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12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜  作者: 流暗
12の魂〜トゥエルブ・ズ・コア〜 三章
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4話

 エルはグッと軽く膝を曲げ、妖を持ったほうの手を遠心力で後ろに回す。


「え。まっ、エル!」


 まさか、と思ったときにはもう遅く、妖の小さな体は宙に放り投げられ、月と重なって黒いシルエットが浮かび上がった。


 当の本人はというと、すました顔で、硬直したあわれな妖が落ちてくるのを見ている。


 ⋯⋯いやいや、何がしたいんだよ。


 いくら妖でも、無抵抗なまま放り投げられるなんて、かわいそうだろ。


 俺は、オロオロと妖とエルを見比べる。


 エルはそんな俺をチラリとも見ず、妖が手に戻ると同時に、目にも止まらぬ速さで四肢と顎をおさえ、固定していた。


「よし」

「よし、じゃないだろ。分解(ディサセンブル)は? そっちのほうが楽に⋯⋯」

「あのね、コア。不純系は急に流れてきた妖力に、完全に体を慣らすことは難しいんだよ。妖と猫の狭間にいる感じだから、容赦なしに妖力をぬいたら、すぐに消える可能性がある。それくらい、不純系は不安定なんだよ」


 妖が、粘り強い抵抗を見せるように、唯一自由な尾をブンブン振り回す。


 エルにおさえつけられても、もがき続ける妖。


 そういうものなのか⋯⋯。


 こんなに、元気なのに? グッタリしてないのに?


 純系の妖は少しくらい妖力をぬかれても、動きが鈍くなったり、能力の精度が落ちたりするだけなのに、不純系は消えるかもなのか。


 エルが力技で妖を気絶させないのも、猫としても不安定だから?

 少し刺激を与えただけで、死んでしまう可能性があるからかもしれない。


 妖でもなければ、猫でもない、か。


 ⋯⋯なんだか、俺に似てるな。


「⋯⋯誰かくる」


 こんな時間に?


 時計は持ってないけど、夜になって、結構経つはずだ。


 でもたしかに、かすかな足音がする。


 する、けど⋯⋯。


「子ども?」

「たぶんね」


 足音が軽すぎる。


 しかも迷いがない。慣れてるんだ。


「小さい子どもが、こんな時間に一人っていうのは、怪しいよな。とりあえず隠れるか」

「うん」


 俺は身を低くして地面をけり、数秒で植木の影にすべりこむ。


 パッと横を見ると、しっかり妖を抱えたエルが、じっと公園の入り口を見つめていた。


 ザ、ザ、と靴が砂をこする音が少しずつ近くなり、公園の真ん中で止まった。


 枝のすき間で、人影が何かを探すように首を回す。


 やっぱり、子どもだ。

 手に何か持ってるな。


 人目を気にしているように見えるし、ますます怪しい。


「あの子⋯⋯」


 エルが細めていた目を見開き、ハッと息をのむ。


 物音どころか、鼓膜が圧迫されるような静けさだ。


 人影がこっちを向き、エルはしまった、というように片手で口をおさえる。


「おいエル、手⋯⋯」


 手を離したら妖が⋯⋯!


 エルがハッと妖を見ると、ちょうど四肢を持っているほうの手にかみつく瞬間だった。


 牙がくいこみ、ボタタッと血が地面にしたたる。


 フーッフーッと息荒く力んでいる妖は、ギラギラと瞳を光らせ、かみちぎらんばかりだ。


「うっ⋯⋯」


 妖が、スルリとエルの腕からぬけ出す。


 エルが、手を離した⋯⋯!?


 かまれたほうの腕を力なく垂らし、辛そうに顔をゆがめている。


「エル、大丈⋯⋯」

「ぼくは⋯⋯いいからっ⋯⋯あやかし、を⋯⋯っ」


 そうだった!


 興奮状態にあるんだ、あの子どもが襲われかねない⋯⋯!


 あの妖はどこに⋯⋯って、子どものほうに向かってる!?


 マズいな、もう数メートルの距離もないぞ⋯⋯?

 間に合わない⋯⋯!


 俺は、植木をとびこえ、グンッと妖との距離をつめる。


 けど、やっぱり子どもが襲われるほうがはやい⋯⋯!


「おいっ逃げろ!」


 妖がグッと体を沈め、手足を伸ばして人影にとびつく。


 あぁクソッ⋯⋯! 守れなかった⋯⋯!


 あの妖、絶対に許さな⋯⋯。


「チョコ!」

「グルグルゥ」


 勢いあまって、立ったままの人影にぶつかりそうになって慌てて地面をけり、人影の背後に着地する。


 チョコ⋯⋯?


「⋯⋯夕方のおにーちゃん?」


 聞き覚えのある声に振り返ると、昼間のガキが両腕で大事そうに妖を抱いていた。


 表情はこわばっていて、今にも泣き出しそうにも見える。


「ガキがなんでこんな時間に、一人で外に出歩いてるんだ? そのあや⋯⋯猫は危ないから、こっちに渡せ。で、帰れ」


 俺が一歩踏み出すと、ガキは妖を守るように肩で隠し、じりっと後ずさった。


 ⋯⋯無事だったはいいけど、面倒なことになった。


 ガキはその猫が妖であることを知らない。

 そもそも、妖って何?だろう。


 手に持ってるのはたぶん、キャットフードだ。


 つまり、コイツは本当に普通の猫だと思ってかわいがってきたんだろう。


 人目も気にしてるし、もしかしたら、昼間にタイミングよくきたのも、調査してる俺らに、猫が見つかってしまうと考えたからかもしれない。


 となると、当然ながら、今日会ったばかりの他人に、簡単には渡してくれないだろう。


 はぁ⋯⋯ほんとーに面倒なことになった⋯⋯。


「いいから、はやくしろ。ソイツは危険なんだ」

「危険じゃないもん。チョコはいい子だもん」

「お前、まだガキなんだから、なんも知らないだろ。ソイツは危険なんだよ。お前が知らないだけで⋯⋯」

「おにーちゃんもガキじゃん」

「⋯⋯あ?」


 しまった、と思うのもつかの間、子どもはビクッと体を震わせ、足をもつれさせそうになりながら、公園の入り口へと走っていく。


「待てっ!」

「⋯⋯コーアー?」


 追おうと前のめりになった体を、グイッと後ろに引っ張られる。


 肩をつかむ手が妙に力強く、俺はおそるおそる振り返った。


 エルが疲れきったような顔でため息をつく。


「⋯⋯何か、怒らせるようなことしたか?」

「あのねぇ、あんな小さい子にガキって言われて本気になるようじゃ、コアはまだまだ子どもだよ」

「うっ⋯⋯」


 黙りこんだ俺の肩を、エルは軽くたたいて眉を下げた。


 俺は、子どもって言われるのが嫌いだ。


 もう中学生なのに、身長は百六十ないし、体つきだって華奢だ。

 子どもに見えるかもしれないけど、心はちゃんと中学生なんだ。

 子ども子どもって、まあ義務教育中だからそうかもしれないけど、なんだかムッとする。

 顔も幼いのか、小学生だって言われたこともあるし⋯⋯。


 年相応で見てもらえないことが、こんなに惨めだとは思わなかった。


 やっぱり俺、まだガキに見えるのか⋯⋯。


「⋯⋯アンタたち! 何をやってるの!」

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