3話
「その妖は、七柱の誰かの力をかりて、僕の妖力を吸収して、人型に成長したんだと思う。その資料には、昔、妖帝がなんらかの禁術に手を出して七柱の妖力を吸収し、暴れ回ったっていう記録が書いてあるんだ」
「ふーん⋯⋯」
上の空な返事を返し、俺は手元の資料に目をおとす。
妖帝を倒すのに、妖倒士は四分の三も犠牲になったのか。とんでもないな。
⋯⋯ん? 『妖と人間の契約によって撃退』?
「⋯⋯気づいた? そのころに、妖力を使える人間がいたんだ。その人間は、妖と契約を交わしていたらしくて、妖のほうも、魔力を使えたそうだよ」
「俺と、同じような人が⋯⋯」
人間であり、妖でもある人が、昔にもいたんだ。
妖帝を倒したってことは、人間側にいられたってことだよな。
でも、契約した妖はどうなったんだ?
妖だけど、人間側に入れてもらえたのか?
次々に疑問が浮かび上がり、上から下へと流し読みをする。
⋯⋯全然書いてない。
妖帝を倒したなら、一番の功労者なはずだろ。
詳しく書いてあってもいいはずなのに、このことについては、一文しか見当たらない。
「⋯⋯結局、どっちでもないヤツは、どっちにもいられないってことか」
「あまり記録が残ってないから、言い切れるわけじゃないけどね。僕も、そうじゃないかって思ってる」
エルは感情の読めない表情で資料を見つめる。
フゥと小さく息を吐き、不安と悲しみが入り混じったような目で、俺を見つめた。
「コアと契約してるのは、僕じゃないけど。僕はコアを守るよ。僕の居場所だからね」
「それ、どういう⋯⋯ッ!」
ザワザワと胸の内が糸でなでられるように騒ぎ出す。
エルの残像が少しずつ重なってゆがみ、俺は無意識に目を閉じた。
「⋯⋯コア、ごめん。この話はやめよう」
フッと風にさらわれるように胸のザワめきが消え、俺はゆっくりとまぶたを上げる。
エルの目が金色に光ってる⋯⋯ってことは俺、また魔力暴走を起こしたのか。
なんなんだろうな。『ノア』って子に関して触れた気がすると、毎回これだ。
俺にとって、どんな人なのか。どんな妖なのか。
今ではそもそも、存在していたのかさえ記憶が危うく、唯一体の異変だけが、たしかなことを証明しているくらいだ。
軽く頭を振って息を吐き、気持ちを落ちつかせる。
「⋯⋯さて、コア。僕は散らばった資料を集めただけだからね。ちゃーんと、順番、直してもらうよ」
ニーッコリと満面の笑みになったエルが、立ち上がろうとした俺を閉じこめるように、椅子の背に手をついた。近いです、エルさん⋯⋯。
そりゃ、俺が悪いとは思うけどさ?
チラリと横目で資料の山を見る。
ムリだ! ただでさえ文字を読むのが苦手なのに、この量全部に目を通して並びかえ!?
エルさん。資料が正しく積み上がるより、俺の精神が底をつくのが先です⋯⋯。
なんとか抜け出そうと視線をさまよわせていると、エルがわざとらしく、ハァッと息を吐いた。
「どうしても嫌かぁ。そっかそっか。なら、コアには妖のデータ収集をやっててもらおうかな? けっこう、イラつくパターンのやつが溜まってるん⋯⋯」
「あー! あー! いい! 俺が資料やる!」
「そう? じゃあ僕はゲームやってくるね」
満足げにほほえんで、エルは足どり軽くテレビへと向かう。
⋯⋯そこのお前。
ゲーム? 楽しそうじゃん。そっちのほうがよくない?
って思っただろ。
違うからな。
アレは、倒した妖のデータ集めのためにゲーム内で戦うもので、コントローラーに魔力や妖力を流すことで、自分の身体能力がゲームに反映される。
そんなに強くない妖なら、俺でもできるんだけど、人型の妖は十分なデータをとることができない。
なぜか。
簡単。俺とエルの実力の差が大きいからだ。
エルが『イラつくパターン』の妖と俺が戦ったところで、翻弄されるのがオチだ。面白くない。
それをやるくらいなら、苦手な苦手な文字を読んでたほうがマシってこと。
はやくもコントローラーをたたき始めたエルに恨みがましい視線を送り、俺は目の前の悪魔の壁に、ウッとうめき声をこぼしたのだった。




