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【コミカライズ計画進行中!】最凶姫は優雅に微笑み故郷へ還る  作者: みなと
リリムノワール

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16/17

17.新しいヒト

 にこ、とリリムノワールは微笑んだまま、一人の人間と対峙していた。

 リリムノワールが人外だということも理解はしているらしく、気丈にも彼女のことを睨み付けてはいるものの、殺意は感じさせていない。何ともまぁ器用なことをするものだ、と感じたリリムノワールは、目の前にいる人間をじっと観察し続ける。

 どうやら、『こいつの加護は欲しいけれど、頭を下げて頼むことがどうにも悔しくてたまらない』というところだろうか。面白いくらいに思考回路が読めるなぁ、だからニンゲンを見ていて飽きないんだ、とリリムノワールは微笑んだままで口を開く。


「面白い種類のニンゲンねぇ、ふふ」

「お前らを楽しませるために生きているわけではない!」

「そう?」

「そうだ!」

「まぁ……それならそれでいいんだけど」


 どことなく掴めない、そんな雰囲気を醸し出しつつ、リリムノワールはじぃ、と目の前の彼女を更に見つめ続ける。

 居心地が悪いのか、座っているソファーの上で、彼女はもぞ、と身動ぎをした。


「なぁに?」

「見ているだけで何も言わない、何なんだ!」

「それはそうでしょう?こちらを『喚んだ』のは貴女のようなものなのだから、お望みを話して頂かないと困ってしまうわ」


 言わない。

 自分の口から『何をして欲しいのか』を明確にしない限り、リリムノワールはそのまま黙って彼女のことを観察し続けるだろう。


「……っ」


 どこまでいっても自分勝手だ、そう思った瞬間にリリムノワールの笑みの種類が変化した。


「……?」


 だが、彼女は違和感がある、と思ったものの、何がどういう違和感なのか、それをどのようにして言語化すれば良いのだろうか、とかまでは分かっていないようだった。

 違和感はあるのに、それを上手く言う事ができない、というのはどれほどまでにもどかしいものだろうか。

 それを考えると楽しくて仕方ないリリムノワールは、笑みの質を変えたままでゆっくりと口を開く。言葉には愉しさが存分に含まれているが、別に揶揄うわけではないのだ。


 ただただ、愉しんでいる。


「お前……」

「なぁに?」


 言いたいことがあるなら、お前が言え。

 そんな空気を纏って、リリムノワールはこてん、と首を傾げる。

 だって、言いたいことがあるのはそちらでしょう? 呼びつけた責任もあるのだから、きちんとそれを果たしていただかなければ困る、というもの。

 そう思っても、言葉には出してやらない。


「……っ、加護を……私たちの国に、寄越してくれ! このままでは我が国は滅んでしまう!」

「ふぅん」


 リリムノワールはすっと手を動かして、空中で何やらしている。

 頼んでいるのだから、こちらの言うことを聞いてくれねば……いっそこのまま最終手段に出ても……と、そこそこ物騒な思考を抱こうかとしていたところで、リリムノワールがふと口を開いた。


「ねぇ、干ばつ被害が一番多い、っていう認識で合っている?」

「……え」

「質問に答えなさい」

「あ、合って、いる」

「あとは……ああ、地震も多いのね。地の精霊たちの遊び場になっているから、当然と言えば当然なのだけれど……少しあの子たちったら遊びすぎなんだわ」

「……」


 彼女――エステルは、ポカンとした。

 目の前にいる、『リリムノワール』という存在は、とても気まぐれ。既にとある国が見放されたばかりで、でも、ここに来てくれたことは感謝していたが、何をされるか分からない、と警戒心MAXだったにも関わらず、ふと、それが緩んだ。


「――警戒心って、維持し続けるの大変でしょう」

「!?」

「ああ、いいの。そのまま聞いていてちょうだいな」

「わ、かった」

「……あらまぁ、精霊たちの指揮系統がぐちゃぐちゃになっているところへ、そちらが国を作り上げてしまったことで更におかしなことになっている……へぇ」


 ぽかん、とエステルが口を開けたまま聞いていると、リリムノワールがふと視線を向けてきて、呆れた眼差しを向けてきていた。


「何で分かったんだ、みたいなお顔なさらないでくれる?」

「え、あ、いや、あの」

「お前……ええと、名前は何ていうの」

「エステル。……エステル・ブランシャールと……」

「面倒だからエス、って呼ぶわね」

「え!?」

「あのね、そもそもの発端はお前たちなの。でもまぁ……良いわ、元々救うはずだった馬鹿がこちらの手を自分で離したのだから、力になってあげましょう」


 何だか、話がうまく進みすぎているような気もするが、だが、それでもいい。

 そう思って、エステルが少しだけ安堵してほっ、と息を吐いた瞬間だった。


「駄目だ、って判断したら容赦しない」

「――え?」

「聞こえなかった? エス、私、頭の悪い子……」


 リリムノワールは、そこで言葉を切ってから、一気に声を低くして続けた。


「だぁいっきらい」

「ひ、っ」


 それまでは、リリムノワールもどこか柔らかな雰囲気を持ってくれていた。だが、その言葉で一変した。

 馬鹿が嫌い、というのはどういうことか。言葉のままの意味であるなら、エステルは王族として、次期女王として、リリムノワールの言うことは素直に聞き続けるつもりだったのだ。

 たとえ、人外に力を借りなくてはいけない事態になっているとしても、頑張って国家として皆でやってきたのだ。


 かつて、もう今は滅びに向かっているかの国が、一番最初に加護を受け取り、今まで平穏に暮らし続けてきていた、という事実。

 それを、どうにか自分たちも享受したくて、必死にもがいてきた。

 だが今ようやく、それが叶おうとしている。手放してはいけないんだ、次の国の選定が行われたあの瞬間、またもや逃してしまった……と皆が絶望していたところに垂らされた、救いの手。


「(…………駄目、絶対に離してなんかなるものか)」

「……エス、お前は……()()()で、いてくれるわよね」

「は、い」


 直感的に『返事は早くしなければ』と察したので、エステルは即座に返事をする。口の中がからからに乾いているが、どうにか声は出てくれた。


「そう、なら……良いわ。力、貸してあげる」


『いい子』の詳細をきかないままではあったものの、エステルはぱっと顔を輝かせた。


 ああ、ニンゲンのなんとも愚かなこと。

 力を貸してもらえると思った途端の、この気の緩みようが、何とも愚かで可愛らしい。そうか、ルルティリアが話していたのは、こういうことだったのか、と今理解した。


「(……面白い暇つぶしが、出来た)」


 リリムノワールは、すい、とまた手を動かす。

 そうすると、彼女の周りにふわふわと精霊たちがやって来て、きゃあきゃあとじゃれついている。


「さぁ、遊び場を変えましょうね」


 その一言が合図となり、精霊たちはリリムノワールの言うことに素直に従う。

 これにより、少しづつではあるがエステルの国は災害に襲われづらくなっていくのだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「リリ」

「……ルル、どうしたの」

「貴女、勝手に国を変えたでしょう」

「変えた」


 うん、と素直に頷いたリリムノワールに、ルルティリアは困った、と苦笑いをする。


「まったく……変えるなら変えるで相談してちょうだいな?」

「……ん」


 こくん、と素直に頷くものの、これはあくまでルルティリアに対してだから、こうしているだけ。素直にいうことを聞く=その人が強いから。


「まぁでも……ちょっと実験をしましょうか」

「実験?」


 リリムノワールの問い返しに、ルルティリアはにっこりと嬉しそうに微笑んでみせた。

 一体何がどうなって、どういう風に実験をするというのだろうか。


「簡単なことよ。……お前たち」


 ルルティリアが手を動かせば、精霊たちが集まってくる。


「以前、わたくしが加護を与えていて、今は滅びに向かっている国があるでしょう? ……そこで、遊んでいらっしゃい。()()()()()……ね」


 その言葉が合図になって、精霊たちはきらきらと光りながらかの国の方向へと飛んで行った。


「それから……」


 呟いたルルティリアは、また手を動かした。


「リリ、貴女が見捨てた国」

「潰すの?」

「そうではないわ。……疑似的に加護を与えて、こちらの役に立ってもらおうかな……って思ったくらい」


 にぃ、と凶悪に微笑んでいるルルティリアは、楽しそうに行動を起こしていく。

 だが、別にリリムノワールは、リリムノワール自身が見捨てた国のことを憂いているわけではない。


「そっか、祈りが増えればこっちはもっともっと豊かになる」

「そういうこと」

「ルルティリアが、もっと強くなれるね」

「……ええ」


 二人は、微笑み合う。

 絶対的な強さこそがルルティリアたちの全てだから、容赦などしないままに色々なことを調整していく。

 ルルティリアとリリムノワール、二人が同時に生まれて、同じくらいの強さだったから、お互いがお互いを補い合っていたとも言える関係性だからこその、特別。


「さぁて、リリムノワール。貴女にはもっともっとあのニンゲンと親しくなっていてもらわないといけないのだけれど……」

「ルルティリアが、そう言うなら、良いよ」


 にこ、と無邪気に微笑んで、リリムノワールは素直に頷いた。

 ころりと寝転がって見上げた天井は、とても高く、何となく吸い込まれていきそうな感覚に襲われてしまったが、それが心地いい、とリリムノワールは誰に向けるでもなく、微笑んだのだった。

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