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回想4

「おいおい、冗談キツいぞ」


 ティムが笑う。だが、その笑いは狂気じみていた。


 異常な状況を前すれば、異常な反応をする方が普通なのだ。


 黒煙の向こうで、絶望的な光景が広がっている。


 先ほどの攻撃魔法は、特大の爆弾を落としたようなものだ。それなのに、オディウムはまだ生きている。


 爆発で焼き尽くしたはずのツタは、またクレーターの中央から伸び始めて、みるみる同心円状に広がっていく。悪夢のような光景だった。


 オディウムがもう一度咆哮する。


 傷だらけになった巨竜の頭部が、あちこちから血をほとばしらせながら空中のティムたちを睨んでいる。


『レイニング・ブラッド』


 エフェクターでもかかったかのような声で、オディウムが呪文を唱える。


 刹那、空が紅くなる。


 血のような色をした空から、紅い光が雨のように降り注ぐ。


「まずい」


 ティムはすぐさま防御魔法の結界を張った。


 ティムとエリック、そしておのおのの搭乗するドラゴンが球形の結界に包まれる。


 結界に降り注ぐ紅い雨。そのたびに、結界が高熱で削られるおぞましい音と、防御フィールド越しに伝わる熱が恐怖を感じさせた。


 雨は援護に来ていたミラグロ軍の兵士たちにも降り注いでいく。


 あちこちから絶叫と悲鳴が響いてくる。


 光に当たった者の体が焼け、次々と絶命していく。文字通り死の雨だった。


「地獄かよ」


 結界の中からエリックが呻く。


 ティムが咄嗟の判断で防御結界を張ってくれなければ、自分もあの兵士たちのように溶かされていた。


「エリス!」


 はっとしてエリスの搭乗する飛行機を紅い空の中に探す。


「安心しろ。彼女も結界を張っている。今ペアストーンで訊いたら無事だった」


 ティムが雲の向こうを指さす。どうやらそちらの方向でエリスの乗る飛行機が難を逃れているようだった。


 だが、レイニング・ブラッドと呼ばれる高位攻撃魔法の威力は深刻だった。


 それを一言で表現するなら天災に等しい。


 紅い雨があちこちに降り注ぎ、大地を、人を焼き尽くしていく。まるで世界の終末を見せつけられている気分だった。


 このままいけばミラグロの軍勢は全滅。ティムが張っている結界もそう長くは持たない。


「どうするよ」


 誰にともなく、エリックが呟く。


 目の前のバケモノに勝てる気がしない。まるでサメと対峙させられた金魚の気分だった。


 力の差が歴然としている、なんてものじゃない。


 それは、もはや別次元の生命体に他ならなかった。


 脳裏へ走馬灯のように今までの出来事が流れていく。死ぬ覚悟はとっくにできていたつもりだったが、いざこの場面に来て初めてその実感が湧いたようだった。


「エリック」


 今までにないトーンの声を聞き、驚いてティムを見る。


「ちょっとエリスと話させてくれ」


 結界の中で、ティムがペアストーンを見せる。嫌な予感がした。

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