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02.いらない物は処分しましょう。

 食後。

 私はリーネに話しかけた。


「リーネ。手伝って欲しい事があります」

「なんですか?仕事なら使用人にやってもらえば……・」

「いいえ、これは使用人ではなく、私達自らの手でやらねばならない事です」


 私は、食堂に向かうまでの間に気付いた事があり、それをやらねばと思っていたのだ。


「アリア、あなたは部屋で勉強していなさい」

「分かりました。お姉様」


 アリアは自室に向かって歩き出した。

 一方の私は、リーネと一緒に歩き出す。


 そして、仕事を始めた


「お、お姉様!何をやっているんですか!」

「何って、お父様の姿が描かれた絵を処分する為に壁から外しているのです。あなたはあちらのお母様の絵を外してください」

「なぜですか!なぜそんな事を!!」

「当たり前ではないですか。この二人は今回の戦争を引き起こした大罪人。彼らの絵姿を残しておくなど、恥さらしもいい所です」

「そんな……」

「言っておきますが、彼らの名前は一族の名簿からも消します。大罪人は名簿から消す、それは決まりですから。あぁ、お兄様と弟達の名前も消さないといけませんね」


 一族の名簿から消す。

 それすなわち、一族の恥という事を意味する。


「そこまでしなくても!」

「そこまでするのです。彼らがしたのはそれほどの大罪なのですから。停戦条約を無視し、帝国華族の毒殺を企み、戦争を引き起こした罪。消されて当たり前です」

「そんな……」

「いいから、あの人達の絵姿が書かれた物だけでなく、関連する物全てかき集めなさい。本当に必要な物だけ残し、他の物は全て焼却処分します。あと、私達は改宗もしますから、国教のバルトランス教に関する物も必要ありませんね。全て廃棄します。ああ、でも歴史的に重要な物や貴重な物は高く売れるでしょうから、とりあえず倉庫にしまっておきましょう」


 公爵家が王国からもらっていた貴重品や高級品……歴代の公爵家が報酬としてもらっていた物等々……は、全部売って今後の我が桜宮家運営資金として有効活用しよう。


「公爵家の物を捨てるなんて、やりたくない!」

「やるのです。と言うより、やりなさい。それが敗戦国から戦勝国に嫁ぐ私達の使命。家族へのせめてもの償いとして、私達の手でやりましょう」


 リーネは、もう何も言っても無駄、と分かったのか、


「……わ、分かりました」


 そう言って黙って作業を始めた。


 彼女のやりたくないと言う気持ちはわかる。


 でも、私は知っている。

 前の時。

 そう、民族浄化が起こった際にこれらの品は全て焼かれて無くなった。

 一緒に暮らしていた使用人達と一緒に。

 過去に囚われたせいで、あんな事になったのだから。


 こうして庭に集められたのは、彼らの姿が書かれた絵を含め、様々な思い出の品。

 兄弟の物は、一緒に遊んだ王国製のおもちゃや、本等思い出深い物もある。

 ちなみに、一族の名簿は残してある。

 今後はリーズフィリア公爵家の一族の名簿としてではなく、桜宮家の歴史の一つとして残っていくだろう。

 ちなみに、これら以外にも屋敷に飾ってあった王国国旗やバルトランス教の物ももちろんある。

 ここにあるのは全て、これからの我が家……帝国華族桜宮家にはあってはならない物だ。

 それらの品は、集められた。



「姉様、本当にやるのですか?」

「ええ」


 そう言うと、私はそれらに火を点けた。

 燃えていく。

 私と家族の想いでの品が焼けて行く。

 誇り高き公爵家の歴史ある物が燃えていく。


 リーネは、泣いている。


「姉様……姉様は何で泣かないの?悲しくないの?私達の思い出が、公爵家の歴史が、全部灰になっていくんだよ」


 そう。

 私は全然悲しくなかった。

 涙一つ零れていない。


 だって、私はもっと悲しい炎を見た事があるから。

 民族浄化で、全てが焼かれるあの炎。

 人が焼かれる匂い。

 助けを求める声。

 叫び声、泣き声。

 そして、それらを引き起こしたのが、結婚したくない、という自分の我儘という事実。

 あの時の悲しみ、絶望に比べれば、過去を捨てる事など、悲しくもなんともない。


 リーネには酷な事だとは思うけれど。


「姉様、どうしてしまったの?昨日まではこんな冷酷な人間ではなかったのに……」

「リーネ。覚えておきなさい。過去や絆を大事にする事は素晴らしいですが、それに囚われ今を無視すると、取り返しのつかない事になるかもしれませんよ」


 そう、私は過去や家族との絆を大事にした。

 そのせいで、結ぶべき絆を疎かにしてしまった。

 そして、私は民族浄化を引き起こしてしまったのだから。


「分からない。姉様が何を言っているか分からないよ……」

「今分からなくてもいいです。ですが、帝国華族として、理解するよう心掛けなさい」

「私は帝国華族じゃない!」

「いえ、帝国華族です。元王国貴族というだけ。いつまでも過去に囚われず、現実を見なさい。でないと、本当に大切な物を失いますよ」


 前の時の私のように。


「うぅぅ……わぁぁーーー!」


 リーネは今まで以上に声を出して泣いた。

 でも、私はそんな彼女を気にしている時間はない。


「リーネ。あなたはアリアに今回の事を説明しておきなさい。私は 明日の出迎えの準備をしなければいけないので時間がありません。キチンと自らの責務を果たしなさい」


 アリアを参加させなかったのは、まだ子供の彼女にショックを与えないためだ。

 でも、説明はしなけらなならない。

 本来は私がしなければならないが、私は明日の準備で忙しい。


「言っておきますけど、アリアにおかしなことを言ったら……許しませんからね」


 そう言って私は返事も待たずに屋敷に向かって歩き出した。

 明日までに時間がない。


 可能なら屋敷の中の模様替えもしたい。

 今の屋敷は当然王国風になっている。

 それを出来れば帝国風にしたい。

 とはいえ、元王王国貴族の私にはそんな知恵はない。

 帝国のそう言った知識に詳しい人を雇わなければならない。

 ……さすがに今回は間に合わないけど。


 そんな事を思いつつ仕事をこなし……ついに幸太郎様がいらっしゃる日が来た。

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