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愛宕坂の勝軍地蔵  作者: テッドオフ
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プロローグ

堺市から福井市を見ると北東の方角になるけれど、それが吉とか凶とか、そういうことじゃないと思う。私の場合、生まれながらに男運に恵まれてないという、それだけのことなんだ。そもそもケチの付け始めが大学入学の時じゃなくて、高校三年生の夏、好きな男子と初エッチした時なんだから。

 いや、そうじゃないかも。三年生になったのを機に空手をやめた、それが原因かも。そうじゃないなら高校生になったとたん、どんどん背が伸びて、一年の秋には百七十センチにまでなった、それが原因かも知れないよ。

 高校以来、私は背の高いのがコンプレックスになった。顔は小学生のときから可愛い系で、男子からはモテたほうだと思うわ。痩せっぽちで胸もぺったんこだったけど、巨乳よりかよほどよかった。それが背が伸びるにつれ、胸も人並みにふくらんでしまった。

 背の高いのと肉付きが良くなったのが空手の障害になり、イメージ通りに身体が動かなくなった、と言うのは言い訳かも知れないね。その頃の私は空手に興味を失っていたの。空手以外のことをやりたくなっていたの。それって色気づいたってことなのかな。自分の背が高すぎることがとても気になって、鏡の前に立つ時間ばかりが長くなっていたんだよ。


 空手をやめると時間が余って、それでバンドをやってる男子のおっかけみたいなことをやった。夏休みの最初の夜、私はその彼と大人の経験をした。

 でも夏休みが終わらないうちに、彼が他の女子とも同じことをしているのを目撃した。彼が下半身を裸の女子の顔面に押しつけてるのを見ちゃって、私は吐き気が収まらなかった。映画で見てきたような、きれいな愛の行為とは全然違うものだった。

 そんなことで私の初体験は思い出したくないものとなり、恋愛にうんざりした私は、二学期に入ってからはひたすら受験に専念した。その甲斐あって無事、第一志望の福井大学に入学、念願のひとり暮らしを始めたのだ。


 大学近くのマンションの家賃は月額五万二千円。仕送りだけではやっていけないけれど、それが相場らしいし、福井大学生ならバイトは幾らでもあるからと言われ、そこに決めた。

 ところが入学して二ヶ月目に家庭教師のアルバイトを探し始めたけれど、どこも面接で断られた。面接に同行してくれた家庭教師の中年の営業マンは、最初のうちは一年生だからかも、なんて言ってくれてたんだけど、最後には、

「あなたが美人過ぎて、お母さんが心配みたいです。男子生徒なら本人が、でもそれよりご主人が間違いを犯さないかを心配しているみたい。桃園さんは美人でスタイルが良くて、私らオジサン連中から見たら、あなたはとってもソソられるんですわ〜」だって。


 家庭教師の仕事がなくても他のバイトを見つけないといけない。せめてニ万円くらい稼げたら、と私は自転車で通えるところにあるファミレスで働くことにしたの。三年生の中野光男さんとはここで知り合ったんだ。彼はバイトのくせにチーフで、学生スタッフのシフトを組んでいた。だから話す機会も多く、頼りになる存在でもあった。

 実際、正社員からも信頼されていたし、店内を歩き回る姿形も美しかった。バイトを始めてひと月後、仕事帰りに私は誘われるまま彼のマンションに付いていき、男女の関係になった。


 今思えば、自分の中に思い上がりがあったのかもしれない。私は自分の容姿に自信があった。誰かと歩いている分には背がもう少し低い方が良かったけれど、ひとりで町を歩いててショーウインドウに自分が映ると、そのスタイルの良さに心が踊ったもんね。

 私は付き合う男性にも、何よりまず容姿を求めていた。中野さんはハンサムで背も高く、だから私は彼のマンションに入ったのだと思う。でも彼は最低の男だった!

 爽やかな笑顔も立ち振舞いも、すべて女をモノにするための小細工であり、私もその手に引っかかってしまった馬鹿な女のひとりでしかなかったの。それでも最初は彼の誠意を信じていたわ。でも半年経って、彼の女遊びがおさまらないことを知り、別れた。

 それで中野さんのことは忘れてたのに、やがてキャンパス内やファミレスのスタッフルームから、彼が私との夜の生活について、まわりの友人知人にペラペラと喋っているらしいとの噂を聞いた。こんなことをしたら喜ぶ、彼女にあれさせた、これしてもらったなんてことを面白可笑しく暴露しているそうで、私は友人たちからそのことを聞いたの。

 私はとても激しくショックを受けた。駄目な男だとは思っていたけど、そこまでとは思っていなかった。私はすぐにファミレスのバイトを辞めた。

 それですぐに次の仕事を見つけなければならない。で、選んだのがコンビニだった。遅いシフトのときは深夜二時までというのがあるから、用心のために近所の店を選んだ。

 でも、ここでも悪運は続いてるの。店長というか、経営者の息子が私に言い寄ってくるのよ。ドライブ行こうとか、家に来いとか。断り続けていたけれど、そのうち帰りに後を付けられ、部屋まで知られてしまったの。

 バイト先を替えようかと友人の谷本信子に相談すると、いい占い師を知ってるよ、と紹介されたので行ってみたの。


「あなた、ちっとやそっとじゃ男運は良くならないわね。なんか、とんでもなくおかしな、ってゆーか怪しげな男に出会わない限り、その悪運は離れてくれないねえ。バイト先を替えるかどうか?どっちでも結果はおんなじよ」




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