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 焼けた木々。


 雪のように舞い落ちる火の粉を眺める。


「安らかに眠りなさい。神はきっとあなたを見捨てない」


 どちらかと言えば、自分へと言い聞かせるように呟いた。


 紅い森。


 炎が燃え広がり、漆黒の森を焼き尽くそうとしている。


 レインの眼に青白い光が宿る。


 両手を広げ、空気を凍てつかせるイメージを広げる。


 ふいに周囲の気温が下がりはじめ、熱かったはずの場は瞬く間に凍てつくほどの冷たさで包まれていく。


 大きな雪の結晶が生じると、燃えゆく木々へとぶつかり、ガラスのようにはじけた。


 炎は消え、森は静けさを取り戻していく。


 焦げ臭い匂いとともに、周囲には静寂が戻った。


 焼け焦げた跡に佇むレイン。そこには近づきがたい存在感があった。



 ――……いで。



「……?」


 意識が途切れかける。


 ひどい頭痛がした。


 動悸が始まり、その場に膝をつきたくなる。


「っ……!」



――しょうがねえなあ。じゃあ俺が、最後に男を見せるよ。



「何なの?」


 ノイズ。脳裏には漏電でもしたかのように不快な音がよぎる。


 どこかから声が聞こえた。


 周囲は一部が黒焦げになった森で、ダークエルフの仲間たちもかなり遠くにいる。


「誰なの?」


 見えない存在へと語りかける。


 その響きは、なぜか悲痛だった。



 ――じゃあな。俺は行く。みんなで仲良くやってくれ。その姿が見られるなら、俺は満足だ。



 ――離して! お願い!



 ――分かってやれ。


 分かってやってくれ。


 だけどこうするしかないんだ……。



 ――俺がもっと強ければ。



 ――こんなの、あんまりだよ……。



 ――よう、バケモノ。



 ――地獄へデートだ。覚悟しな。



 ――轟音。何かが爆発した音。


 どこでも爆発は起こっていないはずなのに、それは脳裏でこれでもかと鳴り響いている。


 レインはたまらずにその場へと倒れ込んだ。


 ビリビリと、電気の走るようなノイズが聞こえる。


 悲痛な声。男女の会話。


 見たことのないはずの映像が、奔流のように流れてくる。


「ぅあっ……がっ……あっ……」


 膝をつき、頭を抱える。


 脳裏に濁流のような悲しみと不快感が流れる。大脳に電流でも流されている気分だった。



 ――死んでしまえば、ぜんぶ終わりなんだ。



 ――じゃあな。後は頼んだ。



 ――いやああ!


 悲痛な叫び声。


 ――慟哭どうこく


 初めてそれに該当する声を聞いた。



「やめ……て……」


 脳裏を断片的な映像が駆け抜ける。


 はっきりと分からないが、それらの一つ一つを見るたびにどうしようもない悲しみに襲われた。


「ああああああ!」


 耐え切れずに、叫び声を上げた。


 発狂に等しい咆哮ののち、レインはその場で倒れ込んだ。


 死に満ちた森は、思い出したように静けさを取り戻していく。


 ダークエルフの戦士たちは、圧倒されたまましばらく動けなかった。


 漆黒の森は護られた。無事とはいかないまでも、また持ち直すことは可能だ。


 彼らにとって、レインは救世主そのものだった。


 だが、誰に顔にも心からの笑みは浮かんでいなかった。


 敵から死の天使と恐れられた女は、敵を殺戮したのちに発狂して倒れた。誰もがその情報量を心の中で処理しきれていない。


 レインは静かに眠っている。


 気を失った英雄に、誰もが底知れない不安を抱いたのだった。

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