表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/8

06.戦争再び

 屋敷にて。

 戻った私は、使用人全員を集めた。


「皆さん、私の妹達のせいで、今再び戦争の危機が迫っております」

「……」


 それを聞いて、使用人達の顔が青くなった。


「さて、皆さんに聞きたい事があります。今回のリーネ達がしでかした事、知っていた者、心当たりが有るものはいますか?」


 かなりの数の使用人が顔を青くする。


「なるほど、どうやらいるようですね。後で名乗り出なさい。そうすれば、死刑だけは逃れるように配慮してあげましょう」


 私はそう言い、さらに使用人達へ向けて話し始めた。


「あなた達は、実際に事が起きないと理解できないのですか?知っていたのならすぐに私の報告するべきでした。おかげで戦争の危機です。今回もし戦争が起きれば必ずや王国は滅ぶでしょう」

「そんな……」


 今回の企みを知っていたであろう使用人の声が聞こえた。


「企てに参加した者、黙っていた者の処分も必要ですが、私達桜宮家が今回の戦争で決して王国側に付かないと宣言しなければなりません。帝国に勘違いされないように注意しつつ、王国へ侵攻する帝国軍への支援をしなければなりません」

「て、帝国軍への支援をするのですか」

「ええ。帝国軍へ支援をしないという事は、今でも王国の一員であると宣言するも同義。そうすれば私達は皆殺しにされるでしょう。皆さんはそれを望みますか?」

「……」


 反発した一部使用人に対し、私は現実を突きつけた。


「では、解散してください。今後私達は帝国の行動に同調して動きます。帝国から支援要請などありましたらその都度行動を起こしますので、皆さんも覚悟しておくように」


 そして使用人達を解散させたあと、私は執務室で執事のガルフと相談を始めた。


「とりあえず、桜宮家防衛のための兵士の増員とかは決してしないでください。帝国に翻意ありと思われるといけませんからね。あと、有事の際には金銭と食料の提供を可能な限り出させてほしい、とこちらから申し出てます」

「金銭だけではなく、食料もですか?」

「ええ、備蓄食料の大半を放出してもいいわ。とにかく、桜宮家は帝国に従う忠義の臣である事を内外に知らしめたいの」

「忠義の臣、ですか」

「そうよ。桜宮家の当主は帝国の英雄だけど所詮は成り上がり、妻は元敵国の公爵家の人間。しかもその親族は全員が大罪人。だからこそ、今この戦争で桜宮家は帝国に従うという事を示さねばならないの」

「かしこまりました」

「だから、今の財務状況や保管食料に関する書類を持ってきて。第一次輸送にどの程度送るか考えるから」

「了解しました」


 ガルフが部屋を出て行く。

 にしても、本来幸太郎様にお聞きしなくてもいいですか?と聞かれてもいいのに聞かれなかったな、と思った。

 まぁ、今は緊急事態だから仕方ないし、事前に好きにしていいと幸太郎様の許可をもらっているからいいんだけれどね。

 彼はここが公爵家だった頃から執事だったから、幸太郎様より私が主人だと言う意識が強いのだろう。



 他にもやるべき事がある。

 私の元婚約者の王太子、いや今は王子のアルフォード様に、今回の件を報告し、一刻も早く降伏する事を勧めなければならない。

 ……いや。

 もし私が手紙を王国に送った事が帝国にばれた場合、桜宮家が裏で王国とつながっていると疑ってしまうかもしれない。

 となると……まずは帝国に王国に手紙を送る許可をもらい、その後に内容の検閲してもらってから桜宮家の無関係の人間に手紙を送ってもらわなければならない。

 ……時間がかかりすぎる!


 とは言え、出来る事は何でもやりたい。


 私は、帝国皇室がある御所へ手紙を書き始めたのだった。




 手紙を送ってから数日後。


「あぁ、やっぱり」


 結局、王国は帝国に対して謝罪を行わず、戦争が再度勃発してしまった。

 帝国軍は既に国境の街を落とし、王国首都を目指して向かっている、との連絡が入った。


 夫である幸太郎様は、兵を率いて戦っているらしい。

 ちなみに、ここで言う兵とは桜宮家が派遣した兵士ではなく、どこの家にも所属しない(国に所属しているともいえる)帝国軍の兵士達だ。

 兵の派遣をしようとしたが、指揮をする華族から断られてしまった。

 裏切りを警戒してのことだろう。

 無理もない。

 桜宮家、特に私には信頼が無い。

 ましてここにいるのは元王国の人ばかり。

 後ろから襲われたらたまったものでもないだろうし。

 まぁ、それに先の戦争でかなり民衆の数も減ったから兵数としてそもそも期待できないのもあるのだろう。


 それからさらに十数日が立ち、帝国軍が快進撃を勧めている中、ついに帝国皇室より手紙を王国へ送ったとの連絡が入った。

 ……恐らく、王国の降伏を勧める手紙と一緒に送ったのだろう。


 手紙の内容は結局妹達がした事と、早期降伏を進める内容になった。

 さらに、その中には妹二人と結婚式に参加した貴族を帝国に差し出す事を勧める文章も入れておいた。

 もし彼女達を帝国に差し出せば死刑になるかもしれない。

 だが、戦争の犠牲者を少しでも少なくするためには、これが一番いい方法なのだ。

 アリアには悪いが、リーネには自らの行動の責任を取ってもらわなければならない。

 たとえ、その結果命を落とす事になっても。


「奥様。帝国府から手紙が来ております」


 ガルフが執務室に入ってきた。


「手紙?何かしら」

「緊急を要する内容との事です」

「なんですって」


 大急ぎで手紙を開ける。


「え?」

「奥様、いかがなさいましたか?」


 書かれていた内容、それは……


「王国王城で行われる和平交渉に出ろ、との命令よ」

「和平交渉ですか?しかし、そのような事、元王国貴族の奥様にさせるなど」

「理由は検討がつくわ」


 おそらく、毒殺を恐れての事。

 私が殺されるならそれを理由に戦争継続。

 殺されないならそれもそれでよし。


 というわけ、か。

 おそらく帝国側が望む条件は既にできているから、それを王国側に受けさせるのが私の仕事だろう。

 私の忠誠心を試すために。


「奥様……」


 ガルフも見当が付いたのだろう。

 私の事を心配そうな目で見ている。


「安心して。何としても戦争を終わらせて、帝国への忠誠心を示して見せるわ」

「心配でございます。リーネ様もアリア様もいなくなって、スフィア様もいなくなっては、私、あの世で先代様に何と言っていいか」

「……あの二人の事は言わないで。お父様の事も。後、様は不要よ。公爵は戦争を引き起こした大罪人。妹達は帝国の顔に泥を塗った桜宮家恥さらしなのだから」

「申し訳ございません」


 頭を下げるガルフに、私は笑いかける。


「あなたには本当に感謝しているわ。今でもいろいろと手伝ってもらえて。お給料だってまともに払えなくなったのに」

「お嬢様が生まれる前から仕えております。もう年も年ですから、今更給料が低いからと仕える先を変えたりしませんよ」


 そう、ガルフの給料は今回の二度目の戦争開始後に大幅に減給された。

 というのも、帝国から要望された資金や食料が思っていたより多かったためだ。

 これは、あえて多く注文してどの程度送ってくるかで桜宮家の忠誠度を測っているのだろう。

 だから、私はあえて注文より多くの量を送った。

 忠誠を示すために。

 しかし、その為に桜宮家では使用人の大量解雇が行われた。

 結婚式の事を知っていた使用人は退職金も紹介状を無しに解雇。

 その他の使用人も、かなり減額された退職金と招待状を渡し、解雇した。


 現在残っている使用人は、本当に最低限の使用人のみだ。


「すぐに支度をするわ。乗合馬車で行くから、無駄遣いのない程度の必要なお金を計算しておいて」

「かしこまりました」


 昔なら専用の馬車、そして護衛を従えて行くが、そんな金はないので乗合馬車で行く。

 乗る場所まではもちろん徒歩だ。

 一人歩きで危険だから剣を持っていく。

 昔訓練しておいてよかった……実戦経験は無いけど。


 こうして私は必要最低限の物だけを持って、帝国が指定した集合場所に向かった。

 なんとしても和平交渉を成功させるために。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 時間も人手も信頼関係も足りない中頑張るスフィアと幸太郎に幸せになって欲しい。 [気になる点] スフィアの巻き戻り何か理由があるのか。 [一言] 丁寧な返信ありがとうございます。 すみません…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ