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FIND FIXER:切り札は、この掌の中に。  作者: パタパタさん・改
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最初の選択

 ・・・・何でこんなことになったのだろうか・・・・。


 そんなことを思いながら聖歌のアバター、もといカグヤはカードショップの虚空を見ながら過去を振り返る。

 

 先輩の誘いにホイホイ乗った結果何故かガチのカードゲーマーになることになってしまったと言う過去。

 

 どうしても先輩の誘った理由が「部の生存のため」という理由について納得がいかない様子だった。そりゃそうだろう。カグヤは桜星の次くらいには彩架の分厚い皮に気づいた人物だ。建前の裏にどんな本音が居座っているのかは分からないが、「部の生存のため」という理由はどうにも本当のようで本当ではないと言う気がしてならなかった。


 そんなことを思いながら横に居座り、さも何事も無かったかのようにニコニコの笑みを浮かべて振舞う彩架、アバター名『セツラ』を見る。


 「どうしたのカグヤちゃん?」

 

 「・・・何でもないです」


 そっと顔を背けて再び店長の”UW”に関する説明を聞く。


 『・・・・確かにカードゲームのカードが本物になって触れるのは凄い楽しそうだしモフモフだと思うし、あの戦争?だっけ?も凄い戦略性のあるゲームだとは思うけれども、急に『カードゲーマーになろう!』なんて言われたら、なぁ・・・・・』


 店長の台詞はカグヤの耳にはほとんど入っておらず、片方の耳から入り片方の耳から抜けていくと言うトンネル頭状態だった。それほどまでに、カグヤにとってはテンポの速すぎる進展だったのだ。

 だがしかし、何も被害者はカグヤだけではなかった。


 隣に居る桜星、アバター名『レッドワーフ』もその内の一人だからだ。


 レッドワーフはカグヤによって半ば無理矢理連れてきた幼馴染である。最初こそUWに行くことさえも渋っていた彼だったが、カグヤによる猛粘着により陥落。だが自我を取り戻し、”部の生存のため”という名目でUWをやらせようとするセツラから逃げようとするも、カグヤが「一人じゃ心寂しい」と粘ったためまたもや陥落。

 そして現在、死んだ魚のようなDHAが沢山入ってそうな目で店長の話を聞いている。


 『ごめんよ桜星君まきこんじゃって・・・・』


 心の中で手を合わせて謝罪をするカグヤ。その心が彼に伝わっているはずもなく、レッドワーフは時折軽く溜息を吐きチラッとカグヤを見る。『よくも僕まで地獄に引きずりこみやがって・・・』という目をしていた。

 

 大体彼が遊戯部に入ったのも、半ば強引にカグヤが勧めてきたからである。


 色々迷惑かけちゃってるなぁと、カグヤはレッドワーフに申し訳なく思っていると店長があらかた説明を終えたのか、二人の前に『特別指導講演(チュートリアル)』でも見たカードケースをいくつか並べる。

 それぞれ色は白で統一されているようだが、明らかに違うのはそのパッケージに書かれてある文字だった。


 「なんですかこれ?」


 カグヤがのどまで出かかっていた言葉をレッドワーフが代弁する。レッドワーフは人差し指で手短にある白いカードケースを小突く。なんとも面倒くさそうな声だったが、店長はそんな反応も気に留めず淡々と嬉しそうに説明する。


 「これは『改訂記念の特別指導講演(チュートリアル)』を見てくれた人限定で選ぶことが出来るスタートデッキさ。種類は沢山あるよ。可愛いキャラと戦いたいなら【UMA】とか【天使】。格好良さや武力的な方面で行くと【暴走龍】や【冒険者】。質より量の人には【迷宮】とかだね」


 店長が説明するにはこのデッキは他のデッキとは違い、パックに入っている激強カードが封入されていて、そのまま大会に出場してもかなり戦えるデッキとのことだった。チュートリアルに参加してくれた人が限定でこれらの内一つを貰えるのだ。

 そんなことを説明し終わると、説明の一部分に違和感を持ったアバターが声を出す。


 カグヤだった。


 カグヤはどうにもこうにも言えないような表情で店長に問いかける。


 「大会って、このVRでも大会とかがあるんですか?その大会の賞ってどれくらい凄いんですか?」


 「うん、あるとも。地区的な話じゃなくて、単純に世界規模で。半分国々の政府達が情報管理してるからこの世界で王位保持者にでもなったらそれこそ”国が認めた賞”に匹敵か、ノーベル賞程の肩書きが手に入る。今の王位保持者もその肩書きで有名大学の情報科を推薦で受かっているしね。やっぱりゲームでも1,5億人の内の一番ってむちゃくちゃにやばくてすごいことなんだ」


 即答だった。どうやらこの世界、インターネットを通じて他国のプレイヤーとも”UW”が出来るようで、年に一回世界大会が開かれているのだ。

 半信半疑だったサクヤの言葉が真実味を帯びたことにレッドワーフとカグヤが驚きの表情を作る。


 カグヤがぐるっとサクヤを見ると、セツラは胸を張って「だから言っただろう?」という目線でカグヤを見る。


 そう、この視線が指し示す意味は――、


 「大会で賞を受賞すれば”本当に”現実の賞として判定される。だから遊戯部は生存する事が出来るって、”そういうこと”なの!?」


 建前に見えて実は建前でもなく案外本音だと、カグヤは確信する。

 つまり、最初からセツラは最初から「遊戯部の存続」を掲げて二人を誘ったと言う事だ。

 そのカグヤの答えにセツラは「どーだろーねぇ」と、かなり曖昧な返事を返す。だが、目を逸らして知らんぷりをする辺り少なくとも本心はそのあたりにあるのだろう。


 セツラのそんな態度を見てカグヤは「まったくもー」と息を吐く。


 「最初から救済措置を用意してくれていたのに気づかなかった私もだけど、全く!日ごろの行いが原因だと思うの!だよねレッドワーフぅ!!」

 

 「なんでそこで僕・・・、まぁ面倒くさい性格してる人だなぁとは思うよ」


 「そんなに私の言ってることって信用できないのぉッ!?」


 「「もうそれは、はい!」」


 二人の堂々とした返事にセツラは「ギャー!」と、謎の悲鳴を上げる。


 そんな光景を見ていた店長が呆れ声で呟いた。


 「セツラちゃん、学校でどんな感じなのか想像つかなかったけど・・・大体分かった気がする」







 一人の尊き犠牲を払い、カグヤ達は本格的にデッキ選別をし始める。

 

 具体的にどんなスタートデッキがあるのかというと、だ。


 可愛い&強い&安定重視のテーマ【UMA】。

 武力は全てを解決するテーマ【暴走龍】。

 絆による怒涛の連携連続攻撃テーマ【冒険者】。

 大量のモンスターと大量トラップのテーマ【迷宮】。

 大量の豊富な魔法を使うロマンテーマ【魔法使い】。

 盤面制圧力の高いテーマ【魔王】。

 防御と制圧力のテーマ【聖域】。

 回復力をメインに据えたテーマ【天使】。

 展開力&攻撃力のテーマ【ドラゴン】。

 効果ダメージメインのテーマ【悪魔】。


 この10個である。


 「う~ん、どれが良いんだろう・・・。チュートリアルで使ってた【暴走龍】とか・・・?でも可愛くないし怖いし、・・・・天使?いやここは悪魔とか?天使はイケメンだし、悪魔は可愛いし。どーすればいいんだ・・・・???」


 「これだ!と思ったものを選べばいいのさ!!下手に環境テーマとっても好きじゃなきゃ上手く扱えないし、引きたいときに欲しいカードが引けないからねぇ!!」


 「そんなもんですかね・・・・」


 カグヤは頭を悩ませながら店長の話に耳を傾ける。難しい顔をしながらカグヤが厳選したのは【悪魔】、【天使】、そして【冒険者】だ。此処からさらに一つに絞らなければいけないと言うのがまた辛いものだ。

 そしてそんなカグヤを尻目にレッドワーフはスタートデッキを一通り眺めると、カグヤよりも難しい複雑な表情になった。


 「”妨害”系って無いんですか?」

 

 気づけばそんなことを店長に聞いていた。ずっと中々自分から話さないレッドワーフが口を開いたのもあり、セツラもカグヤも聞き耳を立てた。


 店長はレッドワーフの質問に「うーん」と唸りながら一つのデッキを取る。


 「”妨害”系のスタートデッキは基本置いてないな・・・。改訂前は平気であったんだけどね」


 「何でですか?」

 

 「う~ん、これは店主の僕も分からないんだけどね・・・。聴いた話だと、初代キングのエトワール君の影響を受けて妨害デッキを多用するプレイヤーが激増して、環境の上位層が全部”妨害”主軸のデッキで溢れかえって、いくら新しいロマンや連続攻撃系の新規を流しても環境に流れないから仕方なく、環境を改善するために運営が”妨害”全般をかなり低い封入率にしてパックに入れたとかだったっけ?・・・・ごめんよ。僕まだ就任して二年くらいだから詳しくは分からないんだ・・・・」


 シュンと項垂れて謝る店主にレッドワーフも「なら、仕方ないか」と残念そうに言った。


 その光景を見てカグヤは隣でカグヤの選ぶデッキを見ていたセツラに聞く。


 「先輩、”妨害”って何ですか?」


 「聞いての通りだよカグヤちゃん。妨害は相手の行動を制限するカードのジャンルの事だよ。私がまだ中学一年生くらいの時は平気で「相手がドローした時、相手のターンを飛ばす」とかヤバいこと書いてあるカードが蔓延ってたなぁ・・・・」


 「えぇ・・・・」


 その台詞を聞き、カグヤは未来にある「大会による賞の受賞」という目標がかなり遠くなったのを感じた。だがしかし、それが間違いだったと言うことがすぐに分かった。


 「”だから”の改訂だよ。昔の強すぎるカードは粗方片っ端から”禁止カード”っていう、『デッキに一枚も入れてはいけないカード』に指定されたから、今はそんなに”妨害”は環境に出回ってないよ。それこそ馬鹿強いカードは論外だけどね」


 「よ、良かった・・・・・」


 脱力するように息を吐くカグヤ。それに対してレッドワーフはあまり、良い顔をしていなかった。


 「まぁ、”妨害”に似てるのならこの【魔法使い】だな。相手のターンにも使える対抗魔法(カウンターマジック)が大量に入ってるし、ある程度墓地に魔法を溜めたら凄いことが出来る」


 店長が沢山のデッキの内の一つ、今さっき取ったスタートデッキを渡す。レッドワーフは”妨害”の禁止入りや封入率の低さと言う現実に打ちのめされかけたが、それでも立ち直り店長から渡された【魔法使い】デッキを受け取った。

 そしてスタートデッキの裏に書いてある内容カード表を見てほくそ笑んだ。


 レッドワーフが何か悪さを企んでいるとは知らずに、カグヤは目をつむって三つのデッキに呪文を唱えていた。


 「て~ん~の~か~み~さ~ま~の~い~う~と~お~り~・・・・・・コレだッ!!」


 バッと目を見開いて最後に刺されたデッキを摑む。


 それは―――、


 【冒険者】デッキだった。

 

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[気になる点] セツラとサクヤがまじってます。
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