5話
たしかに魔力と妖力を持つ人間は珍しいと思うけど、珍しいモノを集めるって、その後どうするんだ?
いつかテレビで見た、人間が叫びながら解剖されるシーンが頭に浮かぶ。
いやいやいや。
⋯⋯いやいやいやいやっ。
まさかぁ。仮に俺がつれていかれたとしても、そこまでしないよな。
⋯⋯まぁでも、捕まらないのが一番だな。
「それで、母さんを治すにはどうしたらいい? アルファっていう妖がやったんだろ。倒せばいいのか?」
「仮にそれで解決するとしても、アルファは七柱トップだからねぇ」
「⋯⋯仮に? 違うのか?」
「アルファはモノとモノをかけ合わせる能力を持ってるんだ。コレはたぶん、蚊と魔力を吸う妖力だね。だから、自然回復は期待できない」
蚊に刺されて、体の中に入った妖力が魔力を吸い続けるから、か。
回復薬を使ったところで、吸われてばっかりじゃ、気休め程度にしかならない。
何もできることはないのか?
俺が原因なのに⋯⋯?
あまり時間が経つと、本当に、会えなくなるかもしれないのに⋯⋯!
「⋯⋯二つだけ、方法がある。けど、一つは危険すぎるからパス」
エルは考えこむように顎に当てていた手を外し、虫を手のひらに転がした。
「アルファに、妖力をぬくモノを作らせる」
淡々と言い放ったエルの声が、かたく反響する。
シン、と耳を圧迫するような沈黙に不安をあおられ、俺は衝動的に立ち上がった。
そのまま一歩を踏み出すと同時に、グンッと腕を引っ張られる。
「何」
「何、じゃないでしょ。アルファがどんなヤツかも知らないし、場所だって分からないよね。どうするつもりなの?」
「エルが案内して⋯⋯」
「ダメ。コアは、絶対に行かせない」
強く揺るがない瞳が、警告するように金色に光る。
初めて見るエルの拒絶の表情にとまといつつ、俺もはね返すように魔力をこめて見つめる。
俺の母さんが、俺のせいで危ないんだ。
行くべきは俺なはずなのに⋯⋯なんでだ?
俺は行かせないって、エルが一人で行くってことだよな?
なんなんだよ。今までこんなこと、なかっただろ。
なんで俺が行っちゃいけないんだよ⋯⋯!
母さんもエルも⋯⋯また大切な人を失うのは嫌だ。
俺がいないところで、何も分からないで消えられたくない。
だから⋯⋯ん? また、って、なんだ?
母さんもエルも、遠くで働いてる父さんだって、ちゃんと存在してる。
俺は、誰かを失っことなんてない、はず⋯⋯っ!
ドクンッと大きく心臓が脈打って、頭がギュッと圧縮されたみたいに痛む。
エルの顔が残像を残して重なり、平衡感覚を失った俺の体がグラリとかたむいた。
「コアっ⋯⋯! また暴走して⋯⋯っ」
つかまれたままだった腕をグイッと引かれ、エルに受けとめられる。
「の、あ⋯⋯」
ノアって、誰だ。何者だ⋯⋯?
大切な人か、それとも憎むべき敵か。
少し触れただけで体が異変を起こす、失った昔の記憶は、何を隠そうとしているんだ⋯⋯?
ほぼボヤけて焦点の合わない視界で、金色の二つの光が俺を捉える。
「LEVEL3、分解。⋯⋯まさ⋯⋯に⋯⋯なる⋯⋯は⋯⋯」
底なし沼に踏みこんだみたいに、意識と頭痛が遠のく。
とぎれとぎれのエルの言葉が右から左に流れ、そのまま抵抗なくまぶたを閉じた。




