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05.結婚式

 幸太郎様がいらしてから数日後。

 今日は私達の結婚式だ。


 私が前の記憶を思い出してから式場を探したので苦労したが、何とか会場を見つける事が出来た。


 今、私達はウェディングドレス……ではなく白無垢を着ている。

 今や帝国人の私達は帝国内の式場で帝国風の結婚式をするのが当たり前なのだ。

 もちろん、リーネとアリアも同じ服装をしている。

 リーネは昨日で謹慎を解いた。


 ちなみに、前の時は結婚式なんてそもそも行っていない。


 本番前。

 私は困惑していた。

 なぜ困惑しているかと言うと、それは私達が招待した招待客についてだ。


 私とリーネは知り合いの王国貴族に招待状を送ったのだが……

 なんとほぼ全員が来たのだ。


 ちなみに、私やリーネの婚約者は元から招待していない。

 さすがに元婚約者を誘うのは無礼だと思ったからだ。


 しかし、私は正直不参加の手紙が山ほど来ると思っていた。

 当たり前だが、私の相手はつい最近まで戦争していた帝国の英雄。

 まして、急に招待状を送ってしかも当日まで時間が無い。

 断る理由もあるのだから。

 なのになぜか来ている。


 おかしい。


 ちなみに、幸太郎様の招待客としては、彼の知り合いの平民以外にも、帝国華族が何人か来ている。

 中には、かなり上位の華族までいる位だ。

 こう見ると、帝国華族の方が、きちんと現実を見ている事が分かる。

 いくら成り上がりとは言え、平民の英雄である幸太郎様を自勢力に取り組んでおけば色々便利と思っているのだろう。


 そして、もう一つの理由。

 今、私達三姉妹は新婦控室にいて、友人達があいさつに来ている。

 ちなみに、幸太郎様とは別の部屋にいる。


 友人達と会話して気付いたのだが……

 なぜか全員楽しそうなのだ。

 特にリーネの友人達は楽しそうだ。


 なぜ楽しめるのだろう。

 正直、彼女達は参加なんてしたくないが王国貴族としてプライドを脱ぎ捨て、笑顔の仮面を被って参加しているものだと思っていた。

 しかし、彼女達を見ていると、とてもそうは思えない。

 本当に楽しそうに見える。


 どういうことなのだろう?


「ねぇ、ちょっと質問があるのだけれど」

「なに?スフィア」

「どうして今日の結婚式に参加したの?私、絶対に来てくれないと思ったのに」


 私は小さい頃からの友人に質問した。

 そうすると、友人は笑って言った。


「やだなぁ、友人の結婚式に参加しないわけないじゃない」

「ええ、それはすごく嬉しいんだけど……」

「こんなに楽しいイベント、見に来ないなんてありえないよ」

「?」


 楽しいイベント?

 その言葉に私は少し違和感を感じた。


「ねぇ、楽しいイベントって?」

「あぁ、それね。実は私達でちょっとしたサプライズを考えているの」

「サプライズ?ちょっと、帝国華族もいるのよ。絶対に迷惑かけないでよ」

「大丈夫。あなた達にとってとてもいい事だから」

「お願い、あまり他の人に迷惑かけないでね」

「大丈夫、任せておいて」


 そう言って彼女は去って言った。


 そして、式は始まった。

 式は問題なく進んでいく。

 挙式が進んでしばらくした頃。

 式の会場に、一人の男が入って来た。


「リーネ!」


 嘘でしょ……。

 入って来た男の顔を見て、驚いて固まってしまった。


 入って来たのは、グリム・グージリン侯爵令息。

 彼は、王国貴族で……そしてリーネの婚約者だった男だ。


「リーネ、迎えに来たぞ!一緒に逃げよう!!」


 は?

 私は彼の言葉に思わず二度目のフリーズをしてしまった。

 何を言っているの?

 これは戦争で決められた賠償の一部でもあるのよ。

 それを台無しにするなんて、戦争を起こすつもりなの?


 まぁ、これはリーネが断るだろう。

 この程度の常識が分からないわけがないでしょうし。


「グリム!待っていたわ!!」


 は?

 リーネがグリム(こんな奴呼び捨てで十分)の方に走っていった。


「リ、リーネ!自分が何をやっているか分かっているの」

「分かっているわ、姉様。私は真実の愛に生きます」

「あ、あなたは……それでも元王国貴族ですか!」

「ええ。私は現王国貴族として、黒猿との結婚なんて絶対にお断りします」


 嘘でしょ。

 ここには帝国華族だっているのよ。

 その前で黒猿って言うなんて。


「リーネ。いい加減にしなさい。そして、今すぐ皆さんに謝りなさい」

「嫌よ。ねぇアリア」

「!!!」


 リーネの方に気を向けていて気付かなかった。

 なんと、いつの間にかリーネの横にはアリアが立っていた。


「アリア、戻ってきなさい」

「嫌、お姉様。私もそんな奴と一緒に暮らしたくない」

「何を言ってるの?」

「だって、そいつギーク兄様を殺したんでしょ?そんな奴大っ嫌い!」

「ちょっと、それ誰に聞いたの?」

「リーネ姉様。リーネ姉様はお姉様がおかしくなって私とリーネ姉様を利用しようとしているって。その為にお父様の絵画とか捨てたって」

「それは、必要な事だから」

「私達をだます為でしょ!」

「違うわ!」

「嘘!リーネ姉様が言ってた!私達を利用する為にそいつと協力しているって」

「アリア……」


 駄目だ。

 アリアに私の声は通じない。


「ばいばい、お姉様」

「せいぜい黒猿と仲良くすれば。バーカ!」


 そう言ってアリアとグリム(リーネはグリムに抱きかかえられている)は走って去って言った。

 王国側招待客も、


「ざまぁみろ!」

「いいもの見れた」

「黒猿の顔、最高!」


 そう笑いながら、走り去っていった。


 私は、呆然として力が抜けてしまった。

 そして、ようやく理解した。

 あぁ、そうか。

 王国貴族は馬鹿ばっかりなんだ。

 戦争に負けたばかりなのに、その相手を馬鹿にするなんて、頭沸いているとしか思えない。

 前の時の私もそうだったのだろう。


 ふと周囲を見渡すと、幸太郎様もショックを受けたのか茫然自失としていた。


「幸太郎様、大丈夫ですか?」

「あぁ……でも、まさかこんな事になるなんて。リーネはともかく、アリアまで……」

「申し訳ありません。私がしっかり監視していれば……」

「スフィアは悪くないよ」


 幸太郎様はそう言って抱きしめてくた。

 私も抱きしめ返す。


 彼の体は震えていた。

 恐らく、私も震えているのだろう。


 それから数分後……


「ごめん、スフィア」

「いえ、大丈夫です」


 少し落ち着いた私は、周囲の人に今回の謝罪をしようと、立ち上がって気が付いた。


 そして……私は愕然とした。

 残っているのは式のスタッフや帝国側招待客のみ。

 招待客のうち平民はこんな事態になった事を怒っていた。

 問題は華族の方だ。

 彼らは……笑いをこらえるのに必死になっていた。


 それで気付いた。

 あぁ、彼らは事前にこの事を知っていたんだ。

 そして、あえて見逃した。


 これにより、帝国は自らの正義の名の下に再度戦争を起こす事が出来る。

 リーネ達はまんまと嵌められたのだ。


 私は大急ぎで土下座した。


「申し訳ありません!この度の妹達がしでかした事、許せる事ではないと分かっております。ですが……ですがどうかご容赦を!!」


 全員に謝る。


「私からもお願いします。あの二人は僕の妻の妹なのです。どうかお許しください」


 なんと、幸太郎様も土下座してくれた。

 幸太郎様……

 こんな時なのに、私は嬉しくなった。

 彼は、自分が悪くないのに一緒に謝ってくれたのだ。

 自分に恥をかかせた人を守る為に。

 彼女達が私の妹だと言う理由だけで。


「ふぅむ。まぁ、王国の出方次第だな。あの金豚どもが謝罪し、きちんと賠償金を払ってくれればこちらも示威行為だけで済ますのもやぶさかではないだろう」

「あ、ありがとうございます」


 この中で最も地位が高い華族がそう言ってくれたので、私は彼に感謝の言葉を言った。


「ふむ……では奥様は今回の件について確認した事があるので、来てもらおう」

「かしこまりました」

「待ってください。私もついて行きます」

「当主殿は被害者だ。ついて来なくてもかまわない」

「彼女は私の妻です。無関係とは言えません」


 幸太郎様は、こんな時まで私を心配してくれる。

 私は嬉しくなった。


「やれやれ。では奥様の事情聴取をしている間は待合室で待っているがいい。すぐ終わるだろうから」


 こうして、私達の結婚式は最悪の結果で終わった。

 私は形式的な事情聴取だけを受けて、屋敷へ戻ることになり……

 一方、幸太郎様は屋敷に戻らず、王国侵攻軍にそのまま参加する事になった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幸太郎が誠実な所。 [気になる点] 王国側の参列豚全匹は当然として馬鹿妹も2匹とも焼き金豚にしたらいいんじゃないか。これだけのやらかしで死罪免れるとかあり得んやろ。 [一言] 初めて感想を…
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