00.これからザマァされる私は、自らの行いを反省する。
この大陸にある二つの大きな国。
マジイリス王国と、大光牙帝国。
二つの国は、宗教対立を抱えていた。
一応停戦協定が結ばれていたものの、停戦十周年記念のイベントで王国のだまし討ちにより戦争が再発。
だが、それを事前に察知していた帝国により王国側は大敗した。
私、スフィア・リーズフィリア公爵令嬢と二人の妹は王国貴族になったばかりの桜宮幸太郎に嫁ぐ事に。
しかし、納得できなかった私達は彼を虐めぬき、毒殺されるのを見て見ぬ振りした。
そして、彼が死んだ結果……帝国は彼が毒殺された事を理由に王国に対し民族浄化を宣言。
大敗した王国は、王族貴族、平民までも皆殺しにされる事に。
私はようやく愚かさに気付いたものの、時すでに遅く……。
処刑された私が戻ったのは、彼に会う前日。
私は、今度こそ彼と仲良くなって、悲惨な未来を変えて見せる!
ごめんなさい……
ごめんなさい…………
私の目の前には、死体の山。
私が生まれ育った国、マジイリス王国の国民達。
私達、いや、私の行動が原因で殺された、国民達。
既に王族、そして王国貴族は全員殺された。
そして、平民達もつい今さっき最後の一人が私達の目の前で殺された。
残ったマジイリス王国の人間は私と二人の妹だけ。
いや、私のお腹の中の子供を入れれば四人か。
いや、違う……か。
今の私達は、マジイリス王国の人間ではない。
この民族浄化を行っている、大光牙帝国の人間だ。
私達が暮らす大陸には、複数の国がある。
その中で最も大きい二つの国。
私達が産まれた国、マジイリス王国(通称、王国)。
私達が嫁いだ国、大光牙帝国(通称、帝国)。
私の名前は、桜宮 スフィア
結婚前の名前は、スフィア・リーズフィリア。
ちなみに、上の妹は桜宮 リーネ
下の妹は桜宮 アリア。
家名が後ろに来るのは王国人の証だ。
その逆、家名が前に来て、さらに漢字と言われる文字を使うのは帝国人の証だ。
さらに違いとして、
王国には貴族がいるが、帝国には貴族の代わりに華族という一族がいる。
そして、王国は一夫一妻制で、一方の帝国は一夫多妻制。
また、王国人は金眼金髪がほとんで、帝国人のほとんどは黒目黒髪。
このように二つの国は多くの違いがあり、互いに見下し合っていた。
王国人は帝国人を黒猿と嘲笑い、一方で帝国人も王国人の事を金豚と嘲笑っている。
私達三姉妹は、元々マジイリス王国のリーズフィリア公爵家の人間だった。
そして、王国と帝国は、昔から宗教対立をしている。
とは言え、一応は停戦中だったけれど。
そして、その停戦は一方的に破られた。
……王国のしかけた策略によって。
帝国で行われた停戦十周年記念のイベント。
王国側が用意した飲み物には毒が入っており、それを帝国華族に飲まして殺害、そのまま帝国に攻め入り、一挙に制圧、という算段だった。
しかし、帝国は事前にその情報を察知。
死んだ華族全員が影武者であり、攻め入った我が国の軍は敵に囲まれ一網打尽になった。
……私の父であるシュナイゼル・リーズフィリア公爵と、ルクリスお兄様はそこで戦死した。
お兄様は未だ十八歳だった。
こうして始まった戦争は、帝国の一方的な蹂躙と言ってもよかった。
最初の作戦にかなりの戦力をさき、勝利疑い無しと思っていた王国は軍の再編に時間がかかってしまったのだ。
そして、私の上の弟、リーネの双子の兄である十五歳のギークは、公爵領に攻め込んできた帝国軍を喰いとめる為に戦い、死んでいった。
結果、王国は帝国に対し降伏した。
なんとか自治を得る事は出来たけれど、その代わりに多額の賠償金、土地の譲渡が行われ、王国の領土のうち、約三割が帝国に吸収されてしまった。
そして、譲渡された土地の中には、我が公爵家の土地も含まれていた。
また、同時に行われた戦争責任を問う裁判において、今回の戦争を主導した我がリーズフィリア公爵家は当然一番重い罰を受ける事になった。
公爵夫人のルナリアお母様と、次期公爵に繰り上がりで成ったまだ十二歳の下の弟アルフは、死刑。
特に母は今回の戦争を引き起こした大罪人の一人として、さらし首にされた。
これにより、公爵家に残ったのは私達三姉妹だけになった。
そして、私達は……今回の戦争で帝国軍人として活躍し、その報酬として帝国華族の伯爵に特例でなった男性、桜宮 幸太郎に嫁ぐこととなった。
心底嫌だった。
まず、私と上の妹リーネには婚約者がいる。
しかも、私の婚約者のアルフォード様は王国の第二王子という高貴な血の持ち主だ。
なのに、敵国の、しかも成り上がりの人間と結婚なんて、嫌に決まっている。
そして、もう一つ嫌なのが、三姉妹全員が彼に嫁がされる事。
一夫一妻制の王国人の私達にとってと、帝国の一夫多妻制は吐き気がするほど嫌な事だった。
そして……何より嫌だったのは。
彼が弟のギークを殺した奴だったからだ。
とは言え、敗戦国の人間の辛さ。
私達は彼に嫁ぐしかなかった。
ちなみに、新居とその領地は、現帝国領で元王国の公爵領だった所。
つまり、私達が元々過ごしていた所だ。
そこに桜宮幸太郎が新しい当主としてやって来た。
当然のように、私達は彼を心底嫌った。
使用人と一緒になって、彼を虐めぬいた。
アルフォード様と不倫だってした。
彼は終戦後に国王陛下と王太子が処刑されたので、国王になっていた。
私は彼と何度も体の関係を持った。
時には王国王宮内で。
時には公爵領の自室で。
夫であるあの人に見せつけるようにした事もあった。
お腹の中の子供は、間違いなくアルフォード様との子だ。
なぜなら、あの人とは一度も肉体関係を持っていないからだ。
私は元婚約者との情事を、彼に何度も話した。
いかに素晴らしく幸福な時間だったか、と。
そして、大きくなっていくお腹を、彼に見せつけていた。
あんたの子供なんか産まないよ、という想いを込めて。
そして……運命のあの日。
私は彼の食事に毒が入れられたのを知っていた。
だが、無視した。
何もしなかった。
そして、彼はそれを食べ、死んだ。
こうして、私達と彼の約一年間の夫婦生活は終了した。
その時、私の心は歓喜に包まれていたのを覚えている。
ザマァ見ろ、と。
私達の同胞を殺して出世した奴を殺してやった、と。
弟のギークの仇を討った、と。
だけど……。
彼は自分が殺されるであろう事を理解していたのかもしれない。
殺された翌日、帝国は王国に対し自国の英雄が殺された事を理由に民族浄化を宣言。
強襲された王国はなすすべなく……あっという間に滅んだ。
そして、捕らえられた王族貴族全てが処刑、いや惨殺された。
そして今日、国民も同じ様に殺された。
残るは元王国貴族で、現帝国華族の私達三人だけ。
今回の民族浄化を引き起こした私達は、最後に処刑される事になった。
そして、今その時が来たのだ。
……死を目の前にして思う。
あの人は、どんな気持ちだったのだろう。
いきなり華族になり、知り合いも、仲間も誰もいない所に行かされて。
周囲に仲間は誰もおらず、ただただ虐められて。
そして、自分の妻と不倫相手との嬌声をこれ見よがしに聞かされ。
さらにその良さを聞かされ。
なおかつ、他人の子を嬉々として妊娠した自分の妻を見て。
……私だったら、正気ではいられないだろう。
私達は殺されたって文句は言えないような事をしたのだから。
それに、彼は帝国に訴え出る事だって出来たはずだ。
なのに、何もしなかった。
文句ひとつ言わなかった。
そして、もし彼が毒殺されることを知っていたのなら。
毒物を食べる瞬間、彼は何を思っていたのだろう。
私にはわからない。
私達は今、小さなボロ家の中に押し込められている。
「お姉様……」
まだ幼い、十歳のアリアが私に抱き着いてきた。
「姉様、悔しい、悔しいよ」
十六歳の上の妹リーネは、悔しくて泣いている。
「皆……ごめんなさい」
「なんで姉様が謝るの?。悪いのは帝国の奴らなのに」
リーネがそう言うと、アリアも頷いた。
「いいえ、私達は夫であるあの人ともっと仲良くすべきでした」
「何を言うんですか、姉様!」
リーネが怒って言う。
「いいえ、リーネ。私達は民を守る貴族なのですよ。彼をひどく扱えば、戦争が起こる事は簡単に想像出来たはずです。王国貴族として、私達は彼との結婚を受け入れるべきでした」
「違う……違う…………」
「それに、あの戦争の責任は一方的に停戦を破棄してだまし討ちしようとした私達王国、ひいてはそれを主導した公爵家にあります。私達が責任を負わずしてどうするのですか」
「姉様…………」
「それに……」
私は、夫に想いを向けた。
……そう、あの人、幸太郎様は間違いなく私の夫なのだ。
ほとんど話した事もない夫。
趣味も、好物も知らない私の夫。
そう言えば、一度も肉体関係を持っていなかったっけ。
「私達は彼と結婚したのです。政略結婚とは言え、私達は帝国の人間になったのですよ」
「姉様、何馬鹿な事を言っているの!私達があんな黒猿の国の人間だなんて」
リーネが蔑称を使って怒っている。
「アリア、もう遅いけど、そう言って現実を受け止めなかったから、王国は滅んだのよ。帝国華族になった私達だったら、両国の関係をよくする事が出来たかもしれない。そうなるよう努力すべきだった。それが、元王国貴族でありながら帝国華族になったという私達にしか出来ない事だったの」
「お姉様……幸太郎と仲良くすれば皆幸せだったの?」
「そうね……そんな未来もあったかもしれないわね」
アリアの質問に、そう答える。
もし……もし彼と仲良く出来たら。
こんな事にならなかったかもしれない。
考えてみれば、アリアは私達が彼を嫌っていたから嫌っていたようなものだ。
最初から仲良くしようと試みて見れば、彼女は彼と仲良くできただろう。
リーネは分からないけど……私とアリアが彼と仲良くしていれば、彼と仲良くできたかもしれない。
そして……四人で一緒に仲良く…………
……思わず笑ってしまった。
何を考えてるんだろう。
彼は死んだ。
殺された。
毒を盛られている事を知ってて何もしなかった私も同罪だ。
そう、彼は私が殺したようなものだ。
「ねぇ、皆。死んだらあの世で彼に会いに行きましょう。私達、彼の事何も知らないじゃない。だから、死んだら彼と一緒におしゃべりしたりしましょ」
「姉様……」
「お姉様……」
その時だ。
急に周囲の温度が上昇した。
家に火が付いたのだ。
私は、死の恐怖に怯えながら妹達を抱きしめた。
「姉様!」
「お姉様!」
二人も抱き着いてきた。
二人も震えている。
嫌だ……嫌だ…………
死にたくない!
私は未だ十七年しか生きていない。
死にたくない!
だけど……火は家を焼き、そして逃げ場のない私達を襲った。
そして……私は死んだ。
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