7話
⋯⋯勝手に死んでく? 殺すのは簡単?
何いってんだ、コイツ。
人間と妖の戦いに興味がないとかホザいておいて、しっかり殺してんじゃねーか。
理由も意味もなく、ただイタズラに。
アルファもまた、討伐対象の妖なんだ。
妖力の差だとか、ランクだとか、この際気にすることじゃない。
いつもみたいに、戦えばいいだけだ。
右手を胸の前で構え、魔力を剣のように変形させたときだった。
「落ちついて落ちついてー。あたしは見たこともない、ワクワクさせてくれるモノを傷つけたくないんだよ。だから、平和的にいこう? これ、なーんだっ?」
アルファは懐から小さな黒い箱をとり出すと、床にたたきつける。
「なっ⋯⋯!?」
はね返るような勢いで等身大まで大きくなった箱は、立方体の檻。
カーテンからもれる、わずかな光を反射する鉄格子の中――猫姿のエルが、四肢を投げ出して倒れていた。
「エルッ!!」
俺は、ぶつかるようにして鉄格子にとびつく。
「ぃ⋯⋯っ!」
「触っちゃダメだよー。この檻は自信作でねぇ、電流が流れる仕組みと、妖力と魔力を吸いとる能力と、大きさを変えられる魔術具を融合したんだ! 見たほうが理解しやすいよね⋯⋯見ててね、」
アルファがスッと髪をかき分け、耳に手をあてる。
「っ、ぐぅあぁぁ⋯⋯!」
エルの体が苦しげにそり、喉からしぼり出すようなうめき声を上げた。
これが、アルファの能力⋯⋯!
「やめろ!」
「えー? ラムダの妖力、もうちょっと補充したいんだけどなー」
「⋯⋯ラムダって、誰だ」
「え? その妖のことだけど⋯⋯そういえば、エルって呼んでたね? なんで?」
「エルっていう名前だからだ。エルから聞いた」
アルファも俺も、?を浮かべて動きを止める。
どっちが偽名だ?
そもそも、偽名なんて使う理由は?
ふと、肩で息するエルが視界に入る。
⋯⋯そう、だよな。名前なんて、なんだっていいよな。
俺は、『エル』だか『ラムダ』だか知らないけど、同じ時間を過ごした、相棒だろ。
だったら、俺のやることは、決まってる!
目を閉じて、深く息を吸う。
体中に魔力がめぐるのを感じながら、俺は腰をおとしてアルファを見すえた。
「それ、魔術具ってことは、一定量ずつしか吸えないんだろ。エルの妖力は少なくない。吸い続けても、エルの妖力が空になる前に、俺がお前に勝つ」
「あたしに、勝つ?」
キョトンと口を小さく動かしたアルファの顔が、みるみるうちに紅潮していく。
な、なんだ? 怒らせたか⋯⋯?
ゴクリと暴れる心臓を飲みこむ。
「⋯⋯まじかぁ。その言葉聞いたの、いつぶりだろ。めっっっちゃワクワクしてる⋯⋯!」
アルファはうっとりと夢見心地でつぶやき、はねるように立ち上がった。
なんか、表情がイキイキしてないか⋯⋯?
何? 『勝つ』って言われたらワクワクするの?
なんだよそれ。七柱最強、チョロすぎね?
あっけにとられて、フッと一瞬気をぬいたときだった。
ビュッと風を切る音が耳のそばを通過し、遅れてバキッと木を真ん中からへし折るような音が響いた。
「ねえねえねえねえっ! あたしを倒してみてよ! 勝つんでしょ? 負かすんでしょ!? はい次はい次! いっくよー!!」
「おわぁっ!?」
ビュビュビュッとアルファが目で追えない速さで腕を振ると、その起動が透明な刃になって部屋中をとび回る。
なんとか魔力の盾を作って致命傷は避けてるけど、またたく間にあちこちに細かい傷ができる。
⋯⋯前言撤回。
チョロいなんて言って、ごめんなさい。
手に負えないってこれ⋯⋯!
防戦一方で、よそ見なんてできないから分かんないけど、盾でそらした刃は俺の背後で、バキッボキッと嫌な音を立てている。壁をたたきわる音だ。
っていうかそもそも、なんで俺の部屋が戦場なんだよ! 俺が怒られるだろ!
アルファは妖だ。
思えば、この山に入ってこられてるところがおかし⋯⋯ん?
――「ラムダに妖力を似せてきたのに」
妖力を、似せる⋯⋯?
何かが頭の端でキラリと光った気がした。
そうか。これならもしかして⋯⋯!




