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竜に乗った女

「うわっ! いっぱいいるぞ」


 ケリーが呻く。レーダーには恐ろしいほどの生体反応。機体の真下では武装した人間とダークエルフの戦士たちが衝突している。荒くれ者がこれだけ集まっているのだから、死傷者はかなりの数になりそうだった。


 森の入り口付近では、漆黒の森へと侵攻してきた人間たちとダークエルフの戦闘員が闘っている。


 ここ最近の攻撃はひどく、何人もの同朋が殺され、女は犯されてきた。それだけに飽き足らず、帝国軍は漆黒の森に軍事侵攻を仕掛けるとともに、無条件降伏を要求している。


 誇り高きダークエルフたちが、そのような侮辱に屈するはずがなかった。半ば必然的に人間とダークエルフの戦闘が始まった。


 揺れる小型飛行機の下で、おびただしい数のダークエルフと人間が殺し合っている――そう思うと寒気がした。機体が身震いしたように、嫌な揺れ方をする。


 小型飛行機は敵から奪ったものをメカニックのケリーが改造したものだ。オンボロの機体がいつまで持つのかがすでに怪しい上に、燃料もそれほど残っていない。「彼女」を戦場に投下したら、さっさと引き返さないと燃料切れで墜落してしまう。


 敵の発する殺気なのか、それとも単にこの飛行機がボロすぎるだけなのか、機内のところどころから、不安を煽る音が聞こえてくる。


 謎の警報音がピーピーとなる。意味は知らない。知っていてもどうしようもない。


 ケリーはレーダーを見て毒づく。


「クソ、聞いてねえぞ。こんな数の敵をどうしろって言うんだよ」


「大したことないわ。どうせ烏合の衆よ」


 目を遣ると、辛辣な言葉を吐く黒髪のポニーテールが気だるそうにコーヒーを飲んでいる。これから散歩にでも行くかのような、リラックスした姿だった。


 ツヤのある褐色の肌。黒衣に包まれた細長い手足は、筋肉質で張りがある。見るからにアスリートを思わせる、美しい肢体だった。


 レイン・ハンネマン――漆黒の森で生まれた女戦士。


 ダークエルフ随一の美貌と言われながら、鬼神のような強さで畏怖と敬意の目を敵味方の両方から注がれてきた英雄。


 その(よわい)は17と、乙女の青春を送っていてもおかしくない年頃だったが、当の本人はまったく色恋には興味を示さず、方々から来る求愛をことごとく断ってきた。


 レインにとって目下の興味はダークエルフを独立へと導くことにしかなかった。


「そうは言うけどよ」ケリーは続ける。


「相手の数が多すぎる。いくらお前が強いからって、あの人数をどうしろって言うんだ? 弱い奴ほど多数の敵を相手にしたがるっていうことわざがあるらしいぜ」


「弱い奴は、ね……」


 レインはコーヒーカップを置くと、飛行機のハッチ部分へと歩いて行く。


 現在機体は敵の大群上で旋回している。真下に下りれば四方八方からの攻撃が待っている。パラシュートで呑気に降りていけば、下から弓矢の餌食になるだろう。


 レインはハッチのレバーを引き、機体脇の扉を開いた。機体内部に、強い風が吹く。レインの黒髪が風になびいた。


「ん、降りるのか? いや、待て。この状況でパラシュートは……っておい!」


 ケリーが言い終わる前に、レインは大空へと飛び降りた。


 高度1万フィートからのダイブ。


 落ちれば粉々になる。


「バカ、何考えてんだ!」


 ケリーは駆け寄り、開いたハッチから叫ぶ。当然その言葉が届くはずもない。


 レインは頭を下にして、隕石のように落ちていった。


 瞳を閉じて、ブツブツと呟きはじめる。


「身体強化」


「攻撃力倍増」


「速度強化」


「魔力増幅」


 凄まじいスピードで地面へと堕ちていきながら、レインは自身へと強化魔法をかけていく。


「スキル 無慈悲発動」


「スキル 竜使い」


 目を開ける。無垢で、大きな瞳。


 レインは空中で指笛を吹いた。


 気圧が変わる。遠くから咆哮――でかい塊がすさまじいスピードで近付いて来る。


 空気を揺らしながら、翼の生えたドラゴンが飛んで来た。


「アマリリス」


 ドラゴンの名を呼ぶ。アマリリスは咆哮してこたえた。


 レインはくるりと体の上下を入れ替える。


 それに合わせて、ドラゴンはレインの下へと巨体を滑り込ませた。尋常でない量の筋肉へ着地する。そのまま、ドラゴンの首にしがみついた。手綱を引き、体を固定させる。


「行きましょう」


 レインはそう言うと、アマリリスはもう一度咆哮して、敵のもとへと飛んでいった。


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