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8.現実を知る準備

 人ならざるものたちだって、ヒトとうまくやっていきたい、叶うのであれば共存をしたい、と考えているものは少なからずいるのだ。

 親人間派、と言われている彼らは、常日頃周りの仲間からは『無駄なことを』と言われ続けてきた。

 無駄だ、といくら言われようとも彼らはひたすらに、純粋な気持ちで信じていた。ヒトだって、自分たちのことを分かってくれる、手を取り合えるのだ、と。

 それがまさしく『夢物語』とは、彼らは思いもせず、ただひたすらに信じ続けていたある日、ルルティリアが人間の王子と婚約をする、という知らせに喜んだ。良かった、姫様は我らの考えを理解してくれている、そう思った。

 祝福の言葉を是非とも伝えたい、とルルティリアに対しての手紙を送ったところ、『どうぞ』と簡潔な返事が届いたことで、いそいそとルルティリアの住んでいる城へと向かい、祝辞を述べた……が、ルルティリアの隣にいるのはギルライハ。


 彼らの王たるべく立ち上がり、ルルティリアの心を射止めた、とてもとても、強き存在。

 血で後継を選んでいない彼ららしい、強き者が国を治める、という彼らの王の選出方法に則って、此度選ばれた存在であり、ルルティリアの最愛の人。

 入室してきたものたちを見て、ルルティリアと向かい合い会話に花を咲かせていたギルライハははて、と首を傾げた。


「……ルル、彼らは?」

「あぁ……ヒトの王が身勝手にもわたくしの意志を無視して『慣例だから』とヒトの次代の王と勝手に締結してしまった婚約の祝いを述べてくれるために、わたくしへの面会を申し出ていた者たちですわ」

「ルルには、俺がいるのに?」

「勿論。わたくしの唯一はギル様のみ、お父様やお母様はきちんと、ギル様のことについても、()()()()についてもご理解くださっております。ただ……ふふ、あの子たち店というか、親人間派の者らには伝えておりませんでしたので、それでいそいそとここにきたのでしょうね」

「へぇ、わざわざそんなことを? 何ともまぁ時間の無駄なことを」

「えぇ、本当に」


 ルルティリアの血統は、王になくてはならない大切なもの。ヒトに嫁ぐ割合と、純粋に彼らの王たる存在へと嫁ぐ割合、多いのはどちら?と問われれば『我らが王たる存在へと嫁ぐ方が勿論多い』と、迷うことなく答えるだろう。

 彼女を手に入れたいがために、ギルライハは初めて努力というものをした。

 結果、ギルライハは、ルルティリアの心も体も何もかもを手に入れられることになった……というわけだが、それを良しとしない人も少なからず存在する。他にも王位を狙うものがいるから、それは当たり前なのだが。


 しかし、それ以前の問題のようなことを今聞いたから、祝いに駆けつけたものたちは、恐る恐る声を出した。


「ルルティリア、さま」

「なぁに?」

「あなたは、人類と我らの共存の道を探すための……そういう婚約をなさるのではないのですか!?」

「……えぇ、なぁに、それぇ?」


 知らない、とでも言わんばかりにルルティリアは不思議そうに首を傾げ、困ったような顔になって溜息を吐いた。

 まるで、幼子に言い聞かせるような雰囲気だった、と当時を知るものは言う。


「わたくしも、ギル様も……あぁそうだ、お父様やお母様、王たる血筋に連なる者たち、かつての王ら、ありとあらゆる皆々様方とのお話し合いの元……すこぅし……ヒトを観察してみよう、とそういうことになったの。お前たちに言うと、真っ先に反対をするでしょう?」

「あ……あ、当たり前です!」

「そうよね、そう。でも、そろそろ現実を受け入れなさい?」

「現実、って」


 ギルライハは、そこまで言ったルルティリアをぐっと抱き寄せ、背後から包み込むように抱き締め、彼女の白い首筋にちゅう、と吸い付いた。

 あら、と愉しげなルルティリアの声に、ギルライハは蕩けるような甘い甘い視線をルルティリアだけに向ける。

 そんな彼の視線を受けながら、ルルティリアはゆっくりと口を開いた。


「かの国の、ヒトからの信仰心」

「…………っ」


 ぎく、と彼らは体を強ばらせた。

 ルルティリアの言わんとしていることはすぐに想像できて、少しだけ彼らの体を震わせる。


「以前に比べて……ものすごぉく……減っているのよね。それはお前たちも理解しているでしょう?」

「それ、は」

「でもお前たちは……それでもヒトと手を取り合える、だなんて夢物語を未だに信じている」


 ルルティリアに甘えるように抱き着いていたギルライハの、無機質な眼が、彼らを的確に射抜いた。

 彼らはソファーでのんびり座り、ギルライハはルルティリアをどこまでも大切に慈しみながらふわふわとした雰囲気なのにも関わらず、彼らに向ける眼差しだけが、どこまでも鋭い。


「……ひっ!」


 怯えたように後ずさった彼らだが、ルルティリアはギルライハと同じように、冷たく彼らをまっすぐ見据えている。

 逃がさない、とでも言わんばかりの鋭さに、彼らは目を離すことはできやしなかった。

 いいや、それどころかルルティリアの目に宿った狂気が、彼らの体を文字通り硬直させた。


「……みぃんな……理解しているのよ。このままだと、わたくしたちの身が危うい、とね。だから……」

「守る対象をただ、変えるだけだ」

「あらあらギル様」


 わたくしの台詞、取っちゃ嫌ですわ。

 そう続けたルルティリアはどこか愉しそうに、ギルライハの方を向いて、近くにあった彼の頬へとちゅ、と口付けた。


「……ルルを、少しの間とはいえ、他の輩の元へはやりたくないのだが」

「ご心配などなさらずとも、わたくしは何があろうと心も体もギル様のもの。だからこそ、貴方様が次代の王です」

「……そうか」


 ルルティリアの言葉にだけ、ギルライハは微笑み、反応し、温度を込める。

 彼女が大切にしているものは、自分にとってオマケのようなものではあるものの『大切なもの』だと、認識をしているらしい。

 だが、ルルティリアの『大切なもの』の枠から外れてしまった途端、彼は人ならざるものらしく、容赦をしない。


「あ、貴女様のお父上やお母上は、最初はお怒りだったはずだ!」

「ええ、そうよ?」

「だ、だから、そんなことをしては……」


「皆さまにご理解いただいた、それだけだ」


 ルルティリアに向けるそれとは全く異なる笑顔を、無機質なソレを彼らへと向けるギルライハ。

 普通に話したところで理解してくれるはずもないだろうに、まさか、と彼らはさっと顔色を悪くする。


「義母上も、義父上も、……そして何よりルルティリアの双子の半分、リリムノワールも、きちんと理解してくれたよ。現実を知っていただいた、それだけだ」

「それだけ、って」

「我が国の……そうだな、我らの国で貴族と言われるものに分類される者らも、理解したぞ。守りの対象を変えることも、変える理由も」


 嘘だ、と呟く彼らを、ギルライハは見据える。そして、すっと手を挙げて魔力を集中させ、ぱちん、と指を鳴らせば光の拘束具がふわりと現れて、彼らをがっちりと拘束してしまった。


「……っ!」


 ルルティリアは、その様子を見て、にこ、と微笑んだ。


「わたくし、もう一度人間界に行くの。……そうねぇ、()()()()()()()()……とでも言いましょうか。無駄なことをしに行く、と思われるかもしれない。けれどね……」


 ギルライハの腕の中、ルルティリアの眼が凶悪なほどに美しく輝いた。


「ヒトごときが……思い上がりも甚だしいと思わない?」


 自分のことをどうして自由にできると思っているのか、おびき寄せられると、何故考えたのか。

 それが餌だとも知らず、まさか本当に自分から引っかかってくれるだなんて思ってすら居なかったけれど、それならば好都合。


「どれほど、彼らがこちらを舐めきっているのか……お前たちはきちんと理解なさい? そうして、しっかりと考えなさい、現実を見なさい。こうも、ヒトは傲慢になるのだと、ね」


 そう言い残して、ルルティリアは空間転移の術式を組み上げていく。

 彼らに負担がかかりすぎないように細心の注意を払い、おびき寄せられた風でもう一度アルハザードの元へ。


 そこには、ルルティリアの本来の婚約者であるギルライハも共に向かう。しかし、ギルライハも連れてこられた彼らも、一旦姿を隠して事の行方を見守る。

 ルルティリアが言っていたことが本当なのかどうか、彼らはこの瞬間まで信じていなかったのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 こうして、話そのものは進んでいく。


 ルルティリアの呼びかけに応え、すうっとギルライハは姿を現した。


「……え?」

「誰、だ」


 アルマもアルハザードも、思ってもみない来客に目を丸くして、呆気に取られている。

 ギルライハはギルライハで、虫を見るかのような目で二人をじっと見つめ、ルルティリアの向かいへ、重力を感じさせないようふわりと降り立った。


「いらっしゃいませ、わたくしの最愛のお人」

「連れてきたよ、ルル」

「ふふ、ありがとうございます。さぁさ、ご覧なさい?」


 ルルティリアはにこりと微笑んで、床に這いつくばったままのアルハザードと、隣で呆然と立っているアルマを指さした。


「お前たちが共存したい、と騒いでいたニンゲンよ。でもね、彼らの身勝手な行動により、この国は我らの加護を自ら捨てたの」

「そん、……そんな、こと」

「あるから、俺とルルティリアが動いたんだ。だからこそ、お前たち以外の者らはこの行動を是としている」

「あ、ぁ……」

「ねぇ、そうですわよねぇ。えーと……名前、は……どうでもいいわ、そこの無様な格好の男。お前が、いらない、と宣言したことがことの始まりだものね?」


 慌てて彼らはアルハザードを見る。

 違うと言ってくれ、そう言わんばかりに懇願するように見つめたが、アルハザードは何を思ったのかフン、と鼻息荒くルルティリアの言葉をあっさりと肯定してみせた。


「あぁそうだ、化け物の加護なぞいらぬ! 加護とか抜かしたところで、どうせまやかしにすぎん!」

「……っ、まだそのようなことを仰るのですか、アルハザード様!」


 両極端な二人の反応を見て、どちらが正しいのか判別できなかった彼らは、縋るようにルルティリアを見る。

 告げられたのは、無情なる真実のみ。


「間違いなく、強がりを言った男の言葉こそ、真実よ」

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