いつもどおり
寝ぼけた頭でどうにか体を動かし、ベッドを出る。
スリッパに足をつっこみ寝室を出て洗面台へ。冷たい水で顔を洗い口をゆすぐ。
居間の扉を開けると、むっとするほど暖かい空気が迎える。本来ならまだ寒い時間だけれど、いつも夫が前日にエアコンをセットしてくれるのだ。
電気のスイッチをバチっと押してキッチンの下の引き戸を開ける。結婚した時に買ったフライパンを取り出す。少しばかり黒ずんだ白を残念に思いながら、IHの上に置いた。
IHのスイッチ、中火、冷蔵庫からはベーコン、卵はふたつ。
四枚入りのベーコンをカリカリになるまで焼く。お皿一枚に対して二枚。
それからベーコンの油はそのままに、卵ふたつをくっつかないようにフライパンに落とし、白身が透明から白に変わるのを見て水を少し注ぎ蓋をした。
その間にラップに包んで冷凍してある一食分のご飯を二つ、電子レンジにつっこむ。ぶおーん、と音を立ててご飯が回る。
今日は簡単で良いか、と小さなミルクパンでお湯を沸かす。お湯が沸騰してきたら味噌を解きいれる。一度フライパンを開け、目玉焼きをひとつ取り出す。夫は半熟が好きだから。
ミルクパンに乾燥わかめを二振り。
IHの電源を切り、自分の分の目玉焼きを皿に載せてダイニングテーブルまで運ぶ。一緒に箸を二膳。水の入ったコップも。
ピー、ピーと高い声で電子レンジが呼んでいる。
温まったご飯をしゃもじで軽くほぐして茶碗へ、お椀にはお味噌汁を。電気ケトルに水を注ぎ、食後のコーヒー用に沸かしておく。
さあ、出来た。
いつもの朝ごはんが。ほっと一息ついて、ダイニングテーブルに座る。
茶碗一杯分のごはんと簡単なお味噌汁、夫分の半熟の目玉焼きとベーコンを見て気づいた。
夫が起きてきていないことに。寝坊なんて珍しい、と寝室を見に行くと、ベッドはもぬけの殻だった。自分が眠っていたあとだけがあった。
居間に戻る。
ぼんやりと夫の分の食事を見下ろし、ゆるゆると動いてラップをかける。
昨日の夜、半熟の目玉焼きが好きな人はこの世からいなくなったのだった。
お題:静かな食卓