5話
「⋯⋯アンタたち! 何をやってるの!」
突然、金切り声が耳にとびこんできて、俺とエルはハッと顔を上げる。
「ここは猫を捨てる場所じゃないんだよ! 飼うと決めたなら、最後まで責任とりな!」
白髪の短いおばあさんが、金属バットを手に、仁王立ちしていた。
キリリと意思の強そうな目をつり上げ、俺らをにらんでいる。
猫を捨てるって⋯⋯そんなことしてないんだけどな。
完全に誤解されてるし、おばあさんはどいてくれなさそうだ。
「僕たちは猫を捨ててなんかいないですよ。最近猫が増えてて困るって依頼を受けて、調査にきたんです。もしお時間よろしければ、話を聞かせていただけないでしょうか」
「⋯⋯証拠は?」
「え?」
「猫を捨てていない証拠は?」
エルが愛想のいい笑顔のまま凍りつく。
そうなるよな⋯⋯!?
ないものの証明って、悪魔の証明だよな?
証明する人だって、俺とエル以外誰もいないし、そもそも人気のない公園に、こんな時間にいたら、疑われて当然⋯⋯!?
どうすればっ⋯⋯!
「⋯⋯証拠はないです」
バッと隣を見ると、エルが真っすぐにおばあさんを見つめていた。
「ないですけど、僕たちは本当に調査にきただけなんです。この公園にきたのも初めて⋯⋯というか、別に信じてもらわなくても結構ですよ。僕たちはもうここで休みますので。猫を捨てた証拠を探すなら、ご勝手にどうぞ」
淡々と言い放ったエルは、おばあさんに背を向けると、俺の腕をつかんで歩き始めた。
えぇ⋯⋯?
これ大丈夫か?
あの金属バットで殴りかかられるんじゃ⋯⋯。
「待ちな」
静かに、有無を言わさぬ迫力の声が、背後から引きとめる。
「ここで休むって言ったね? 体を壊すから、アタシの家にきなさい。泊めてあげるよ」
泊めて、あげる⋯⋯?
晩ご飯、風呂、ベッド⋯⋯と、順に頭の中をめぐる。
野宿しなくていいんだ⋯⋯!
期待をこめてエルの背を見つめていると、エルが肩ごしに振り返った。
けど、強い警戒の色がにじんでいて、提案をよく思っていないことが、ありありと伝わってくる。
「⋯⋯どうして急に? あなたは僕たちを疑った。そんな僕たちを家に入れようなんて、どういった気持ちの変化です?」
あぁ、終わった。
こんな冷たい態度じゃ、おばあさんも泊める気、失せるだろ⋯⋯。
ひそかに野宿を覚悟していると、植木がガサッと音を立てた。
それを合図に、何かが動く音が波打って広がる。
「⋯⋯なんていう数⋯⋯」
エルが驚いたように周りを見回す。
⋯⋯たしかに、俺らが囲まれてるの、全部妖だ。
殺気が、さっきの猫妖に似てるな。
ってことは、不純妖か。
植木のすき間に見え隠れする鋭い瞳は、百をこえてる。
一斉に襲われたら、さすがに⋯⋯!
「アンタたち逃げな⋯⋯って、うわぁ!?」
「コア! 引くよ!」
エルが残像を残して消えたと思ったら、おばあさんをおぶってる。
速いなぁ⋯⋯って、もう走り出してる!?
「ま、待って⋯⋯!」
エルは普通の人間の全力くらいの速度で公園を出る。
「すまんねぇ、老いぼれの体は重いだろ?」
「いえ、全然。むしろ軽いくらいです」
「まったく、そんなこと言っても何も出ないよ? ⋯⋯あ、そこの細い道を曲がっておくれ」
なんとか追いついた俺は、なんでもないように建物の間に入るエルを、冷たい目で見る。
なーに素直に聞いてんだ。
もう泊まる気だろ。俺の覚悟を返せよ!
頭の中でエルに文句を言いながら、路地へと一歩踏み出す。
と、急に横から何かに抱きつかれた!
不意のことでバランスを崩し、肩を地面に打ちつける。
「いっ⋯⋯! って、エル!? お前、肩からめっちゃ血が出てるぞ!?」
痛む肩をかばいながら身を起こすと、エルがぎこちない動きで立ち上がり、俺を守るように背に隠した。
肩の部分が大きくさけた服は、暗闇のせいで、どれだけ血に染まっているかは分からない。
けど、ポタッポタッと音を立てるしたたりかたは、どう考えたって危ないだろ⋯⋯!
俺も立ち上がろうと、片膝をついたときだった。
「ニャァ」
場違いな鳴き声が異様に反響し、俺はパッと顔を上げる。
「キサマがコアだな? 同行願おう」




