2話
ヒラヒラと俺の頭に着地した一枚を手にとる。
「⋯⋯最っ悪だ。資料室から持ってきたやつなのに、順番が分からなくなった」
ボウゼンとつぶやくエルの瞳は、ウツロに資料を滑ってる。
こんな量の資料、どこから⋯⋯って思ってたけど、ウチの資料室か。
一族の妖退治についての歴史資料が保管されてるって聞いてるけど、もしかしなくても貴重なモノだよな。順番も⋯⋯大切だったりする?
嫌な予感に脈打つ心臓をムシし、エルの頭に手をのせる。
「な、なぁ。時間はかかるかもだけど、また並びなおせばいいだろ? 俺らでやれば、終わるって」
「⋯⋯何枚あると思ってるの? ざっと一万枚はあるんだからね?」
「う、ごめ⋯⋯」
「ま、いいよ。幸い、持ってくるときに妖力こめといたから」
バサバサッと乾いた音を立て、無数の資料が机の上に積み上がる。
一枚一枚拾い集めてたら時間かかるけど、数秒で終わらせられるなんて、便利な術だよな。
なんで妖力なんかこめたんだって聞きたいけど、俺がこういうことするって思ってたって言われたら嫌だしなぁ⋯⋯。
いたたまれなくなりそうだ。
「コア、ちょうどいい資料持ってるじゃん」
エルの言葉に、ずっと握ったままだった紙に視線をおとす。
うぁ、文字が細かすぎて、読む気がしないんだけど⋯⋯。
はやくもまぶたを閉じかけた俺の意識を起こすように、エルが瞳を金色に光らせた。
「はいはい。僕が教えてあげるから、起きて」
「ん⋯⋯。って、妖力はあんまり妖以外に使うなって言ってるよな?」
「コアはたぶん大丈夫」
わざとか、無意識か、エルは俺と目をそらすように体を資料に向けた。
⋯⋯エルなりの、気づかいなんだろうな。
前回の任務でおかしかった点は、二つじゃない。
人型に成長した妖、俺がエルに送った妖力、そして、俺がつぶやいた『ノア』という少女。
俺はなぜか、昔の記憶があいまいなところがあって、今まで一度も思い出したことはないし、支障もなかったから、放っておいてたんだけど⋯⋯。
エルが考えるには、妖以外は持っていないはずの妖力を、俺が使えるようになったことで、何かしら記憶の引き出しに引っかかったんじゃないか、ってことらしい。
俺ら一族は本来、魔力しか持ってない。
つまり、今の俺は、どちらでもあるし、どちらでもないってことになる。
俺があまり気にしないように、エルはこの話をしないようにしているんだと思う。
「僕は一応、妖帝の下の、七柱の一人なんだ」
「⋯⋯なんだそれ。聞いたことない」
「コアは書物も資料も、何も読まないからねぇ」
あきれたようにペタンと耳を伏せたエルが、資料に爪を立てる。
「ここ。七柱の妖、って書いてあるでしょ。数十年に一回、妖帝が主力の妖を集めて、戦わせる儀式みたいなのがあってね、そこで生き残った妖が七柱に任命されるんだ。毎回、十二人くらい集められるんだけど、七人に減ってるよ」
「? 妖同士で攻撃しても、効かないだろ? なんで減るんだ?」
「そうだけど、コア、吸収って知ってる? ほら、前回の妖が僕に使ったやつ」
エルが人食い妖に、妖力を吸われて弱っていた姿を思い出す。
よっぽど悔しかったようで、エルが全身の毛を逆立て、プルプルと震えた。
「妖って、妖力で存在を保っているようなものだからさ。七柱の儀式では、妖同士の戦いで動けなくなった妖から、妖力を吸収されて消滅させられる」
「妖って、妖力がなくなると死ぬのか⋯⋯。じゃあ、あのときのエルは⋯⋯」
「そう! なんとなく七柱の妖力の気配がするなって思ってたんだよ! 油断したぁ!」
興奮したように声が高くなったエルの体に、ジジッとノイズがかかる。
「ちょっ、ここでやるなっ!」
慌ててエルを放り投げると、その小さな体は完全にノイズにおおわれ、空中で人型になる。
セーフ⋯⋯!
膝の上で人型になられても困る。というか嫌だ。
スタッとキレイに着地したエルは、ばつが悪そうに頭をかき、少し赤い顔のまませき払いをした。




