表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/8

01.巻き戻った私と、幸太郎様を嫌う上の妹のリーネと使用人達。そして下の妹のアリア。

……

…………

………………


 私は目を覚ました。


「あれ?」


 私が目を開けると、そこにはよく知っている天井があった。

 公爵領にある屋敷の、私の部屋だ。


 起きて周囲を見渡すと、そこは間違いなく私の部屋。


 おかしい。

 この屋敷は民族浄化の際に焼失した、既に無くなった建物だ。

 私はその一部始終を見ていた。


「どうして……」


 私は焼かれて死んだはずだ。

 体が焼かれる感覚を、今でも覚えている。

 あれは絶対に夢じゃない。


「もしかして……過去に戻った?」


 本で読んだ、死んだ人間が過去に戻るという話を思い出した。

 もし、そうだとしたら……私は何時に戻ったんだろう。


 着ている服を改めて確認すると、寝間着だった。

 カーテンの隙間からは日の光がさしている。

 という事は……朝?


「誰か!誰かいませんか!!」

「お嬢様?何かありましたか?こんな朝早くに」


 やって来たのは我が家のメイドのアンだ。


「今日は何年何月何日ですか?」

「今日ですか?今日は……」


 彼女が言った日を聞いて驚いた。

 なぜなら、明日は……


「じゃ、じゃぁ明日は……」

「はい。忌まわしい黒猿が来る日です」


 そう、明日は私達の夫になる桜宮幸太郎が来る日。

 つまり……私は彼に初めて会う日の前日にタイムスリップしてしまったのだ。


「あの、お嬢様……大丈夫ですか」

「ええ、大丈夫よ」

「黒猿に嫁ぐお嬢様の心労、お察しします」


 彼女が心底私を心配しているのは分かる。

 だけど、私は言わねばならない。


「アン、黒猿と言うのは止めなさい」

「え、何をおっしゃられて……」

「アン、私達姉妹は彼と結婚する事は確定しています。つまり、彼は私の未来の夫です。私の夫となる人への侮辱は許せません」

「も、申し訳ありません。で、ですが……」


 アンは頭を下げ謝っている。

 少し申し訳ない気もするが、言わねばならない。


「ですが、ではありません。今やリーズフィリア公爵家は無く、ここは大光牙帝国領内なのです。その事を肝に命じなさい」

「は、はい……」

「今回は注意だけにしますが、次はありません。他の人にもこの事を伝えてください」

「か、かしこまりました」

「では、着替えますから手伝ってください」

「は、はい~!」


 アンに手伝ってもらって寝間着から着替えた。

 さて、これからどうしよう。

 アンが去った後、色々考えていると……


「姉様!」


 やって来たのは上の妹のリーネだ。

 過去に戻ってきた事は分かっていたが、顔を見ると嬉しさがこみ上げる。


「どうしたの、リーネ。そんなに楽しそうに」

「だって、明日が楽しみじゃない!あの黒猿、どんな顔するかな~!」

「楽しみ?」


 おかしい。

 リーネが幸太郎様に会う事を楽しみなんて言うなんて。


「歓迎の準備も挨拶も無しの完全無視!ザマァ見ろって感じよね」


 ……そうだ、思い出した!


 彼は明日の昼頃に来る。

 そして、歓迎の準備を私達は何もしていないのだ。

 というか、する気も無かった事を思い出した。


 前の時での私達は徒歩で来た彼を出迎えずに無視したのだ。

 恐らく、近くまで乗合馬車で来て、そこからこの屋敷まで徒歩で来たのだろう。

 そして、本来なら来た彼と一緒に食事をするのに、私達はわざと早めに昼食を取り、彼には何も食べさせなかったのだ。


「大変!急がないと!」

「姉様?」


 私は大急ぎで走り出すと、屋敷で働く使用人を集めた。


「今から桜宮幸太郎様を出迎える準備をします。今あるもので可能な限りの準備をしてください。必要な物は買い出しに行ってください」


 使用人達は私のいきなりの発言に驚いている。

 無理もない。

 今まで何の準備をさせていなかったのに、こんな命令をするなんて驚くに決まっている。


「あ、あの……お嬢様?」

「なんですか?」

「何で黒猿なんかを」

「私の未来の夫を黒猿と言わないでください」

「も、申し訳ありません」


 謝る使用人。

 周囲の使用人も驚いている。


「いいですか、明日来るのは私達三人の未来の夫です。無礼は許しません。分かりましたね」

「「「は……はい!」」」


 使用人達は多少動揺したようだが、受け入れていてくれた。


「いいですか。あなた達はこれから私達三人の未来の夫、つまりこの家の新しい主人を出迎えるのです。きちんと準備しないといけません。とは言え、今の今まで準備させなかったのは私の責任。ですから、明日いらっしゃるまでに可能な限りの準備をしてください」

「「「かしこまりました」」」


 あからさまに嫌そうに同意する。


「さぁ、準備してください。時間はありませんよ」


 そう言って手をパン!と叩く。

 使用人達は各々の持ち場に向かって走り出した。


「姉様!どうされたのですか!黒猿を歓迎するなんて!!」


 リーネが怒った顔で問いかけてくる。


「リーネ。黒猿と言うのは止めなさい。彼は私達の夫になる人なのですよ」

「正気なの!?姉様だって昨日まではあんなに嫌がっていたのに!」


 まぁ、嫌がっていたのは事実。

 記憶が戻ったのは今日だから。


「リーネ。私は目が覚めたのです。今回の戦争、停戦条約を破ったのも、負けたのも王国です。そして、私達は責任を取り桜宮様と結婚するのです。それが王国貴族だった者としての義務です」

()()()?……姉様、王国貴族だったって言ったの?」

「ええ、そうよ」


 リーネは激高した。


「何馬鹿な事を言っているの?私達は誇り高きマジイリス王国の由緒あるリーズフィリア公爵家の人間なのよ!その誇りを忘れたの!!」

「あなたこそ何を言っているのですか?私達リーズフィリア公爵家はすでに滅びました。私達はまだ結婚こそしていませんが、帝国華族である桜宮家の人間です」

「違う!私達は」

「いい加減現実を見なさい!」


 分からず屋のリーネに、私は怒鳴りつけた。


「私達は戦争に負けたのです。そして、王国と帝国の間で結ばれた停戦条約により、私達は桜宮幸太郎様と結婚し、帝国華族になる事が決まっているのです」

「嫌!私は王国貴族よ!」

「よく考えなさい!私達が彼と結婚しないという事は、停戦条約を反故にするも同じ。そうすれば王国と帝国は再び戦争になり、今度こそ王国は滅びるでしょう」

「知らない、そんな事私知らない!!」


 まだ現実が見えて来ていないようだ。


「心は今でも王国貴族だと言うのなら、それもいいでしょう。ですが、王国貴族ならば政略結婚は当たり前。その相手が帝国華族だっただけの事。王国貴族としての責務を果たしなさい!リーネ・リーズフィリア公爵令嬢!!」

「嫌!そんな責務果たしたくない!!」


 リーネは大声を出しながら、駄々をこねる。


「彼と結婚しないのなら、この屋敷にあなたの居場所は在りません。今すぐ出て行きなさい」


 そう言って私は屋敷の入り口の方を指さした。


「……わ、分かりました。姉様」


 ようやく観念したのか、彼女は自分の部屋へ向かってフラフラと歩き出した。

 理解してくれたのだろうか……。

 まぁ、心から理解できるわけないのだろうけど。

 でも、せめておかしな行動をすることは止めて欲しい。


 でも、分かった出て行く、なんてリーネが言わなくてよかった。

 自分で焚きつけておいてなんだが、もし本当に逃げだしたら罪人として彼女を指名手配しなければならないからだ。

 妹に追っ手を放つ事にならなくてよかった。

 心底そう思った。




 ……さて、と。

 次に私は、下の妹のアリアの部屋へ向かった。

 今後の為に、アリアに言い含めないといけない事がある。


「アリア、起きてる?」

「お姉様~?」


 部屋に入ると、アリアは起きていてちょうど着替えが終わった所だった。

 私は使用人に出て行ってもらうと、アリアを椅子に座らせた。

 私も対面に座る。


「アリア。明日の事だけど……」

「うん。幸太郎って言う悪い人が来るんでしょ?」

「その、幸太郎様についてなんだけど……」


 アリアは不思議そうに首をかしげる。


「アリア、幸太郎様はね、悪い人じゃないの」

「なんで?お姉様も、リーネ姉様も、幸太郎は悪い人だって言ってたよ」


 そうだった。

 私とリーネ二人して、彼の事を悪し様に言ってたんだった。


「いい、アリア。会ってもいない人の事を悪人と決めつけるのは、よくない事なのよ」

「でも、お姉様だって幸太郎の事を悪人だーって」

「そうね。私も悪かったわ。会ってもいない人を想像で決めつけるなんて。でもね、アリアよく覚えておいて。私達、人の上に立つ者は、人の話を易々と信じては駄目よ。きちんと調べて、その話が本当か確認するの。わかった?」

「わかりました。姉様」

「偉いわ。アリア」


 アリアの頭を撫でる。

 とても嬉しそうに笑っている。


「ねぇ、アリア。幸太郎様といっぱいお話しましょ。そうすれば、仲良くなれるかもしれないわ」

「わかりました、お姉様」

「偉いわ。アリア」


 また頭を撫でる。


「じゃぁ、朝食に行きましょう」

「はい。お姉様」


 こうして話が終わった後、私とアリアは食堂へ向かった。

 食堂には、リーネが既に着いていて、私達の到着を待っていた。


 リーネに普段の元気さが無い。

 私に言われた事が響いているのだろう。

 まぁ、仕方ないけど、耐えてもらうしかない。


 そう思いながら、私達は食事を開始した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ