは妖だ。人間をためらいなく殺す。
だから、俺が退治するしかなかった。
俺は妖倒士だから。
人間に害を加える妖は、殺さないといけない。
でも本当に、ゼータは人間にとって、害だったのか?
理由があるからって、命を捨てていいことなんて、絶対にない。
人間の中のクズだけを殺すなら、ゼータを退治する必要なんて、なかったんじゃないのか?
⋯⋯俺は、間違ってない、よな⋯⋯?




