8話
「⋯⋯ねえ、こんなもの? 期待外れだなー、せっかく面白いモノが増えたと思ったのに」
アルファが軽蔑するように目を細めると、ヒュヒュヒュッと風を切る音が軽く、速くなった。
「ぐぅっ⋯⋯!」
ウソだろ⋯⋯まだ速くなるのか⋯⋯!?
肌を切りさく感覚が、鈍くなっていくのを感じる。
だけど、アルファは傷一つついていない。俺が反撃すらできていないからだ。
力の差は歴然。
俺の体力も限界に近い。
もう、いちかばちか、今しかない⋯⋯!
「はーあ、もーいいよぉ」
アルファが冷たいため息を吐き、大きく腕を振り上げた。
一瞬のスキ。
俺にはやられない、という確信が見てとれるものだ。
けど、なんだっていい。
俺は、あのときエルに送った妖力を探しながら、タッと床をけってアルファとの距離をつめる。
予想していなかったのか、驚いたように目を見開いたアルファが、すぐに手を伸ばしてくる。
アルファの手が俺に届くほうが――はやい。
確実に妖力を捉えるなら、俺がアルファに触れないといけないのに⋯⋯!
⋯⋯いや、まだ。まだだ。
アルファは俺に触れていない。
何かあるはずだ。
俺が先に触れる方法が――!
少しでも逃れようと、床スレスレに体を沈ませる。
けど、バランスを崩して、床に肩がついてしまった。
「っまだ⋯⋯!」
チラリと見上げた視界の中で、アルファの赤い瞳が冷たく光っていた。
もう俺の腕をつかもうとしている小さな手を、とっさにつかむ。
引っ張られてヨロけたアルファは、信じられない、というふうに固まっている。
アルファの中に流れる妖力を感じると同時に、胸のあたりにポゥ、と妖力が灯った気がした。
魔力と同じようにグンッと左手に流すと、頭の中にふっと使い方が浮かんできた。
「模倣!」
グッと強く握った手から、アルファの妖力が体に染みこんでくる。
あっけにとられて呆然としているアルファの手を離し、横に転がって膝を立てる。
⋯⋯やっぱ、妖力の密度も半端ないな。
腹の底が浮いて、心臓が体を揺らす。
なんか、なんでもできそうだ。
例えば、何かを合成して武器を作るとか、な。
アルファは白衣の下に、自分で融合したモノをたくさん持ってるんだろう。
ただでさえステータスが雲泥の差なのに、切り札を隠し持ってるんだから、武器なしじゃ分が悪い。
⋯⋯武器があっても変わらないって? ないよりはマシ、だろ?
何かアルファに対抗できるものはないかと、目だけで部屋中を見回す。
けど⋯⋯なんてことだ。
必要最低限のものしかないことが、こんなところで後悔するハメになるなんて⋯⋯!
「⋯⋯っふ、ふふふふッ⋯⋯! あっははははは!」
突然笑い出したアルファにバッと視線を戻し、姿勢を低くする。
対するアルファは苦しそうに腹を抱えてうずくまり、今にも転げ回りそうなほど笑い声を上げている。
⋯⋯一体、どうしたっていうんだ?
そっちはハエを払うくらい容易いことだったかもしれないけど、俺は一歩間違えば死ぬかもしれなかったんだぞ?
俺を見る目だって、冷え冷えしてたじゃないか。
何がそんなにおかしいんだ⋯⋯?
ひとしきり笑い終えたアルファは、指先で涙を拭いながら立ち上がった。
「⋯⋯っふ、自分からあたしに触ってくる人間なんて、初めてだよ⋯⋯! しかも、あたしが妖力を吸われて模倣されるなんて、コアはやっぱり妖力を持ってたんだ。⋯⋯あーもうっ、最高。サイコーだよ!」
アルファは、キラキラと目を輝かせて熱っぽく俺の手を握り、ブンブンッと上下に振った。
速ッ!? 全く動きが見えなかった⋯⋯!
この様子は、もう戦意がないと見てもいい、のか?
それとも、妖力があることはもうごまかせないから、連れていかれる?
グルグルと考えをめぐらせていると、アルファがパッと手を離し、エルの入った檻に近づく。
鉄格子を引っ張ると、エルを残して檻が消え、アルファは満足げにうなずき、クルリと振り向いた。
「コア! 君は手元においておくのはもったいないくらい面白い。本当は持って帰りたかったけど、あたしのとこじゃ、コアの可能性を潰しちゃいそうだから、飼えないんだよねぇ」
⋯⋯飼う!? 俺を!?
集めるって⋯⋯そういうこと!?
ジリ、と後ずさると、アルファはおかしそうに笑い、軽やかに窓枠にとびのった。
「今さらじゃん。たまに見にくるね。⋯⋯他の妖には気をつけてね? コアが妖力を持ってること、少なくとも七柱は知ってると思うからさ」
⋯⋯え、七柱が全員知ってるってこと?




