リグル・ナイトバグ
———『リグル・ナイトバグ』
東方project第4作品目である東方永夜抄における1面ボス。
その姿は一見、人間の子供だと思う程の小さな体躯を持っており、綺麗と言うより可愛いと言った方が正しい、所謂童顔な顔であり、その髪はショートカットで短くまとめられ、瞳と同じ、美しい緑色を写している。
しかし、人には無い器官、触角が頭から2本伸びており、彼女がただの可愛らしい少女ではなく、人間を喰らう『妖怪』であることを否応がなしに知らしめてくる。
そんな彼女が、ゲームの中にしかいない。いや、いないと思っていた相手が今目と鼻の先にいる。
昨日からの不可思議な事があったからかこんなことでもすっと飲み込めた。
「おいおいおい、まさかここって⋯⋯」
俺はどうやら幻想郷に来てしまったらしい。
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ヤバいヤバいヤバい!
え?マジで俺今幻想郷に居んの!?
確かに昨日から意味わかんないことばっか起きてたけどまさかこんな事になるとか誰が思うか!
苦節32年、辛いことばっかの人生にこんなターニングポイントが訪れるなんて!
「兎に角先ずは......」
話してみたい。リグルちゃんと。
ゲームのキャラが現実に出てきたら?なんてありきたりな話は高校時代良くしてたけど、いざその場に来るとどんな感じなのか見当もつかない。
声は?顔は?口調は?服装は?二次創作との相違点は?
あげればキリが無いほど気になることはある。
取り敢えずこんにちはからだよね?
森の中からの脱出方法とか聞いて、森から出つつ話を膨らませて、チルノちゃんとかと合流しちゃったりして!
そんな妄想を膨らませながら小走りでリグルに近づく。
ザシュザシュと葉っぱを踏みしめ、足を進める。
もう憧れの対象に会うまで数メートルの距離、期待と喜びに満ちたその表情は膨らみ⋯⋯
そして砕けた。
違和感を感じたのは直ぐだった。
自分が大地を踏みしめる音ではない、別の音が耳に入った。
ガサガサ、ガサガサ。
小動物が近くを駆けているような音。
それに加えて虫の歌声が響く。
視界の端を何かが通り過ぎる。
今までの無音が嘘のようにうるさくなると、察しの悪い俺でも分かった。
リグル・ナイトバグの蟲だと。
「これはッ」
「気付くのが遅かったですね」
突然後ろから声がした。
バッと前を見ると先程までいたはずの少女は忽然と姿を消している。
冷や汗が噴き出した。
後ろにいる。確実に。
信じられない速度で後ろに回ったのだ。
こちらの存在を知っていて敢えて近づかせたとしか思えない。
でも一体どうして。なぜ。なんで―――――
「ねえ、貴方って外の世界から来たんでしょ?」
「⋯⋯ああ。そうだ。」
「だよね!ここらじゃ見ない格好だしね!良かったよ、私に見つかって」
おや?案外友好的だ。
いきなり後ろに回ったから確実に敵意があるもんだと思ったが、そんなことも無いかもしれない。
震える身体を気合いで止め、冷や汗を拭いながら後ろを振り返る。
⋯⋯そこには満面の笑みを浮かべたリグルと、大量の蟲が佇んでいた。
「本当に良かったよ。外の世界のヒトはとっても美味しいからね!」
マズイ。
マズイマズイマズイマズイマズイ!
勝手に足が後ずさる。
もはや止められない震えが全身を襲う。
身体は言うことを聞かなくなり、たっていることが出来なくなった。
ドサリと土に尻をついた。
さっきまであった浅はかな考えや感情は消え去り、頭を支配しているのはその圧倒的な『恐怖』。
「まっ―――」
「じゃあね。バイバイ」
次の瞬間、彼女は眼前に突然現れ⋯⋯
腕が俺の胸を貫いた。
「うぎゃぁぁぁぁああああ!!!」
「やっぱり、美味しいね」
脳が圧倒的な痛みと熱さに襲われる。
涙が視界を覆い、胴体からは圧倒的な喪失感を感じる。
ボヤける視界の端には血に濡れた何かを頬張るリグルの姿が映った。
心臓が食われた。
それを理解すると同時に指先にも力が入れられなくなった。
死ぬ。
そう思うと視界のボヤけが黒に変わっていった。
「リグ⋯⋯ル⋯⋯」
「あれ?私の名前知ってるの?⋯⋯まぁいいか。誰だか知らないし。じゃ、蟲ちゃんたち!下半身は食べて良いよ。私は上をいただくから。⋯⋯にしても美味しいな⋯⋯」
思考が薄れゆく中で微かに見える大量に見える蟲を呆然と眺めながら、痛みと熱さと苦しみを全身に受けながら⋯⋯
死んだ。