おまけ話
「⋯⋯まさか、コアが泣き疲れて寝ちゃうなんて。珍しいですね」
「そうねぇ。でもよかった。コアが私のために泣いてくれたなんて、少なくとも嫌われてないってことだから」
「⋯⋯知ってたんじゃないんですか」
「ふふ、そんなことないわ」
僕――エルは、オホホと上品に笑うコアのお母さん――奥様をじっと見つめる。
僕はアルファとの一騎打ちで負け、気絶させられた。
その後、この部屋で目を覚ますと、口に何かくわえさせられてることに気づき、一度床に落として確かめた。
妖力が小さなカプセルにこめられていて、それが妖力をぬくモノであることも、アルファが作ったモノであることも、すぐに分かった。
⋯⋯コアは!?
部屋の惨状は、まぁ想像がつくからおいといて、コアは探すまでもなく、窓から外を見ていた。
大丈夫そうだと判断した僕は、急いでリビングに向かい、人間の姿になってから、奥様にカプセルを飲ませた。
僕が妖だってことは、コア以外知らない。
ここは妖倒士が休める、妖が入ってこられない場所だから、知られたら追い出される。
殺されるかもしれない。
奥様はすぐに目を覚まして、僕と一緒にコアの部屋に戻った。
そうしたらコアが窓からとび降りようとしてて、止めたら泣き出して⋯⋯今に至る。
親に育ててもらっていない僕には分からないけど、奥様いわく、ああやって抱きしめると、安心するんだそうだ。
「少しうっとうしかったのかも。私がもう少し余計なことを言っていなければ、今みたいに甘えてくれたかもしれないのに」
「⋯⋯そう、ですね」
柔らかく目を細めてコアを見つめる奥様の表情は、すごく優しい。⋯⋯これが、愛っていうものなのかな。
⋯⋯人間は、分からないことだらけだ。
どうして自分以外を守るのか。
そんな問いは、あの頃の僕には生まれてさえこなかった。自分が生き残ることに必死だったからだ。
住んでいたところを人間に破壊され、わずかに残った場所も自分たちのものにしようとする人間を返りうちにしたら、妖倒士に追われるハメになって。
他の妖が人間と敵対する理由は知らないけど、僕は僕を守るためだった。他を気にする余裕なんてない。
そんなんだった僕が、今はコアの下についてるんだからなぁ。
未来って予想外。だからこそ面白い。生きていたいんだ。
「⋯⋯ところで奥様。この部屋はどう直すおつもりですか? 今にも潰れてしまいそうですが」
「あら。そんなことはエルの役割でしょう。コアの世話係なのだから、コアの部屋も整えなさい?」
「いえ、僕は勝手が分かりませんので⋯⋯。業者に頼むべきであると思います」
「そんなの、調べれば分かるじゃない」
ニッコリと人のいいほほえみを浮かべ、相手を動かそうと油断なく言葉を並べる。
⋯⋯こんの怠け者が。業者さんに頼むくらい、面倒くさがらないでほしい。
そもそも、無茶がすぎるよ。
形を保っているのが不思議なくらい、天井からは月が見えるし、壁だって大穴があいてる。
部屋ごと取りかえたほうがいいくらいなのに、それを僕一人⋯⋯いや、コアも入れて二人でやれって言ってるんだ。
建て方も知らないし、木材だって、何をどれくらい買えばいいのか分からない。
素人が手をつけていいものじゃない。専門家に頼むべきだよ。
「何、文句があるなら言いなさい」
「あります。僕には無理です」
「そんなこと言って⋯⋯」
どんどんお互いの笑みが深く、どす黒いものになっていく。
スヤスヤと穏やかに寝息を立てるコアの横で、僕と奥様の口論は結局、僕が業者に電話をかける、という形に収まった。




