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【コミカライズ計画進行中!】最凶姫は優雅に微笑み故郷へ還る  作者: みなと
リリムノワール

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18.まがい物の『シンアイ』

 さて、仲良く、とはどういうことだろうか。

 ルルティリアに言われたものの、リリムノワールは困惑していた。


「仲良く……。はて、仲良く……?」


 リリムノワールの『仲良く』というのは、対等にできる相手。しかしニンゲンが彼女と対等というのはまた少し異なっている。

 あくまで、人は人であり、リリムノワールたちの種族とは外見こそ同じであるものの、存在の在り方そのものが異なっているのだから、『仲良く』も基準が異なっているのだ。


「まぁでも、ルルティリアが言うなら……」


 こつ、こつ、とヒールの音を響かせながらリリムノワールは歩いていき、空間に手をかざせば転移ゲートが出現する。

 これを使って、リリムノワールが移動していくのはエステルのところ。ルルティリアがそう望むのであれば、表面上だけでも仲良くはしておこう、と考えたのだ。


 あくまで、リリムノワールが優先するのはルルティリア。他などどうでもいいが、ルルティリアだけは蔑ろになんかしないし、『ルルティリアが大切にしているならば、ギルライハのことも尊敬する』ようにしている。


「……」


 転移ゲートに手を突っ込んで、リリムノワールはくぐってエステルのところへと向かう。

 座標は分かっているから、あとは転移場所さえきちんと調整しておけば、問題なく転移できる。うっかりヒトの会議の場には行かないようにしないとなぁ、と考えながら人間界へと移動していって、姿を表す前に現地の状況を確認した。


「……大丈夫、そう」


 リリムノワールは分かりやすいように、とあえて空間を割るかのように移動していく。


 ぴきぴき、ぱりん、と氷が割れるような、ガラスが割れるような音がして、空間そのものにヒビが入っていって、ルルティリアが姿を表すと同時にエステルの前にふんわりと着地をする。


「……へ」

「こんにちは」


 リリムノワールは優しく微笑んではいるものの、それはあくまでルルティリアに『そうしろ』と言われたから。それ以上でも、それ以下でもない。


「……何を」


 しに来たの、と言葉を続けて問いかけようとしたら、リリムノワールが先に口を開いた。


「一応ね、加護を与えるニンゲンの様子を見ようかな、って思ったの。だって」


 口元は笑っているのに、目の奥は一切笑っていないことに、エステルは気が付かない。


「この前のおバカさんみたいになったら、困るから」

「この前、の……って」

「聞きたい?」


 表面上、人あたりの良さそうな笑顔を浮かべること()()は、リリムノワールは得意だ。

 そうしておけば、勝手にニンゲンが自分のことを良い人だと理解してくれるから。実際にはそんな事はありえないのに、この人なら大丈夫、という風に勝手に思ってくれる。


「……何が、あったんですか」

「まぁ……簡単な話、なんだけど」


 さて、このニンゲンは一体どうやったらこちらの話に全てを委ねるかのごとく、聞き入ってくれるだろうか。

 こういうところについては、やはりルルティリアの方が上手だな、とリリムノワールは一人で思う。自分はどうにも上手くいかないし、下手をすればヒトを怒らせてしまうので、言葉選びに時間がかかってしまうのだ。


 とはいえ、ルルティリアはあちらで『王』たる存在として君臨していくのだから、行動していかなければならないのは、リリムノワール。苦手だとかどうとか言っている暇はないが、まぁこれはある種の練習だろうなぁ、と考え直して一度深呼吸をした。


「あの……リリムノワール、様」

「なぁに?」

「さっき、途中で……あの」

「あぁ」


 そういえば話す直前だったな、と思い出したリリムノワールはデスクで仕事をしていたエステルのところに歩いていって、端にもたれる。


「簡単なことよ、ちょっとだけ煽ってみたら……ニンゲンだけの力でやっていくから加護はいらない、って啖呵をきってきたおバカさんがいたな、っていうこと」

「え」


 リリムノワールを目の前にしてか、とエステルはギョッとした。

 せっかく加護を与えられる状態にまでなっていたというのに、自らの手でそれを無しにしてしまうだなんて、そんな馬鹿がいるのか、と口をあんぐりと開けてしまった。


「そ、んな……こと」

「あるの」


 とても愉しそうに笑ったリリムノワールは、己の手のひらをすっとかざして、そしてぐっと握った。


「……良いのよ、だって、自分でそれを宣言してしまったのだから、受け入れるしかないじゃない。違っていて?」

「……そう、ですが」

「やれる、っていうならやってもらわないと……ねぇ」


 くく、と笑って言えば、視線を向けてはいないけれどエステルの方から、かたり、と小さな音が聞こえた。身動ぎでもしてしまったのか、と考えつつ肩越しにリリムノワールはエステルに視線をやった。


「怖い、って思った?」

「それ……は」


 怖い。

 率直にいえば、怖い、以外の感情はない。自分が言ってしまったから仕方ないとは思うけれど、誤魔化せるわけもないだろう。


「正直に言ってもらえる方が、楽だけど」


 リリムノワールの声音に嘘は無さそうだが、果たしてどう思っているのかが分からないから、エステルはどうやって言葉を紡いでいるのかが分からなくなってしまう。


「怖い、です」

「そう」

「それは良かった」

「どう、して」

「だって」


 笑みを顔に貼り付けたままで、リリムノワールはゆっくりと口を開いて言葉を続ける。


「怖くない、だなんて嘘をつかれたら、遠慮しなくなっちゃう」


 可愛らしい声で、とても無邪気に、さらっと言うものだから、エステルはポカンと口をあける。手にしていたペンがぽろ、と落ちてからころころとデスクを転がっていき、そのまま床にかつん、と落ちる。


「……落ちたけれど」

「……あ」


 ありがとう、と言いたかったけれど、口の中がいつの間にかかさかさとひりついていて、うまく話せなくなってしまっている。

 エステルは慌ててデスクの上に置いてあったお茶をぐっと飲んで、慌てて立ち上がってペンを拾おうと視線を床に向ければ、入ってきたのはリリムノワールの靴の先。


「…………」

「どうぞ」


 いつの間に拾ったんだろうか、と思うくらいの速度で、リリムノワールはいつの間にかペンを拾ってエステルに向けて差し出してくれていた。


「あ、り……がとう」

「……どういたしまして、って言えば良いのかしら」


 こくこくと頷いているエステルを見て、リリムノワールは『何だ、こんなもので良いのか』と考え始める。

 ニンゲンは、思ったよりも色々なことを素直に受け入れてくれているようだ。しかし、こんなものが入り口でいいのだろうか、と内心リリムノワールは首を傾げた。だが、ルルティリアがこうやって警戒心を解いておけ、というのであれば、それに従うだけ。


「そ、そうです!」


 欠片ほどもない優しさを見せた、否、リリムノワールにとってはこれは優しさでもなんでもなく、ニンゲンの行動を少しだけ真似しただけなのに、何でこんな風にこの存在は目をキラキラさせているのだろうか。

 所謂、雑談が良かったのだろうか、と改めて考える。

 これが雑談になっているのであればいい。

 そういえば、こうっやってきちんと会話らしいものをすることは、前回の顔合わせの時に比べれば会話が成り立っているのだから、当然といえば当然か、と考える。ここまで考えて『ああ、何て考えることが多いのだろうか』と、リリムノワールはこっそり面倒そうな顔をするが、表には出さないようにしなければ、と頑張って顔を変えないように必死で耐えた。


「……あの?」

「何でもないわ。……ええとね、こちらとしては恐怖を抱いてくれていると嬉しいのよ」

「どうして、ですか」

「だって、ある程度恐怖を抱いてもらっておかないと……こう、色々不便だな、って」

「不便……」


 はて、と首を傾げているエステルだったが、リリムノワールの笑顔の圧のようなものには負けてしまったのか、すぐに黙ってしまう。


「(だけど、……普通に会話できる方なんだ、って分かったのは良いことかしら)」

「なぁに?」

「何でもありません! はい、本当に!」

「そう?」


 にこ、とまたリリムノワールは微笑んでみれば、エステルの表情から初対面の時よりも、警戒心が薄らいでいるのが分かる。


「(ああ……これかしら、なるほど。そうか……)」


 リリムノワールが考え、感じ、そして納得をした。

 なるほど、ルルティリアが言っていたのはこういうことか、と思う。


 餌を撒いて、食いついたらしっかり確保をする。その後は、優しくしつつ、けれど真綿で首を絞めるかの如く、じわじわと力を込めていくようにして管理をしていく。

 ルルティリアの場合はニンゲンの婚約者になっていたから、こういうことがうまいこと出来なかったのかもしれない。


 だがしかし、リリムノワールは『この状況(いま)』があるからこそ、ルルティリアにとってはいい機会だから『色々と試してこい』ということだろう。


「(……まぁ、ルルが言うなら……こうやって試して、()()()使()()()()、だけど……)」


 目の前にいるエステルを、壁を一枚隔てているように感じながら見つつ、どこか微笑ましい小動物を見るかのような、何とも言えない表情で眺めていたのであった。

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