9話
⋯⋯え、俺が妖力を持ってること、七柱が全員知ってるってこと?
エルはもちろん、アルファも珍しいモノの俺には危害を加えないと思うから、あと五人か。
アルファみたいなのが、五人も俺を狙ってるなんて、想像するだけでゾッとする。
今回俺が無事(?)でいられたのは、アルファの目的が、俺を『捕まえる』ことだったからだ。
始末しにきてたなら、俺はとっくにあの世行きだった。
俺がエルやアルファに比べて、弱いことは自覚してる。
でも、だからって、自分を守れないどころか、エルや母さんまで巻きこむっていうのは⋯⋯。
パリンッ!
細かく軽い、窓が割れる音にハッと顔を上げる。
ちょうど窓の外にたなびく赤髪が見え、俺は窓にとびつく。
「まっ⋯⋯!」
母さんを治すヤツ⋯⋯!
身をのり出して探しても、太陽の白い光が木々の上を滑っているだけで、アルファの姿は見当たらない。
しまった⋯⋯!
そんな余裕がなかったといえばそうだけど、元は母さんを治してもらうために探してたのに⋯⋯!
今からでも追いかければ追いつくか?
いや、あの速さはムリだし、そもそもどこの方向に行ったんだ⋯⋯?
ヤバいヤバいヤバいヤバい!
他に手はないのに、逃した。
母さんは、助けられないのか⋯⋯?
見つかるかは分からない。
でもとにかく、探すしか⋯⋯!
「ちょっ、コア!?」
グイッと肩を引かれて、窓から引きはがされる。
聞き慣れた声にバッと振り向くと、ベッドに片膝をのせたエルが、困ったように眉を下げていた。
その奥、開け放たれた扉から、どうしていいか分からない、とでも言いたげな女性が顔をのぞかせていた。
「母、さん⋯⋯」
なんで、という疑問が口をつくより先に、視界がボヤけて頬を何かが伝った。
喉が痙攣して、言葉が出ない。
空気を吸うばっかりで、呼吸が苦しい。
「コ、コア? なんで泣いてるのっ?」
動揺したようにうろたえるエルが、ワタワタと両手を動かしている。
⋯⋯泣いてる?
なんでって、俺が聞きたい。
どうにか止めようと目に手を当てるけど、全く変わらず、みっともない嗚咽が口からあふれ出る。
突然、フワリと温かいものに包まれ、胸につまっていたものがフッと下りたような気がした。
「大丈夫、大丈夫だよ」
母さんが安心させるように言い、優しく背中をたたく。
その動作に一層嗚咽が激しくなり、気づかないうちに母さんの肩にしがみついていた。
温かい体温を感じながら、母さんの肩に顔をうずめる。
⋯⋯あぁ、そうか。
分かった。俺が泣いてる理由。
「かぁ、さんがっ、しんじゃう、かもって、おもってっ」
「うん」
「もう、あえなく、なるかもってっ⋯⋯こわかった⋯⋯!」
「うん。ごめんね。もう大丈夫だからね」
おずおずと手を伸ばしたエルが、えんりょがちに俺の背中をなでる。
⋯⋯あったかいなぁ。
生きてる証拠だ。ホッとする。
俺はより強くしがみつくと、声を殺して、落ちつくまで泣いた。




